第14話 増えました

「ユウ?ユウちゃんか~」


「うふふ。ピオラには妹も出来たわね~」


「…ジュン?どうしたの?おかしな顔をして…」


「…なんでもない」


 ユウちゃんね…女神エロース様言ってたヒロイン候補の一人。まさかまさかの登場の仕方だな。


 いや、まだそうと決まったわけじゃない。


 だが、まぁ…そう、なんだろうなぁ…


『どないしたんや?マスター』


 …どないしたって…もしかしてメーティスはヒロイン候補の話は聞いてないのか?


『…ヒロイン?え?それって、わいとちゃうのん?』


 …お前、ヒロイン気分だったの?

いや、そこは深く掘り下げないでおこう。


『…なんや、すっきりせんな。で、何の話なん?』


 ん~実はカクカクシカジカ。


『は~、へ~…なるほどなぁ。神様がそう言うたなら…まぁ可能性は高いやろなぁ』


 だよね。しかし、だ。今はなんにも出来ない…よな?


『そら赤ちゃんやしなぁ。確定したわけでもないし。そもそも何を持って確定とするんか、わからんしなぁ。未来に先送りするしかないんちゃう?』


 そうしましょう。

ヒロイン問題は未来の俺に一任っと。


「ジュン?さっきから黙ってどうしたの?」


「なんでもない。俺にも妹が出来たなーって思ってた」


「ジュンの妹?………ん~~まぁ、妹ならいいかな!でもお姉ちゃんは私だけだからね!あと、私って言いなさい!」


 よくわからない拘り持ってるな、ピオラってば。

独占欲かな?姉ポジション独占欲。


『そんなとこやろな。子供やねんし、かわいいもんやんか』


 まあね。いいんだけどね。


 しかし、いい加減お風呂は一人で入って欲しいし、トイレにもついて来ないで欲しいが。


『もう暫くは諦め。ほら、皆が赤ちゃんに夢中になってる今なら部屋で訓練出来るんちゃうか』


 そだな。そうするか。


「じゃあ、俺…じゃなくて私は部屋で本読んでるね」


「あら、そう?ユウと遊んであげてよ~」


「ピオラお姉ちゃんに任せた~」


「……拗ねてるのかしら?」


 拗ねてる?なんでやねん…ああ、赤ちゃんがチヤホヤされてるからか?


 ふむ…子供ならそういう反応するべきか?


『やめとき。墓穴掘るだけやで、多分』


 …そだな。そんな気がする。




 そして孤児院に赤ちゃんが増えた日から、更に半年。


 夏が終わり、秋。十月の半ばに一人の女の子が孤児院にやって来た。


「この子の名前はクリスチーナ。今日から此処で暮らす事になったわ。皆、仲良くしてね」


「クリスチーナね!私はピオラよ!」


「ジュンです」


「………うん」


 それは酷くか細い声で。

近くで注意して無ければ聞こえないような、小さな声だった。


 孤児院に来る子供……だからな。

聞くまでもなく、何らかの不幸に巻き込まれて家族を失い、此処に来たのだろう。


 だからずっと昏く沈んだ表情のまま。それがこんなに幼い子供ならば、当然。それが普通…なんだろうな。


 クリスチーナは…うん、将来は美人さんになるんじゃない?


 整った顔立ちに綺麗な銀髪。少し切れ長の目。


「えっと…クリスチーナは幾つ?私は十歳!」


「……七歳」


 七歳か。七歳の女の子にしては背も高い方なんじゃないか?


 実際、十歳のピオラと対して変わらないし。


「……ピオラ、クリスチーナを部屋に案内してあげて。好きな空き部屋を使っていいわ。貴女と同じ部屋でもいいし」


「…は~い。ついでに中を案内してくるね」


「御願いね」


「うん。ジュンも行こっ」


「あ、待って。ジュンには少しお話があるの。二人で行ってちょうだい」


「え~…わかったぁ。じゃ、行こっかクリスチーナ」


「……」


 ピオラに手を引かれ、歩いて行くクリスチーナ。

院長先生と来た時もそうだったが、足取りは重い。


「…元気無いですね」


「無理も無いわ。あの子の母親は行商人だったのだけど、王都に店を構える事になって、あの子の姉と三人で王都に来る途中、魔獣に襲われてね…母親と姉が眼の前で魔獣に食べられているのを茫然と見ていた所を、通りすがりの冒険者に救われたそうよ」


 ……うわぁ…それは…かなりヘビィーなお話。


「…可哀想に…心が壊れてないといいんですけど…」


「…壊れてはいないと思う。でも傷ついてないわけが無いわ。暫くはあの子から目を離さないでおきましょう。特に…ジュン、御願いね?」


「え?」


 俺?いや、なんで俺?どう考えても院長先生が適任だと思うが…てか、話って、それ?



「…なんで?」


「貴方は賢いし、優しい。無闇に人の内側…デリケートな部分に踏み込んだりしない。きっとクリスチーナと適度な距離を保ったまま接してくれる。今、あの子に必要なのは何も言わずに傍に居てくれる人よ。きっとね」


「…院長先生も出来るでしょ?ジェーン先生は…無理かも?」


「え!?酷い!」


「うふふ。それがわかってるなら安心ね」


「院長先生も酷い!」


 だってジェーン先生、たまにデリカシー無いし。大股の一歩でデリケートな部分に踏み込んで行きそう。


「ピオラの明るさも必要だとは思うけれど…今はジュンが適任だと思うの」


「…う~ん」


「特別な何かをしてほしいわけじゃないわ。ただ、出来るだけ傍に居てあげて欲しいだけ。普段通りに過ごしながらね」


「普段通り…」


「そう。それに今直ぐに立ち直らせろなんて言わない。ゆっくりで良いの」


 …しかしなぁ…それだとようやく出来た一人の時間が無くなるよなぁ。


『しゃあないんちゃうか。他でもない院長先生の御願いやし。ほっとくつもりも無いんやろ?』


 確かに、な。しゃあないな。


「…わかった。やってみる」


「ありがとう。御願いね」


 はっきり言って自信なんか無いが…出来るだけやってみますか。


「ユウ~…皆がママをイジめるの~シクシク」


「だ~う~」


 ……家族を亡くしたばかりのクリスチーナの前でママさんムーブはしないでね?ジェーン先生…

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