第8話 やらかし女神でした
アレは俺が大学の帰りに交差点に居た時。
暴走トラックにはねられて死亡…俺の死亡理由は言ってしまえばそれだけだ。
ああ、これは死んだな。
俺の人生はこれで終わりか。
親父、おふくろ…悪いな。
なんて、ありきたりな事を考えながら眼を閉じた。
「此処…何処だ?」
しかし、次に眼を覚ましたのは綺麗な青空の下、広い草原。
地平線が見えるほどに何も無い草原。
少なくとも日本にこんな場所は無いと思う。
「はい、おめでとー。君は選ばれました!はい、パチパチー」
「へあっ!?」
少しボッーとして、もしかして此処が天国か?なんて考えていたら、いつの間にか目の前に少女が居る。
十代前半くらいの…多分、少女?
美少女と言っていい…いや、そこらのアイドルなんかメじゃないくらいの美少女が、眼の前に居た。
「えっと…君は?此処は何処か知ってる?」
「うんうん。此処に来た人間は皆同じ反応するねぇ。ちゃんと教えてあげるから、先ずは座りなよ。少し長い話になるし」
「あ、ど、どうも…」
少女がそう言うと、白い椅子が出て来た。
何も無い所から、急に。やはり此処は天国?
少なくとも地獄じゃなさそうだけど…
「じゃ、先ずは自己紹介。ボクはエロース。女神エロースだよ。よろしくね」
「エロース?それってギリシア神話に出て来た?でも男の神だったはず…」
「そうそう、そのエロースだよ。男と女の違いは…神話ってボク達神が創って人間に伝えるんだけどね。世界によって内容が様々だから。同じ神でも世界によっては邪神だったり最高神だったりするんだよ」
「はあ、なるほど」
世界によって…つまりは異世界か。
え?異世界あるの?マジで?
「うん、あるよ。そして君には異世界を救う為に転生してもらいたいのさ」
「マジっスか!ひゃっほー!」
「お、おおう?えらく喜ぶね?」
そりゃあもう!
こう見えて俺の趣味は読者!
好きなジャンルはライトノベルで異世界転生物!
更に言えば主人公が無双する俺Tueeeeeな作品!
「ええと…それでね?転生には同意って事でいいよね?まぁ同意されなくてもやっちゃうんだけども…具体的に君に何をして欲しいかって言うとだね…聞いてるかい?」
「ルンタッタ〜ルンタッタ〜タ〜リララ〜…はっ!はい!聞いてます!異世界を救うんですよね?何と戦えばいいんですか!?」
「戦う?」
「やっぱり魔王ですか!それとも邪神?邪竜とか?人間同士の戦争は出来れば避けたいですね~」
「いや、別に戦う必要は無いかな。魔獣…所謂モンスターは存在するし、戦争も無くはないから戦いたいなら好きにしていいけど。死なないし」
「へ?戦う必要が無い?それに死なないとは?」
「うん。順に説明して行くね。先ず、君に転生してもらう世界についてだけど…」
女神エロースの説明を纏めると。
俺が転生する異世界では戦争が頻発し、多くの男性が戦死。
更には疫病が流行ったり飢饉があったり…生まれて来る子供も極端に女性が多く、男性は極端に少ない。
そんな状態が三百年続いているという。
「つまりはその世界は凄く不安定な状態にあるって事。本来なら、そんな状況を未然に防ぐ為に神が管理してるんだけど…ていうか、そのボクの担当だったんだけど…」
「だけど?」
詳しく訊くと、この女神エロース。
暫く自分の管理担当の世界をほっぽりだして別の世界に行っていたらしい。
その行った先の世界でもやらかしていて、色んなペナルティをもらった挙句、大勢の神々に多大なる迷惑を掛けた為に手伝ってくれる神もほぼおらず。
他にも不安定な状態になってしまった世界があるのだとか。
「いや、ね?大丈夫なはずだったんだよ?暫く放置しても問題無いようにしてたんだよ?してたんだけどね?」
更に詳しく訊くと。
この女神エロースによって被害を受けた神々の誰かに強く恨まれてしまい。
その恨みを晴らす一環として女神エロースの管理担当の世界に嫌がらせ…世界を不安定な状態にした、と。
とばっちりもとばっちり。
その異世界に暮らす人々には本当に傍迷惑な話だ。
「おっしゃる通りで…で、だね。その不安定な状態、は取り敢えず直したんだけど、男性が極端に少ないって現状は直せないんだよ。出生率も一気に改善とは行かず、徐々に改善に向かって行くって感じだし」
そりゃ、まぁ?
野菜や果物みたいに生やすわけには行かないだろうしね、男を増やすって。
「それで結局…俺に何をしろと?」
「子作り」
「……は?」
「子作り。セックス。伽。男女でする神聖な儀式」
「イヤイヤイヤイヤ!」
「あれ?嫌?何で?女の子嫌いなの?」
「ちゃいます!異世界転生までしてやってもらいたい事が子作りって何!?」
「だから…説明したよね?男性が極端に少ないって。だから沢山子作りして、男の子を増やしてちょうだい!女神様のお・ね・が・い!子作りさえしてくれれば後は自由にしてくれていいから!」
そりゃ…理屈としてはわかる。
男性が減った。だから子作りして増やす…それはわかる。
でも出生率は極端に偏ったままなんでしょ?
「そこで君の出番だよ!転生時の君の肉体は特別製でね。君という魂に馴染ませながら成長させる必要があるから、赤ん坊の状態で転生してもらうんだけど…君の子供は九割男の子が生まれる!その子孫も暫くは男の子が生まれる可能性が高いまま!故に世界中で子作りに励んで欲しいわけだよ!」
「いやいやいや!」
世界中って!そんな女誑しなスケベ野郎になれと?
自慢じゃないけど、俺はそんなモテ野郎じゃないよ?
大体、俺一人が幾ら頑張っても限界があるだろう。
とても世界中の男女比率を改善出来る程に子作り出来るとは…どう考えても寿命が先に来る。
死ぬ直前まで子作り出来るわけもなし…どんなに早くても十二歳からで、長くても六十代後半までだろ?
「心配御無用!君に用意した肉体は本当に特別製!先ず寿命が無い!更に一定以上まで成長したらそれ以上成長…老化しない!つまりは不老不死だよ!」
「は?」
不老不死?…って、あの不老不死?
え?本当に?
「まぁ流石に殺せば死ぬんだけど…実質不可能なようになってるしね。殺せるとしたらボクと同じ上級神か、君と同じような神に創られた何か、だよ。故に!その異世界にいる存在に君を殺せる者は居ない!」
それはつまり…最初っから強いって事か?
でも、さっき赤ん坊の状態で転生するって…赤ん坊なのに最強なのか?
神でないと殺せない程に?
「最初っから強いというか…君に用意した肉体が凄いって言うかね?装備が凄いって言うか…まぁ、見れば速いかな。ほらっ」
パチンと、女神エロースが指を鳴らすと俺の右横3メートル前くらいに黒い球体…繋目のような線が入った何らかの金属製と思われる球体が現れた。
大きさは直径で2メートルくらいか。
GA○TZのアレみたいだな…
「これが…装備品?」
「これはデウス・エクス・マキナ。以前、物作りが得意な神に作ってもらった物さ」
「デウス・エクス・マキナ?」
機械仕掛けの神…だっけ?
正しく舞台演出の技法かなんかで…神の名前じゃ無かったよな?確か。
「で…どうやって使うんです?これ」
「これは普段は別次元に格納されていてね。君が望んだ時にだけ取り出せる。これは様々なパーツで構成されていて組み合わせを変える事で色んな武器に姿を変える。剣や槍は勿論、銃やレーザーカノン。君が居た世界じゃ架空の兵器でしか無かった物まで使えるよ」
「マジで!?」
架空の兵器までって…まさかガン○ムとかパトレ○バーとか再現出来ちゃうの!?
「い、いや…流石にロボットは…でもロボットが使うような武装の再現は出来ると思うよ?ビームキャノンとか」
「それはそれで!」
いや、でも…その異世界の文明レベルがどの程度かわからないけど、ビームキャノンなんかはオーバーテクノロジーじゃないのか?
中世程度の文明レベルなら、ビームキャノンとか使った日にゃ…異端者とかオカルト扱いで魔女裁判にかけられたりしない?
「それは無いかなあ?文明レベルは地球で言えば十八世紀
初頭くらいで…雰囲気はヨーロッパに近いかな。勿論、地域によって差はあるし、文化も違うけれど。馴染みやすいと思うよ?魔法もあるし、魔法を使った道具もある。誤魔化しも効くさ」
そっか…それは良かった。
更に魔法もあるとなれば俺Tueeeeeへの道が見えた気がする!
ん?あれ?でもさっきは戦う必要は無いって…なのになんでこんなトンデモ装備を?
「それはさっきも言った通り赤ん坊の姿で転生してもらうからね。魔獣とか居るし戦争もあるし。死なれたら困るし、最低でも千年は世界中で子作りしてもらわないとダメだし」
「せ、千年?…ま、まぁ、それは置いておくとして。赤ん坊の俺が問題なく使えるんですか?これ」
使えたとしても赤ん坊が剣を振ったり銃を撃ったり出来ないと思うが…いくら特別製と言っても。
「それも大丈夫!君にはパートナーを用意してある!」
「パートナー?」
「そう!常に君と共にある、君と人生を最初から最期まで共にする事になる存在さ!まぁ、その子に関しては転生後にその子自身から聞くといい。必ず君を護ってくれるよ」
ふむ?どういう存在かはわからないが…転生した後のケアもバッチリという事か。
嫌な性格してなければいいけど。
「後は…そうそう!君はモテモテになる自信が無いみたいだけど転生後の肉体はそりゃあもう美男子だよ!ボクの最愛の子に似せたんだけどね!フェロモンもムンムンだからモテモテ間違い無しさ!」
「へぇ……って、子供も居るんですか?」
「うんうん。ボクのお腹で育って、股から生まれたわけじゃなく、ボクが創った、ボクの眷属…その生まれ変わりなんだけど…まぁ、それはいいじゃない!兎に角最高の美男子になれるのは間違い無いって事さ!」
「へぇ…はぁ…そっスか?」
まぁ…イケメンになれるなら、それに越した事はない、か。
俺を転生させたい理由を考えたら、イケメンなのは納得だし。
「他に何か聞きたい事はあるかい?」
「えっと特には…あ、いや、俺が選ばれた理由って何ですか?」
「君を選んだ理由?特に無いよ。強いて言えば異世界に転生するにはある程度の魂の強さが必要でね。その強さの魂を持っていて、尚且つ善性で、あのタイミングで死んだ者。その中からランダムで選んだのが君ってだけ」
お、おう…それはまた…随分な確率だったんだろうな。
善性って判断されたのは素直に喜んでいいのかな。
「他に無ければ、そろそろ転生してもらいたいんだけど。いいかな?聞き忘れた事があっても、大概の事は君のパートナーが教えてくれるだろうけど」
「そうですか…なら…うん、大丈夫です」
「そっか。ならいよいよ転生…って、その前に。大変に今更だけど、君の名前を聞いて無かったね。教えてくれないかな?」
そう言えば名乗ってなかったか。
てっきり名乗らずとも知ってるんだと思ってたが。
「美神です。美神 純」
「……」
ん?どうしたんだろう?
何か、難しい顔して黙ってしまったけど?
「……まぁ、ね。予想はしてたよ。前列もあるし、何処となく似てたし。しっかし…またこのパターンかぁ。因果だねぇ」
「因果?」
「ああ、ごめんごめん。説明するよ。えっとね、ボクが管理する世界ではどうも【ジュン】って名前の人物が特別な存在になりがちでね。君は前世の記憶を持ったまま、特別な身体で転生するし、名前はジュンだし。間違い無く特別な存在になる。特異点になると言ってもいい」
「特異点?」
この場合…転生先の異世界において、ひどく目立つ存在になるって事か?
そりゃまぁ…目立つだろうな、うん。
めっちゃイケメンで、数少ない男性。
それも不老不死となれば嫌でも目立つだろ。
「人間の視点から見ても目立つだろうけど、それだけじゃなくてね。神から見ても目立つって事さ」
「神から見て?」
「うん。さっきボクに恨みを持つ神が居るって話をしたろ?その神が君を見たら、君がどういう存在かわかってしまう。そうなると、だ」
「まさか…俺に嫌がらせをしてくると?」
「可能性は高いね…なんか、ごめんね?」
まさか俺にまでとばっちりが来るとは…来ると決まったわけでは無いが。
「あ〜…あともう一つ」
「まだ問題があるんですか…」
「これは問題というか…ボクが管理する世界で特別な存在になった【ジュン】には必ずと言っていい程に【アイシス】か【アイ】、【ユウ】って名前の女の子が側に居てね。君が主人公だとしたら、その子達はヒロイン的な存在かな?その三人の内の誰か、或いは三人共に君の前に現れる可能性が高い」
「…へぁ?」
ヒロイン?俺の?
え?俺のヒロイン、出会う前から決まってるの?
「それも因果というかなんというか…現段階で決まってるわけでも無いし、いつ、何処で、どんな形で現れるかはわからないけど…そういう可能性があるとだけ覚えておいて」
あくまで可能性の話…という事か。
でも神様が言うと、予言としか思えないな。
「じゃ、ボクからは以上さ。今度こそ転生してもらうけど、いいかな?」
「あ、はい。お願いします」
「よっし!それじゃ行ってらっしゃぁ〜い!出来るだけ早く子作りしてね!よろしくぅ!」
その言葉を最後に、俺の意識は一度途絶えた。
そして目覚めた時には……
「あぶぅぶぅ(何処だ?此処…てか、外?)」
満天の星空の下だった…
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