第9話 拾われました
「ばぶ〜(マジか〜)」
異世界転生って言うからてっきり…何処かの御家庭に生まれ変わるんだとばかり。
まさか星空の下に放置とは…どうしたもんかな、これ。
身体は赤ん坊のせいか、上手く動かせない。
首と手は動かせるが、起き上がる事は出来ない。
つまり…この身体は生後三ヶ月から五ヶ月ってとこか?
神様が創った身体に一般的な人間の赤ん坊の成長が当て嵌まるなら、だが。
で、その動く首を左右に回して見えたのは…籠。
どうやら俺は布に包まれてベビー・バスケットの中に入れられて放置されているらしい。
てか…寒い。
この世界に四季があるのか、今、何月なのか、何時なのかすらわからないが…寒い。
早く誰かに見つけてもらわにゃ…俺の異世界転生、ここでジ・エンド。
取り敢えず、赤ん坊らしく泣くか?
それくらいしか出来ないし…此処が何処かわからないけど流石に無人地帯のど真ん中じゃないだろ。
てか、俺のパートナーとやらは何処よ?
まさか、そいつも赤ん坊で、俺と同じでベビー・バスケットに入って並んでる…なんて言うんじゃなかろうな…
『安心しぃ。ちゃあんとおるでぇ』
「ばぶぶぅ!?(おおおぅ)!?」
だ、誰だ?一体何処から?
『はじめましてマスター。わいの名前はメーティス。女神メーティス様から祝福を与えられた物。これからのマスターの人生をサポートする、マスターの相棒や。よろしゅうな』
メーティス?女神エロース様じゃなくて?女神メーティスに祝福を与えられた物?エロース様って他の神様に嫌われてる話じゃ?
それに一体何に?
あと、いい加減姿を見せて。
『まぁまぁ、落ち着きぃや。女神メーティス様は物に知性を与える事が得意な女神様でな?エロース様がお菓子で釣って、頼んだらしいで?』
お菓子で…安いな、女神メーティス様。
てか、メーティス様に創られた物の名前が何でメーティス?
『神様が物に祝福を与えた時、その物の名前は与えた神様の名前になるんや。せやからわいの名前はメーティスや。んで、何に祝福を与えたかっちゅうとやな…心臓や。まさに一心同体やな!』
「ばぶ?(はい?)」
『心臓や、マスターの心臓。正確にはマスターの心臓と同化しとるデウス・エクス・マキナの制御装置…コアや』
「ば…ばぶ〜!?(は…はい〜!?)」
お、俺の心臓?俺の心臓と同化?
え?俺の心臓に名前ついてんの?しかも喋るの?
やだ、なんか怖い!
『まぁまぁ。色々便利な事もあるんやで?今も、まともに喋られんマスターと会話が成立してるんも、わいとマスターが繋がっとるからや。心で会話が出来るっちゅうわけやな。せやから、わいの声は他人には聞こえへんで』
それって、つまり…心の声が全部筒抜けって事じゃ?
それもなんかやだなぁ…
『大丈夫や。慣れたらわいに聞かせたくない事は聞かせんようにでけるで。逆にわいの考えてる事もマスターに聞かせんようにでけるしな』
はあ…なるほど?そりゃ良かったけど…やっは慣れないな。
何とかなんない?
『まぁ、可能っちゃ可能やで?ちょい待ちいや』
お、おおう?
何か出て来たな…光る玉?
ピンポン玉くらいの光る玉が出て来た。
『これでどないや?これなら心の声は聞こえへんで』
お、おお?あの光る玉から声がする。
さっきまでは頭の中に声がしたって感じだけど、今はちゃんと耳で聞こえた。
『これは本来、デウス・エクス・マキナに備わってる能力…機能の一つでな。これを使って偵察とかするんやけど…こうやって、わいの意識を一時的に移す事が可能や』
「ぶ?ばぶばぶぶ、ばばぶぶぅ?」
『……何言ってるんかわからへんから、戻るで。この状態やと、他人に声は聞かれへんけど光る玉は見えるしな』
なるほど、成長するまでは心で会話するしかないって事か…仕方ない、か。
『せやせや、しゃあないしゃあない。で、何て?』
デウス・エクス・マキナの機能の一つって事は…俺だけじゃなく、メーティスもデウス・エクス・マキナを使えるって事か?
『せやで。何せわいはデウス・エクス・マキナの制御装置…コアやからな。本来、デウス・エクス・マキナは音声入力で使用するんやけど、わいが使う分には必要あらへん。ほら、見てみ』
お、おお…何も無い空間から黒いナイフが出て来た。
しかも、飛んでるし。
『わいはマスターを護る義務があるしな。この力を使って、マスターに向けられた敵意や悪意から護るってわけや。あ、マスターの心臓でもあるから、マスターの魔力をつこうて魔法も使えるで』
お?じゃあ魔法はメーティスから習えば良いって事か。
よろしゅう頼んます〜。
『おう、ええで。魔法だけやのうて、この世界の知識やらなんやら、サポートする上で必要になりそうな知識は大体もらっとるからな。色々教えたるわ』
つまりはメーティスに聞けば大体の事はわかるって事か。
そういやエロース様もそんな事言ってたな。
いいね。転生した身には非常に助かる存在だ。頼りにさせてもらおう。
『お?フフン、わかってるやん、マスター。わいに任せときぃ!必ずマスターをモテモテにして子作りし放題にしたるからな!』
いや、それは別にいいかな。
『へ?』
モテモテ…に、なるのは別にいいけど子作りし放題は暫くはいいや。
そりゃエロース様に頼まれたし、転生させてもらったし、いつかは言われた通りにするけど…それより俺にはやりたい事がある!
『ま、まぁ…まだ数百年の余裕はあるみたいやし、暫くはマスターがやりたい事やっててもええやろけど…何がやりたいん?』
それはな…俺Tueeeeeがしたい!
『…なんやそれ?』
俺Tueeeeeとは!
自分の強さに自惚れて調子こいてるヤローを圧倒的武力で瞬殺したり!
圧倒的戦力で迫りくる軍隊を単独で撃破したり!
地上に落ちようとする巨体隕石を拳で破壊したり!
そういう事を言う!
『…はあ。…へぇ〜?何でそれがやりたいん?』
憧れだからだ!それ以外の理由なんか無い!
ただやりたいのだ!
強烈に!猛烈に!激烈に!
『…まぁ、ええか。それが出来たら英雄やろし…普通によりどりみどりのモテモテ街道まっしぐらやろ。罪のない一般人や、敵対関係に無い国相手にやったりはせんのやろ?』
そりゃ当然!誰にでも牙を剥く狂犬になるつもりはない!
『ほならええ。難しいとは思うけど、取り敢えずはそれを目標にするとしよか』
うむ!
それで、だ。細かい事はあとで相談するとして。
そろそろどうにかなんない?この状況。
『うん?』
いや、ほら。寒空の下に赤ん坊を放置って。
どう考えても良くない状況じゃん?そりゃ安全はメーティスが確保してくれるんだろうけどさ。
『なんもせんでも大丈夫やで?今、マスターがおるんは孤児院の前や。朝には見つけてもらえるて』
朝にはって…今、何時よ?
『20時。ちなみに朝日が昇るんは6時』
凍え死ぬわ!赤ん坊がこの寒空の下放置されて朝までもつわけないだろ!
『大丈夫やて。マスターの身体は特別製やで?エネルギーもデウス・エクス・マキナから供給されるし。風邪もひかんし。何も心配あらへん』
……下の世話は?
『…ん?下の世話?』
赤ん坊なんだから当然、自分でトイレなんて行けないだろ。転生してから何にも食べて無いから出るのかどうか知らんが…生きてる以上、排泄なんかの生理現象はどうにもならんだろ。
メーティスと俺は一心同体なんだろ?
お前…糞尿にまみれて長時間放置とかされたい?
『よっしゃ!今すぐ何とかしよか!わいに任せとき!』
…やる気になってくれてよかったよ。
『ええと…デウス・エクス・マキナを使うんは流石に目立つし…まぁ今のマスターの魔力量でも弱い魔法なら平気やろ。というわけで、これやな』
おお?なんか…テニスボールくらいの…氷?氷の玉が二個、空中に浮かんでる。
これが魔法?
『アイスっちゅう、生活魔法の一つやな。んで、これを飛ばす!』
……何かにぶつかった音が二回聞こえたな。
『孤児院の玄関扉に時間差でぶつけたんや。これでノックしたように聞こえたやろ。ノックが聞こえたなら…ほら来た』
「はーい。どなた…誰もいない?」
……まさか気付いてくれないなんて事ないよね?
『…大丈夫や。いくら何でもこの距離で目にはいらんなんてことは…』
「変ねぇ…イタズラかしら」
ちょっと!?扉しめようとしてない?!
「お、おぎゃー!(ま、待ってー!)」
「え?ええ?赤ちゃん?せ、先生ー!院長先生!」
た、助かった…まさか、あの流れでスルーされかけるとは…
『ま、まぁ、良かったやん。ナイスやで、マスター』
…まぁ、メーティスの魔法の御蔭でもあるからいいけど。
ところでメーティスよ、一つ聞きたい事が。
『お?なんや?』
お前、どうして関西弁なの?
『……』
「どうしたの?…まぁ!赤ん坊?」
「ど、どうします?捨て子…ですよね」
「放っておくわけに行かないでしょ?さ、お家にはいりましょうね〜。もう大丈夫だからね〜」
どうやら無事に孤児院でお世話になれそうだな
で、メーティスさんや。解答は?
『…マスター』
何だよ。
『乙女には秘密が多いものなんや…』
……乙女だったのか、お前。
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