第22話 遂に来ました

 突然だが、孤児院には風呂がある。


 以前も述べた通り、この世界は上下水道等のインフラ設備は整っている割に、料理や科学技術等の文明は発達していない。


 科学技術の代わりに魔法技術が発達した事で、銃やら発電システム等が発達しなかったのはわかるし、治癒魔法があるから医学が発達しなかったのもわかる。


 そんな中で、上下水道があり水洗トイレや風呂があるというのは凄くありがたい。


 ありがたいのだが…この状況はいかんともしがたい。


「ジュン~?ちゃんと頭洗った?」


「…洗った」


「じゃあ早く湯舟に入っちゃって~」


 一般的に御風呂のお湯は生活魔法で出す。


 孤児院では生活魔法が使える存在が院長先生、ジェーン先生、ピオラが居る。


 最近では院長先生に教わった体で生活魔法を使えると公表し、四人で湯を張っている。


 俺以外の三人には生活魔法で湯を張る、というのは中々に大変なので一人一人御風呂に入る、というのは叶わず。


 大体三人一組で入るのだが…これが非常によろしくない。


「ほ~らユウ、お湯につかるよ~はい、ドボーン」


「…あちゅい」


 今日は俺、ジェーン先生、ユウの三人で入っている。


 俺は今、七歳。ユウは三歳。だからユウは別にいいんだ。三歳の子供にドキドキしたりしないし、見られたってなんとも思わない。


 なんか妙にユウの視線を感じる気がするが…それは良いんだ。


 だが、しかし…ジェーン先生はまずい。


「ジュンはいつも御風呂だと大人しいわね。なんでそんなに恥ずかしがってるの?」


「…別に」


 そりゃ直視出来ませんから!


 この世界、どういう訳か美女、美少女が多い。


 院長先生も四十代後半だけど、見た目はずっと若いし美人だし。


 ピオラも十三歳になってグッと女らしくなってるし、美少女と言って差し支えない。


 そしてジェーン先生も一児の母とはいえまだ二十五歳。まだまだ若々しく、そこそこ美人さん。そんな人と一緒に御風呂に入るいうのは…なんともアレなわけで。


 かと言って、クリスチーナやアム達と入る訳にも行かない。俺が男だとバレるからである。


 つまり、俺は院長先生かジェーン先生かピオラの誰かと毎日御風呂に入らねばならないのだ。

ユウはまだ三歳で男女の違い等、よくわかってないだろうからという事で一緒に入っているが…そろそろ入らなくなるだろう。


 しかし、だ。そろそろなんとかしたい、この御風呂問題。


『贅沢な悩みやなぁ。素直に眼福って思っとけばええんちゃうの?』


 そんな図太い神経してないんだよ!特にピオラと入るのが背徳感がやべえの!


『発育ええもんなぁ、ピオラ。マスターがマヨネーズとジェンガの特許取った御蔭で孤児院の食卓事情は大幅に改善したし…栄養はたっぷりとって育ってるからなぁ』


 それはクリスチーナとアム達も同じで。

四人は現在十歳。クリスチーナは断トツの美少女だし、十歳にして十三歳のピオラより背が高い。


 アム、カウラ、ファウもこの一年で急成長。

三人共に美少女と言っていいくらいに可愛いし、アムに至っては既にブラジャーが必要な程だ。

将来は爆乳猫娘になるに違いない。


 そして、この世界の女性達は…羞恥心に乏しい。


 クリスチーナ達子供に限らず、ジェーン先生ですら風呂上りは薄着…下着姿でうろついてる事が多いし、ピオラも同じだ。


 きっちりしてるのは院長先生くらいで、むしろ男の俺の方がきっちり服を着てる。


 俺は男だとバレるわけにいかないので、そうしてるのだが…俺を女だと思ってるクリスチーナ達にとっては、俺の方が変わってるらしい。


 女なんだから、風呂上りくらいもっと薄着したらどうだとか言われ脱がされそうになった事もある。


 これは別にクリスチーナ達がおかしいのではなく、クリスチーナ達が一般的なのだ。


 以前、アム達が住んでた家に行った際に出て来た女性がパンツ一枚だったように、夏場や風呂上りはアレで普通。


 五歳で初めて街に出て以後、何度か街に出たが薄着の女性の多い事。


 この世界、働き手は女性ばかりで商店の従業員も事務員も女性なら建設現場の作業員なんかも女性。


 そういった肉体労働に従事してる女性は上はタンクトップ一枚でブラジャーもしてない女性なんてザラに居たし、なんなら上半身裸の人も居た。


 酒場なんかは季節に関係なく裸になる女性も多いし…ある意味で男の理想郷かもしれないが…男だとバレるわけに行かない俺にしたら目のやり場に困るだけである。


 そして街の女性達も美人ばかり…その人達と比べてもクリスチーナは群を抜いた美人になるだろうし、ピオラにアム達だって美人になるのは間違いない。


 どうしてこの世界、美人ばかりなのか。それにはなんと理由があった。


 メーティス曰く…


『血の存続、生物が持つ根源的な本能が刺激された結果やな。前にも言った通り、この世界は極端な女余り。そんな中で自分の血族、子孫を残す為にはより美しく、より男を惹き付ける存在であろうと本能が遺伝子レベルで刺激され、脈々と受け継がれて来たんが、この世界の女達や』


 との事だった。


 理由としてわからなくはない。しかし、だとするなら男の方も同じなのでは?

だが聞いた話では男は数こそ少ないものの顔面偏差値は低く、美少年や美青年は宝石よりも貴重。


 故に俺が男だとバレたら狙われると言う話なのだが…男が美少年、美青年ばかりじゃないのにも理由があった。


『そら男だってだけで女が寄って来るんやから、美しくある必要があらへんもんなぁ。野生動物で例えるなら、メスが狩りして獲物を獲って来るからオスはどんどん弱体化して行ったって感じか?せやからこの世界の男は軟弱なんが多くて、だらしない身体の奴ばっかりなんや。マスターみたいに美少年で理想的な身体してる奴なんて…おらんな。この世界の女からしたらマスターは極上の男やねんで?』


 女とは逆に男は種の存続という本能が薄れて行き、男として弱体化していったと…そしてそれも遺伝子レベルで受け継がれて行き…という事らしい。


 ほんまかいなと疑いたい気持ちもあるが、現実にそうなのだから、これも異世界の理ファンタジーだと思って受け入れるしかないだろう。


 御風呂問題に関しては早急になんとかしなければ、と思うが…新たに一人用…俺専用の風呂とか作ってしまうとかどうだろうか?


 そんな事を考えて過ごしていたある日、遂に試練の時がやって来た。


「…私も、教会で?」


「はい。クリスチーナさん達もジュンさんと一緒が良いと仰ってますし、聞けばジュンさんは勉強が得意だとか?年下なのにクリスチーナさん達に勉強を教えているのなら学べる事は少ないかもしれませんが、是非御一緒に」


 ピオラがエロース教会で勉強してるのに続いてクリスチーナ達も勉強に行ってたのだが…少し早いが俺にも勉強に来ないか、とエロース教のシスターが直接お誘いに来た。


 いつかは行かなきゃいけないとわかってはいたが…どうするべか。

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