第18話 やっぱり来ました

「……それで?それからどうなったの?」


「それで終わり…泣きながらどこかに行っちゃった」


 パン屋で出会った女の子、カタリナとの間で起きた事を説明したピオラ。


 その説明を聞いて頭痛をこらえるように額に手を当て溜息を吐く院長先生。


 いや、心配しなくても孤児院に報復とかは無いと思うんよ?騎士の女性の言からして。


「私が心配してるのはそこじゃないわ…それより、あなた達は何を作ってるの?」


「えっと…私もわかんない」


「私も。でもジュンがこれで美味しいモノが出来るし、御金も増やせるって言うから…」


 勝負に勝った結果得られた金貨一枚。これをどう使うか子供二人と中身大人な子供一人で考えたのだが。


 色々な意見が出はしたが結局は勝負に勝ったのはジュンだから、ジュンが決めればいいとなった。


 そこで、俺は考えた末に出した結論。ここは一つ、異世界転生お約束の知識チートで一稼ぎしてやろうじゃないか、と。


 そこで市場に向かい用意した物。

 卵・植物油・塩etcetc…、そうだね、マヨネーズの材料だね!


 この世界、インフラ設備はわりかし整っているのだ。


 上下水道はあるし、魔法道具で電話のような通信設備もある。


 御風呂は無い家もあるが、公衆浴場もあるらしい。俺はまだ入った事が無い…というより、女風呂しかないそうなので、入るに入れないが。


 しかし、食事、料理に関する発展は乏しい。男性の保護とインフラ整備に偏った結果なのかはわからないが、兎に角…料理に関しては日本の記憶がある俺からすれば不満が多い。


 そこで改善の第一歩として、マヨネーズの作成に踏み切ったのだ。材料は金貨一枚で余裕で買えたしね。


 そうして完成したマヨネーズは…うん、しっかりとマヨネーズだ。


 ただし、俺が知るマヨネーズより、大分黄色い。味はマヨネーズで間違いないのだけど。製法か材料に違いがあるのだろうか…まぁ、そこは追々…というか何処かの料理人にでも任せるとして、実食である。


 ついでに市場で買って来た生野菜をスティック状にしてマヨネーズをつけて食べる。


 うん、美味い。前世ではマヨラーとまで言わないが普通に食べてたし、懐かしい気持ちに思わず泣きそうになるが、グッとこらえる。


「お、美味しい…ジュン!美味しいよ、これ!」


「うん、美味しい…私は野菜は苦手だけれど、これがあれば幾らでも食べられる気がするよ。ジュン、これは売れる…って、そうか!だから御金が増やせるのか!」


 フフフ…気が付いたかね、クリスチーナ君。


 そう!マヨネーズを孤児院で製作・販売すれば!大金持ちになれずとも小金持ちくらいには!


 …と、考え無くも無かったんだけどね。


「うん。そこでこのソース…マヨネーズって言うんだけど、マヨネーズのレシピを商業ギルドで登録して特許を取ろうと思うんだ。クリスチーナの名前で」


「…え?私の名前で?」


「商人として、大きな武器になるでしょ?特許持ちの商人なんて、うわっ!」


「ジュンー!君って…君ってやつはー!もう最高!」


 感極まったクリスチーナに抱きしめられてしまった。


 だが、悲しいかな。クリスチーナはまだ八歳。その胸部装甲は薄い。将来は美人確定のクリスチーナも今はまだペッタンコの子供なのだ。当たり前だが。


「あ、でも…まだ八歳の私が商業ギルドで登録出来るのかな?」


「出来る筈よ。子供の行商人も居るには居るし…明日にでも私と登録に行きましょうか」


「うん!…でも、本当に良いのかい?これはジュンが考えたレシピだろう?」


「いいよ。お…私は商人にはならないし。御金は無いよりはあった方がいいけど。クリスチーナには商人を始める為の資金が必要でしょ?」


「ジュン…ありがとう。私が商人になって大金を稼いだら、必ず正当な金額を払うと約束するよ。でも…それまで特許で得る事が出来る御金を独占するのも心苦しいし…やはり幾らかはジュンも貰うべきじゃないかい?」


 クリスチーナの意見には皆が同意し、ならばと最終的に決まったのは特許使用料で入る御金は半分はクリスチーナに、残り半分は孤児院の皆で等分する事に。


 マヨネーズを孤児院で作って販売…は中止となった。


 子供三人を人数に入れても、たった五人。赤ちゃんのユウを人数に入れるのは論外だし、作って販売するとなるとそれなりの数を用意する必要があるので五人では到底無理という結論になった。


 孤児院で作るのは自分達で楽しむ分だけに留める事となった。


 俺としては、これから定期的に自分で自由に使えるお金が多少なりと入って来るだけで満足。


 まだ五歳の子供に大金なんてあってもしょうがないしね。将来確実に必要な人にある方がいいだろう。


『ええんちゃう?立派やと思うで。クリスチーナが孤児院を出るまで…後七年くらいか?その頃にはかなりの額になっとるやろし。十分な資金になっとるやろ』


 と、メーティス先生にもお墨付きをもらった事だし。金貨一枚の使い道としてはかなり良かったと自画自賛しても良いんじゃなかろうか。


「でも…ジュンはどうやってこんなの思いついたの?今日、初めて街に出たのに…料理や調味料について勉強する機会も無かったでしょ?」


「あ、確かに。ジュンはよく本を読んでいるけれど…料理の本なんて無かったし。一体どこでこんな知識を?」


「………………………夢に神様が出て来て教えてくれたんだよ」


「…答えたくないなら答えないでいいから、それ、他所で言っちゃダメよ?特に聖職者様の前では絶対に」


「あ、うん。性職者さんの前では言いませんです、はい」


「…なんか字が違うような気がするけれど、わかってるならいいわ」


 具体的に言うと、お隣のエロース教の方々にですね、はい。


 下手な事言うと、エロース様の使徒とか勘違いされて囲われた挙句、男だってバレて神子まで一直線だしね。


『あながち間違ってもいいへんしな。エロース様の使徒って肩書は』


 そんなこんなでカタリナに絡まれて金貨をゲットした話は此処で終わり。


 ……とはならなかった。


「ここがそうね!ジュンはいるかしら!このカタリナがわざわざ来てやったわよ!サッサと出て来なさい!」


 マヨネーズの特許登録も無事に終わった数日後。


 皆でマヨネーズを作っている処に無断で孤児院に入って来た。しかも俺を名指しで御指名だ。


 いや、何の用?こないだの一件はもう終わったものとして処理してるんだけども?


 ………俺の中では。来るかもな、とは思ってたけどさ!

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