第24話 決闘しました

「先ずは謝罪を。神子様が御迷惑をおかけしました。申し訳ありませんでした」


「「「「申し訳ありませんでした」」」」


「あ、いえ…えっと、はい」


「謝るべきは神子であってシスター達じゃないと思うがね。謝罪を受け入れるよ」


 ただのデコピンで気絶した神子が運ばれた後、俺達孤児院組は別室に通され、司祭とシスター達に謝罪を受けている。


「それから、そちらの…」


「ジュンです」


「ジュンさん、貴女には……」


「待ってください。ジュンの事ならば私を通していただきたく」


 そこで院長先生が合流した。事は中々に大事なので保護者の院長先生をカタリナの従者ファリダさんが呼びに行ってくれたのだ。


「ごめんなさい、院長先生…」


「いいえ。ジュン、貴方は何も悪くないわ。後は私に任せて」


 どうやら院長先生は話は全て聞いているらしい。何か、堅い決意のようなものを感じさせる。


「お久しぶりですね、院長先生」


「ええ、ご無沙汰しております、司祭様。早速ですが、エロース教にはジュンに対して一切手出しさせません。例え教皇猊下が相手だとしても」


 …うわお。この世界の最大宗教のトップと喧嘩するつもりか。


 やべ、院長先生かっこいい…


「勘違いなさらないでください。私どもにはジュンさんをどうこうするつもりはありません。むしろ逆です」


「逆?」


「はい。ジュンさん、神子様の暴走を止めていただき、ありがとうございます」


「「「「「ありがとうございます」」」」」


 司祭様を始め、シスター達とシスター見習い達も一斉に頭を下げた。


「…どういう事なのです?」


「説明しましょう。ジュンさんに倒された神子様は最近このノイス支部に赴任なさったのですが…赴任されてからずっと問題行動ばかりで、ほとほと困っていたのです」


 詳しい話を聞いてみると。


 元々あの神子…マイケルはエロース教本部付きの大司祭の息子故にエロース教本部の神子だったのだが我儘な性格で度々問題を起こし、ほとぼりが冷めるまで本部から飛ばされ、このノイス支部に来たのだとか。


 しかし、此処に来てからもやりたい放題で。

今回のように信者に手を出そうとしたのも初めてでは無く、シスターに手を出すのはまだしも見習い達にも手を出そうとして注意したばかりだったとか。


「だからジュンさんが神子様を倒した時は本当にスッキリしました!」


「まだ小さいのにお強いんですね!」


「はぁ。どうも…」


 特にシスター見習いの女の子達からの感謝の熱が凄い。

余程に嫌な目にあっていたらしい。


「実は既に通信で本部には抗議済ですし、抗議を兼ねた報告書も送ってあります。神子様は直ぐに本部へ送還となるでしょう。院長先生も心配ありませんよ」


「…そうですか。なら良かったです」


「良かったわね、ジュン!まぁ、もしエロース教が何か言って来たらあたしに言いなさい!お母様に言ってなんとかしてもらうわ!」


「お嬢様、それは……いえ、今回は大丈夫でしょう。お母様もお認めになるかと」


「当然よ!で、でも勘違いしないでよね!ジュンの為なんかじゃないんだからね!」


 カタリナのツンデレムーブはいいとして…カタリナのお母さんて、エロース教のお偉いさんが何か言って来てもなんとか出来るの?


 そんな権利者ならやっぱり貴族…それもかなり上位の?


 …いやいや、まさかね。


「そうはいかん!」


「神子様?目が覚めたのですか」


「「「「チッ」」」」


「今、お前ら舌打ちしなかったか!?」


 ピオラやクリスチーナ達だけでなく、シスター達からも舌打ちでお出迎えされる神子。


 男ってだけでチヤホヤされる世界でこんだけ嫌われるってお前…相当やで?


『シスターらは今までの積み重ねやろけど、ピオラらはマスターを殴ろうとしたからやろ。因みにわいも嫌いや』


 ああ、うん、なるほど。


 ピオラ達からの殺気が凄いわけだ。アム達はどこから持ち出したのかわからないが木の棒で武装してるし、ピオラは眼力がヤバい。眼で殺されそうだ。


「ちっ…どいつもこいつも…我は神子だぞ!お前ら女は黙って我に股を開いていればいいのだ!」


「それは違います。とてもエロース教の神子の言葉とは思えません」


「何ぃ!」


「確かに、エロース教の教えでは男性とは奉仕対処、護るべき存在と思われても仕方ありませんし、そういう側面もある。神子ならば尚更です」


「そうだろう!だから我を――」


「ですが、エロース教の本質は女性に対する救済です。女性に寄り添い、救いの手を差し伸べる…その一助として神子様が居るのです。その尊い御立場故に、エロース教において高い地位と権力を得られる神子様ですが…決して女性をおもちゃのように扱ってよい筈がありません」


「なっ……そっ、んな…」


 …そう言われると真っ当な宗教に聞こえるけど…やってる事は女性用風俗業だからなぁ…確かに救いにもなってるんだろうけども。


「神子マイケル様。これまでも数々の問題を起こした貴方は神子様に相応しくない。今回の事で神子様の教育機関に再送還、教育のやり直しとなるでしょう」


「ふ、ふん!無駄だ!我の母は大司祭だぞ!そんな報告、握り潰すのはわけない事だ!」


「その御母上からの要請でもあります」


「…は?」


「貴方の御母上は上昇志向が強い。男児の貴方が生まれてすぐに神子としてエロース教に入信させた功もあって大司祭にまで登り詰めましたが…更に上に行くには貴方が足を引っ張っている。そう判断されたのでしょう。貴方が態度を改めないようなら教育機関に再送還もやむなしと了承を頂いています」


「う、嘘だ!母上が…ママがそんな事言うはずがない!」


「事実です。本部からこちらに来る前、大司祭様から何か言われていませんか?それに私も、何度となくご忠告申し上げたはずです」


「……」


 思い当たる節があったのか、ようやく自分が置かれた状況を理解したらしい。


 助けを求めて周りを見回すが…当然誰も助けない。


 が、俺と目があった神子はまた阿呆なことを宣った。


「き、貴様だ!貴様のせいだ!貴様が邪魔したからこんな事に!」


「いや…なんでやねん」


 阿呆なの?阿呆だったわ…


「こうなったら…貴様に決闘を申し込む!」


「はっ?」


 投げつけられた手袋を思わず受け止めてしまう。


 この世界でも決闘の申し込みって手袋を投げつけるなんだ…へぇ~…って、いやいやいや!


 この世界において男が女に決闘!?俺は男だが…阿呆じゃないの!?いや阿呆だったわ!


『お、おう…いや、想像を超える阿呆やったな。皆も呆気にとられとるで』


 この世界…いや、アインハルト王国でも決闘は認められてはいる。


 しかし、大体が貴族同士が揉めた際の解決手段として用いるものだし、それも滅多に行われない。


 ましてや男が女に、なんて…もしかしたら前代未聞では?


「ふっ!受け取ったな!これで決闘は成立だ!誰にも邪魔は出来んぞ!」


「…はあ。でも私と決闘して勝ったとして…何か変わります?」


「貴様が全面的に悪いと認めろ!そうすれば我は再送還されずに済む!相手が非を認めているのに我が悪いかのように再送還されるのはおかしな話だからな!」


 ……一応、考えがあっての事なのか。司祭様が顔を横に振っているのを見るに、望みは薄そうだが。


「だ、ダメ!ジュン!決闘なんて危ない真似、お姉ちゃんは認めないからね!」


「い、いや、しかしだよ、ピオラ姉さん…ジュンは手袋を受け取ってしまった。ならば決闘は受けないと、逆にジュンが罰せられてしまう」


「ジュンなら大丈夫よ!なんせあたしに勝った…じゃない!あたしと引き分けしたんだから!男なんかに負けないわ!」


「だな!あたいらのジュンが負けるわけねぇよ!」


「うん!ジュンは負けない!」


「がんば」


 ピオラ以外はやっちゃえ派らしい。院長先生は…


「ジュン…ヤってしまいなさい」


「イエス・マム!」


 院長先生が底が見えない深淵のような眼でGOサインを出した。


 まさか優しい院長先生があんな…親指で首を掻っ切るサインを出すなんて。


 本気でキレてらっしゃる?


「ふ、ふん!本気でやるつもりか?今、非を認めるなら痛い目に遭う事は無いぞ?」


「強がるなら、その震えた足をなんとかしなよ…此処でやってもいいけど、一応裏庭にでも行こうか」


 そこで全員庭に移動。神子のマイケルと俺が対峙するのを皆は少し離れた位置で見守っている。


 ピオラは暴れてアム達に抑えられているが。


「で、決闘のルールは?」


「どちらが負けを認めるか戦闘不能になるか、だ!武器を使ってもいい!魔法もな!」


「うい、りょーかい。因みに私が勝ったら…ピオラとクリスチーナ、それから司祭様とシスター達全員に土下座して謝罪だ」


「なっ…い、いいだろう!我が負ける事などないのだからな!」


 何処から来るの?その自信…神子として生きてきたなら戦闘訓練なんて受けてないだろうに。


「それでは…始め!」


 決闘の立会人に選ばれたのは騎士爵位を持つゼフラさんだ。


 彼女の合図で決闘が始まり、マイケルが何かを取り出した。


「見せてやる!エロース教の至宝の一つ!麗しき男子の守護者リビング・アーマーズ!」


 マイケルが五個の宝玉を取り出し、地面に投げると剣を持った中身の無い全身鎧が五体現れた。


 なるほど、魔法道具…これがあったから自信満々だったのか。


「フハハハ!こんな事もあろうかと!本部の宝物庫から持ち出しておいたのだ!全ては我の聡明さと智謀が招いた結果よ!」


 こいつ…自分で自分の罪を暴露していくスタイルか?どう考えても犯罪だろ?だって無断で持ち出したって事だよね。


「よし、やれ!そいつを八つ裂きにしてしまえ!」


 来るか…しかし、考えてみればこれってチャンスじゃね?


 俺Tueeeeeのチャンスが来たんじゃね?


『ああ…いや、でもあんまし派手にやると色々なとこから眼ぇつけられるから、ほどほどにな?』


 やっべ、燃えて来た!よっし!ドンとこんかい!


『聞いてるか?マスター…聞いとらんな…』


 聞いてる聞いてる!さぁ!ドカンと一発……来ないな?


「ど、どうした?!何故動かん!やれ、やってしまえ!」


 マイケルの命令に従わないリビング・アーマーズ…どうなってる?不良品か?


 …なんか、期待外れだな…俺Tueeeee出来そうにない。


「全く…とんだポンコツだな、こいつめっ…うん?」


「な、な、な、なにぃぃぃ!?」


 俺が動かないリビング・アーマーズをこつん、と叩くと一斉に俺に跪いた。


 どうなってんの?


『多分…出現させてから触れる必要があったんとちゃうか?そうしてから命令せんとあかんのやろ、多分。知らんけど』


 なるほど…やはりマイケルは阿呆らしい。


 でも、なんか司祭様とシスター達も驚愕してるのが気になるな?


 ま、もういいや…とっとと終わらせよう。


「な、かっ、そ、そんな…く、来るな、来るなぁ!」


 切り札はアレだけだったのか?よくそれで聡明だの智謀だのほざけたな。


 せめてもう一つくらい何か用意しとけよ。


「来るなと言っているだろう!ええい!女子絶対不可侵アブソリュート領域フィールド!起動!」


 まだ隠し玉はあったか。今度はバリアか?


 でも、なんともなく入れそうだが…なんて言うか、受け入れられそうな感じ。


「こ、今度こそは!これで貴様は我に近づけは……な、なあああにいいい!?あべしっ!?」


「…だから、こんなんで気絶すんなよ…」


 何がしたかったのか、よくわからんが…バリアっぽいのは何の効果も無かったので普通に歩いて近付いてデコピンしてやった。


 カタリナはおろか、ユウだって泣かないようなデコピンで気絶…情けなさ過ぎるだろ。


「ふむ、此処までだな。勝者、ジュン!」


「うおお!なんかよくわかんねぇけど、ジュンが勝ったー!」


「フフフ…私はジュンが勝つと信じていたよ」


「当然の結果よ!し、心配なんてしてなかったんだから!」


 みんな、口々に褒めてくれる…のだが、ピオラは不機嫌そうだ。


 後でフォローが必要か…


「御迷惑をおかけしましたね、ジュン…さん」


「司祭様?」


 司祭様が何か、こう…探るような眼で俺を上から下まで見ている。


 後ろで控えているシスター達も何やら様子がおかしい。


「あの…何か?」


「いえ…神子様にはまた後日、必ず謝罪させます。今日は気絶してますので、申し訳ありませんが…新たに追求しなければならない事も出来ましたし」


「ああ、はい」


 でしょうね。宝物の無断持ち出しって…神子でも相当な罪になるんだろうな。


 送還されたら、もう会う事もないだろう。


「さ、時間食ったけど、そろそろ帰ろうっか」


「そうね。帰ったらジュンはお説教だからね?」


「いや…ピオラ姉さん…今回はジュンを褒めてあげてもいいんじゃないかな?」


「そ、そうだぜ姉御!ジュンが勝ったんだし、それでいいじゃねえか!」


「ピオラお姉さんとクリスチーナを護るためだし…」


「許すべき…」


「それはそれ!これはこれ!」


 ピオラ的には決闘を受けたのがどうしても許せないらしい。


 結局、帰ってもプリプリしてたピオラを院長先生がなだめるまで説教された。


 そして後日、しっかりと皆の前で土下座させられたマイケルは教会本部へ送られた。


 その後、処遇が決まるらしいが…神子の地位の剥奪も有り得るらしい。


 やはり宝物の無断持ち出しがトドメだったようだ。


 そして、俺達はそれからは特に問題無く教会で勉強が出来てはいる…のだが…


「ジュン様、こちらをどうぞ」


「ジュン様、こちらも如何です?」


 何故かシスター達が俺を様付けで呼ぶし、妙に優しい。


 アム達から不満が出た事で数日で収まったが…一体なんだったのやら。

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