第20話 激オコでした

「今日も来たわよ!」


「やぁカタリナ」


「おはよ、カタリナちゃん」


 カタリナが初めて孤児院に来た日から一年。今ではもうすっかり孤児院に馴染んでいる。


 孤児院には他にも遊びに来る子供…主にピオラの友達やお隣りのエロース教会のシスターの子供達なんかも来たりするので、その子達とも仲良くなってたりする。


 出会った時のわがままっぷりはまだまだ健在だし、何処の家の子なのかはまだ教えてくれないが。


「ジュン、早く遊びに…じゃなくて勝負しに行くわよ!」


 この一年…ずっと勝負勝負と言ってるが、もうただ遊んでいるだけだ。


 俺は体力トレーニングを始めた事を理由によくお断りしているのだが。


 断ったら泣きそうな顔をするので、なんだかんだと付き合わされてる。


「ほら、早く!…って、何作ってるの?」


「おもちゃ」


 そんな状況を打破すべく、メーティスと相談した結果、夢中になるおもちゃを与えればどうか、となった。


 そこで作り始めたのが…ジェンガだ。

木材と彫刻刀は簡単に手に入った。均一の大きさに作るのも高スペックなボディとメーティスのサポートの御蔭で簡単に出来る。


 1セットじゃ数人しか遊べないので、3セット作る予定。


 今が2セット目だ。


「ほう。器用だな、君は」


「本当に。全部同じ形に、同じ大きさですよ」


 カタリナの護衛の騎士さんと従者もすっかり顔馴染みだ。


 カタリナは毎日遊びに来るわけじゃないが、来る時は必ず二人も一緒だ。


 騎士さんがゼフラさん。従者さんがファリダさん。


 二人共に現在十九歳。


「そう?ただの小さな木の棒じゃない」


「それに…これでどうやって遊ぶんだい?」


「じゃあ一度やってみよっか」


 ーー三十分後ーー


「くっ…も、もう少し……あっー!」


「はい、またカタリナの負けー」


「ぐぬぬぬ…こ、こんなのつまんない!外に遊びに行くわよ!」


「いやいや、カタリナ。これはよく出来てるよ。ジュン、これも商業ギルドに登録しよう」


「確かに。これは売れるだろう」


「大人の私達でも楽しめますしね。良かったらこれ、売ってくれませんか?」


 と、まぁ…カタリナ以外には概ね好評。


 またクリスチーナの名前で登録することになった。


 商業ギルドに登録、というのを慣れてるように見えたゼフラさんが前にもした事があるのか?と質問してきた。


「うん?あのマヨネーズも君が作ったのか?」


「凄い!私、マヨネーズ大好きなんです!」


 この一年でマヨネーズも大分普及され、俺達は孤児院の子供にしてはかなりの大金を持っていた。


 特に商業ギルドに口座のあるクリスチーナは凄い額になってる筈だ。


 特許って、凄いよね。


「なぁ、ジュン君。君は何者なんだい?」


「はい?」


「一年前、君と出会ってから思ってたが君は不思議だ。お嬢様に握力で勝てるのも異常だが、このおもちゃといい、マヨネーズといい。とても六歳の子供とは思えない」


「あたしは負けてないわよ!」


 マヨネーズの時にも、似たような質問されたな。


 夢に神様が出て〜…はダメだったか。


「それは…ひ・み・つ、です」


「…そうか。何か言えない事情があるのだな。わかった」


 何がわかったんだろう?まあ、これ以上追求して来ないならいいけど。


「ねぇ!それよりも!早く外に行くわよ!」


「はいはい」


 折角作ったジェンガだがカタリナに不評だと作戦失敗になるか。無念だ。


『大丈夫やろ。従者さんが買ってくれるみたいやし。そしたら家で練習してリベンジしに来るやろ』


 …俺にリベンジしに来たら意味なくない?


「そう言えば今日は院長先生が見えないが?」


「ああ、院長先生は朝早くに出掛けました」


「そんなに遅くならないって言ってたけど…あ、帰って来た」


「子供と一緒だな」


 カタリナに急かされて孤児院の外に出てすぐに。


 院長先生が三人の子供を連れて帰って来た。


 …このパターンはアレですよね、やっぱり。


「お帰りなさい、院長先生。その子達は…」


「ただいま、みんな。この子達は今日から孤児院で暮らす事になったの。仲良くしてね」


 予想通りだった。三人共に、表情は昏い。


 聞かなくとも、家族に不幸があったのだろう事がわかる。


 だが、俺は三人の内、二人に視線が釘付だ。


「あなた達は遊びに行くの?」


「あ、うん。そうなんだけど…」


「なら、三人も一緒に―――」


「あたいは行かない」


「わたしも…」


「……」


「そう…」


 院長先生が悲しげに三人を見る。


 いや、カタリナと俺以外の皆がそうだ。


 カタリナは早く遊びに行きたくてしょうがないってだけだが、俺は違う。


 俺は衝撃を受けていた。


 なんと、三人の内の二人は…獣人だったのだ!


 一人は黒髪のショートカットに猫耳?多分、猫耳があり、他の二人を庇うかのように前に出てる。勿論、尻尾もある。


 もう一人はうさ耳!間違い無くうさ耳だ!焦げ茶色のうさ耳と髪のセミロングポニーの女の子。この位置からは見えないが、多分尻尾もあるんだろう。


 もう一人は二人に比べて背が低いが普通の人間だろう。

赤毛で髪の毛が多く、三つ編みが四本もある。


 この世界に獣人やエルフやドワーフなんかが居るのは聞いていたが実際に会うのは初めてだ。


 やはり異世界転生と言えば獣人やエルフ、ドワーフとの出会いは必須!


 より異世界転生らしくなって来たなぁ!


「おい、てめぇ。何ジロジロ見てやがる」


「あ、ああ、ごめんね」


「チッ」


 この猫の獣人っぽい女の子には警戒されてしまったらしい。


 いや、俺だけじゃなく全員睨んでるし、元々荒っぽいのか?


 それとも孤児院での生活に不安を感じているが故に、攻撃的になっているのか。


「ねぇ、早く行くわよ!来ないって言うなら放っておけばいいじゃない!」


「ああ?んだとテメェ!」


 カタリナの発言に猫獣人の子が食いついた。


 この子は見た所…クリスチーナと同い年くらいかな?


 しかし、カタリナ…もう少し空気読んで、いや、無理かぁ。


 六歳の子供にそんな事求めても無理があるよな、うん。


「うっ、グスッ…ヒック」


「あっ、ファウ…テメェ!よくもファウを泣かせやがったな!」


「ええ!?あ、あたし?あたしは何にもして無いわよ!その子が勝手に泣き出したんでしょ!」


「こ、このっ!」


「おっと、それはダメ」


 ずっと無言だった赤毛の女の子が泣き出したのを見て、猫獣人の子がカタリナに激怒。


 殴ろうとするのは流石にやり過ぎなので、手を掴んで止めておいた。


 まあ、俺がやらずともゼフラさんが動いただろうけどさ。


「こ、この!離しやがれ!…あっ!」


「ん?…ああ」


 猫獣人の子が無理やり手を振り解こうとした時に、爪が俺の頬を薄く裂いたらしい。


 少し血が流れていた。


「ちょっ、ジュン!大丈夫なの!?」


「え?ああ、うん平気平気」


「なら良かった。でも、一応消毒した方がいいだろう。一度戻ろう…ピオラ姉さん?」


 …あ。ピオラがやばい。


「あ、あたいは悪くねぇぞ!そいつが、ふぎゃ!」


「正座」


「な、なにしやがっ、ひぎゃ!」


「正座」


「な、何言って…」


「早く正座しなさい!!」


「ひにゃっ!」


 …俺が怪我したのを見て、ピオラがキレてらっしゃる。それはもう激オコである。


 猫獣人の子に二発の拳骨。更に怒りの形相で正座させる。あまりの迫力に他の二人も正座してしまった。


 何故かカタリナも怯えてゼフラさんの背中に隠れている。


「いい?この孤児院で暮らす以上!孤児院のルールには従ってもらうわ!」


「孤児院のルールって…私も知らないんだが…」


「お、…私も知らない」


 そもそも、そういう話は院長先生がするべきであって…ましてや道端に正座させてする話でもないし、三人は不幸な事があってまだ立ち直れていない筈。


 何も今、ピオラがしなくとも…


「あの…あのね、ピオラ。話をするなら、せめて孤児院の中で…」


「ダメだよ院長先生!ジュンを傷つけるような悪ガキ!今直ぐ徹底的に躾けないと!」


「そ、そう?いえ、でもね?せめて今日は見逃してあげて欲しいのだけれど…」


 孤児院のルールの話ちゃうんかい。いや、ダメだ。眼が普通じゃない。十二歳の女の子がしていい眼じゃない。血走っていらっしゃる。


「大丈夫!すぐにわからせるから!」


 何をわからせるの?と、皆聞きたかったと思うが…ピオラの剣幕にカタリナでさえ沈黙を保っていた。



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あとがき



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