第12話 ちょっと怖い子でした

『以上が、魔法の基礎や。後は応用と実施訓練やな。まぁ、それはでけへんから、まだしばらくは魔力量を増やす事と復習の意味も込めて講義していこかぁ。ほな、魔力増強訓練開始や』


「あぶ!(おう!)」


 孤児院に拾われて三日。

今の所は穏やかに過ごせている。


 六歳の幼女にオムツを交換されるという羞恥プレイ以外は。


 なんであの子、頑なにオムツ替えたがるの?普通嫌がらない?院長先生達に任せとけばいいじゃん。


 それから、この孤児院。どうやら職員は院長先生ともう一人。そして子供はピオラだけのようだ。


 三人以外の人を見て無いし、メーティスにも調べてもらったので間違いない。


 少ないと思うが、別に困窮してるわけでもなく元々この孤児院は職員も孤児も少なかったようだ。


 この孤児院はアインハルト王国の王都ノイスにあり、ノイスにある三つの孤児院の一つで一番規模の小さい孤児院らしい。


 他二つの孤児院にはもう少し、職員と孤児の数は多いようだがアインハルト王国はもう二十年近く、大きな戦争をしてないのでここ最近は孤児が少ないようだ。


 ただ…最近、アインハルト王家に、数十年振りに男児が生まれたらしい。


 そこそこ可愛いらしく、将来美少年になると期待されている…まではいいのだが、新たな戦争の火種になるのではと危惧もされている。


 美少年の王族がいるだけで戦争になるのか?と思うだろうが、この世界ではなるらしい。


 というのも、男が少ないのはエロース様も言っていたが、王族の男子は更に少なく。

それも美少年ともなれば尚更で。それなりの血筋から男を娶らねばならない立場の女性からすれば生まれたばかりの王子と言えども魅力的な存在で。


 この国の王子は既に、アインハルト王国の貴族は勿論、他国の王族、貴族連中から狙われているという事だ。


 やだ、すっごい親近感。俺も下手したらそうなっていたかもしれないと思うと、同情を禁じ得ない。


 まだ見ぬ王子よ、どうか頑張ってくれ。影ながら応援している。


『ほらほら、集中が乱れてるで!またなんか考え事してるやろ。集中集中!』


 心の中で、メーティスと会話しつつメーティスに聞かせないように考え事をするのも慣れて来た。


 メーティスと話す時はマイクに向かって話すイメージで、考え事をする時はマイクを外すイメージでやっている。


 最初は上手く出来なかったが、イメージを固めていくと出来るようになった。


『ほら、まだ乱れてるで!ちゃあんとイメージし!』


 次に、この魔力増強訓練について説明しよう。


 魔力はこの世界の人間は誰もが持っている。

しかし、殆どの人が生活魔法という魔力消費の少ない弱い魔法を使うのが精々で魔法使いと呼べるような魔法を使える人は貴重。


 更に生まれながらに持っている魔力量は決まっていて、訓練で増やす事が出来る量は僅かなのが一般的だ。


 しかし、そこは特別製のこの身体。俺は使えば使う程、魔力量は増えていくのだ。


 だが、俺は孤児院の中にいるので攻撃魔法を使うわけには行かない。


 そこで、一見すると魔法を使ってるようには見えない魔力を使った身体強化の魔法を使って訓練する事になった。


 この身体強化の魔法…一般的には魔法使いが覚える初歩的な魔法なのだが、メーティスの教えによれば、この世界の身体強化魔法は使い方がなっていないらしい。


 この世界では身体全体を魔力の薄い膜で多い強化する。


 その場合は勿論、全身が強化されるわけだが、メーティス曰く…


『それだけじゃ外側が強化されるだけや。身体の内側…体内にも魔力を満たす事で初めて本当の意味での身体強化になるんや。外側だけ魔力で覆っても強化はされるけど、それじゃ中身は守ってくれへんから、ちょっと強化しただけで簡単に筋肉痛になるで』


 との事らしい。


 というわけで、メーティス式身体強化魔法の教えは、先ずは魔力を体内全身に巡らせる。

次に強化したい部位…脚なら脚だけ、腕なら腕だけに魔力を集めて強化する。


 同じ魔力量で特定の部位だけを強化する事で、全身を強化するよりも高い能力を得る事が出来る。


 勿論、込めた魔力の量によって強化率を上げる事も下げる事も出来る。

身体強化の魔法は、魔力操作も練習出来るし魔力量も増やせる一石二鳥の魔法なのだ。


 魔力操作が上手くなれば指先だけの強化も可能だ。


 邪魔する奴は指先一つでダウンさ!


『…またなんかアホウな事考えとるやろ?声は聞こえんでも、何となくわかるで』


 おっと、集中集中。


 メーティスの講義と訓練の繰り返し。

そんな日々を過ごしたある日、遂に!遂に俺は!


 ハイハイが出来るようになったのだ!


「わ~!ジュン、すご~い!ほらほら、こっちおいで!」


「うふふ…かぁわいいですね~見てるだけで癒されますぅ~」


「そうね、可愛いわ」


 院長先生達には可愛いという評価でしかないようだが、俺には偉大なる一歩。

これで行動範囲が広まり、こっそり魔法を使う為に一人になれる場所に行ける!そして漸く身体強化以外の魔法を使える!


 と、思っていたのだが。


「も~う、ジュンてばす~ぐどこかにいっちゃおうとするんだから!メッ!だよ!」


「あぶ…」


 ピオラの警戒網が広すぎて、すぐ捕まってしまう。


 普段はピオラがずっと張り付いてるし、ピオラが離れる時は先生か院長先生が傍にいる。

寝る時はベビーベットに寝かされるのでハイハイで抜け出す事は出来ない。


 それ以前に赤ん坊の身体故の悲しさか、夜は直ぐに寝てしまうし、昼間も昼寝が必要だ。


 限られた時間を有効に使い、何とか一人の時間を作るべく試行錯誤してはいるのだが…ピオラの隙が無さすぎる。


 何なら大人二人よりも鋭いくらいだ。


 今も、先生と二人で庭で洗濯物を干してる背後で、こっそりと移動しようとしたのだが動き始めてすぐに察知されてしまった。


『マスターの事に関してのみ、察知能力が高いみたいやなぁ、あの子』


「あぶう?(俺のみ?)」


『せや。ほら、よう見ててみ』


 そういうとメーティスは少し離れた場所でデウス・エクス・マキナを使い、木を叩いて音を立てたのだが…ピオラも先生も反応無し。


 しかし、俺がちょっと動くとクルッと振り返った。ピオラのみが。


 …今、何か音立ててましたかね?


『芝生をガサガサした音は立ってたやろなぁ。逆に言えばそのくらいしか音立ててないんやけど』


 それってこの距離で聞こえる音ですかね!?2メートルくらい離れてますけど!?


 赤ん坊がソっと芝生に手を置いた音なんて、2メートルも離れてたら聞こえなくない!?


 少なくとも木を叩いた音より小さいだろ!


『なんなんやろなぁ…この子のマスターに対する異常な執着。まだ出会って一月も経ってないのに。ちょい怖いわ』


 ちょっとどころじゃねーよ。ハッキリ怖えよ…なんなんだよ、一体…


『ま、まぁ悪意は感じへんから大丈夫やろ。まだしばらくは一人になるんは無理っちゅうこっちゃ。今は身体強化の魔法だけで我慢しときぃ』


 …俺の俺Tueeeeeはまだまだ遠い。

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