第13話 やっぱり女の子でした

 転生してから三年が経った。


 ハイハイを卒業し、よちよち歩きになった後もピオラの監視は続き。一向に一人になる時間がとれなかった。


 身体強化魔法を駆使して、一時的に撒いたとしても孤児院の中では直ぐに見つかってしまう。


 対俺用レーダーでも装備してるのかってくらい素早く見つかってしまう。


 だって何処にいても最短距離で俺を見つけてくるんだもの。


 仕方なく、魔法の基礎訓練のみを続ける日々。


 しかし、今日、大きな変化が生まれた。


「大きくなったね〜。あ、今、動いたよ!」


「今から元気一杯ね。きっと元気な子が生まれるわ」


「そうだといいんですけどね…まぁ、多分女の子でしょうけど」


 俺を拾ってくれた孤児院の先生の一人…ジェーンさんが御懐妊なさったのだ。


 ただし、結婚はしていない。


 お相手はお隣さん、エロース教の神子だ。


 俺を拾った時、三年前ジェーンさんは十九歳。


 今年二十二歳になった三月に彼女は「そろそろ生もっかな!」と、実に軽いノリで子作りをしにいった。


 院長先生に感想を言ってたが「なんか、あっけなかったです」と言ってたが、あっけないとは?


 淡白だったのだろうか…エロース教の神子なんてやってたら、飽きるほど女を抱いて来たんだろうし、わからなくもないが。


 まあ、そんなジェーンさんは、子供を産むため、実家に暫く帰省する。


 つまり、孤児院で暮らす人間が一時的に三人になるのだ。


 そして、ジェーン先生が抜けた穴を埋めるべく、少し大きくなったピオラが院長先生のお手伝いをする事になった。


 お使いやら、掃除やら、料理やら…自然と俺から目を離す時間が増える。


 三歳になっても(誕生日は俺が拾われた日から三ヶ月前に設定された)孤児院の敷地外には出してもらえなかったが…これでようやく魔法の訓練が出来る!


「ジュン、お姉ちゃんが傍に居ないからって遠くに行っちゃ駄目だからね?」


「……はい」


 まるで俺の心が読めるかのように、釘を刺されてしまった。


 なんなの、あの少女。眼のハイライトが仕事してなかったよ?九歳児がしていい眼じゃなかったよ?


『そらマスターが散々逃げようとしたからやろ。誰でも学習するわな』


 俺には俺Tueeeeeという崇高な目的があるからな。

その為に強くなるのは必須!故に一人なる時間が早く欲しいのだ!


『それは耳タコってくらい聞いてきたけども。普通に考えて三歳以下の子供が一人でどっか行ったら心配するやろから、もう少し大きくなるまでは外に出るんは我慢しよってなったやん』


 …まあ、そうなんだけどね。

しかし、孤児院の庭ですら一人で出るのは禁止ってどうなのよ…些か厳しくない?それとも、そんなものなんだろうか?


『そんなもんやと思うで?まぁ、でもほら、今日から多少は一人の時間が出来るやん』


 そう!神は俺を見放さなかった!


 なんと!俺は一人部屋をゲットしたのだ!


 この孤児院は今はガラガラ。

ならばと一人部屋が欲しいと主張したら、アッサリと通った。


「…外にはまだ出してあげられないし…せめて部屋の中でくらい自由に遊びたいわよね…」


 と、院長先生は小声で呟いていた。


 その優しさに感謝感激雨あられ。

院長先生はいつも優しいし、感謝しっぱなしです。


 更に、年が明ければピオラはお隣りの教会に勉強を教えてもらいに行く事になった。


 何でも教会ではシスター達の子供の託児所…いや、保育園みたいな事もやっていて、ピオラも一緒にどうかとお誘いがあったのだ。


 最初は俺と離れる時間が出来るのを嫌って渋っていたピオラだが、友達が出来ると言われて行く事にしたのだ。


 …薄々思ってたけど、ピオラって友達いないのかな?是非とも友達百人作って毎日遊びに出て欲しい。


『…折角大事にしてもろてるのに、罰当たりやなぁ。まぁ、魔法訓練始めよか』


「おう!」


『先ずは生活魔法やな。わいがやってみせるさかい、よう見とくんやで』


 生活魔法…使えれば多少生活が便利なるってだけの魔法。

しかし、全ての魔法の基礎となる魔法。生活魔法が使えなければ魔法使いになどなれない。


 凄腕の魔法使いが使えば生活魔法だってそれなりの攻撃に使えたりするし。


 現に三年間もの間、毎日毎日魔法の基礎訓練に明け暮れていた俺の生活魔法はというと…


「イグニッション!」


『おー!そうそう!ええ感じやで!』


 普通はマッチや百円ライター程度の火しか出ない生活魔法の【イグニッション】だが、俺のはキャンプファイヤーのようにデカい。木材程度なら一瞬で黒焦げだろう。


 え?そんなの室内でつかっちゃ危ないって?


 フフフ…心配御無用ノープロブレム!


 俺が魔法を放った先にあるのは別次元に通じる空間の穴。

別次元にあるデウス・エクス・マキナを使用する時の応用で空間に穴を開け、そこに向かって魔法を放てば周りに被害が出る事はない!


 更にメーティスが対魔法結界と遮音結界も張ってるし、二重に対策もしている!完璧!


『まぁ対策しとるんはわいなんやけど…それより来たで』 


 もう来たのか…まだ三十分くらいしか訓練してないのに。


『まぁ初日やし、しゃあない。それより、ほら早う。誤魔化すんやろ?』


 仕方ない…本、本…


「おまたせー!ジュン、淋しかったでしょ!」


「平気だよ。それよりノックくらいしてよ、お姉ちゃん」


「むぅ…ジュンがおませな事言ってる…」


 いや、どこらへんがおませ?人として当たり前の常識しか言ってないよ?


「それより何してたの?」


「本読んでた」


「本?ジュンってもう文字読めるの?私が院長先生に教えて貰ってる時に一緒に居ただけなのに…」


「……ま、まぁね!俺って天才なのかも?」


「こら!女の子なんだからお姉ちゃんと同じように私って言いなさい!」


 ピオラは最近お姉ちゃんムーブに拍車がかかって来た。

一人称が「ピオラ」だったのが「私」になったのも最近だ。


 やたらお姉ちゃんぶるし。


「それに…それ歴史の本でしょ?そんなの読んで楽しい?」


「………そこそこ」


『…マスター…さては適当に本棚からとったやろ』


 いや、だってさ!俺って部屋にある本は院長先生が置いてくれた物だけど…なんで歴史書?よく見りゃ他にの本も哲学書やら経済学書やら…前世でも読まなさそうな難しい本ばかり。


 なんで孤児院にこんな本があるんだよ…院長先生も置くなら絵本とかでしょうよ。


「じー…」


「……」


「ま、いっか!ジュンも背伸びしたいお年頃なんだよね!」


 九歳児にそんな事言われるとは…見た目三歳児だから仕方ないけどさ。


「それよりお昼御飯出来たよ!ジュンのはお姉ちゃんが作ったんだよ!」


「ふぁ〜い…」


 そんな風に今までの日常からほんの少し魔法訓練の時間が増えた日常に変わり。


 それから更に半年が経ち、冬が終わり春になった頃、ジェーン先生が赤ん坊と一緒に帰って来た。


「おかえりなさい、ジェーン」


「おかえりなさい先生!」


「おかえりー」


「ただいま〜。ちょっと見ない間にピオラもジュンも大きくなったわね〜」


 ジェーン先生は所謂シングルマザーだ。

故に赤ちゃんがいようと働かなければならない。


 とはいえ、孤児院勤務のジェーン先生は仕事中にも世話が出来るし、エロース教の神子との間に出来た子は国からだけじゃなくエロース教からも支援がある。


 他のシングルマザーよりは楽な筈だ。


「ねぇねぇ、赤ちゃんは女の子?男の子?」


「女の子よ。男の子が欲しかったんだけどね〜」


「やっぱり女の子だったのね。名前は決まったの?手紙じゃ無事に生まれた事しか教えてくれなかったけど」


「あ、名前ですか。いや〜悩んだんですけど…この子の名前はユウって言います!」


 ………なんて?

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