第7話 相棒でした
「この部屋よ」
「此処を好きに使ってください。大体の物は揃っていると思いますが、足りない物があれば言ってください」
「お姉ちゃんは一旦帰るわね。院長先生や他の子供達が心配してるから」
「夜にはジュン君の歓迎会よ」
「それまではゆっくりしてください」
そう言ってソフィアさん達は離れて行った。
どうやら一人で考える時間をくれたらしい。
それは正直有り難い。俺も考える時間が欲しかったから。
ただし…
「おい。そろそろ目を覚ましてくれないか」
『…ん。ふぁぁ〜おはようさん、マスター』
一人、では無いけどな。
『ん?あれ?まだ孤児院におるん?て、孤児院ちゃうな、此処。どこなん、此処』
「ああ、説明するよ」
この、俺の呼びかけに応えて出て来たのは黄金のモーター○ッド…ではなく。
俺の身体から出て来たのは光る玉。
転生の際、女神からもらった生きるアイテムとも言える、俺の転生ライフにおける相棒。
その名もメーティスだ。
彼女がどういう存在なのか、詳しくはまた後で語るとして。
メーティスに今の状況を説明する。
『…はは〜ん。やっぱりなぁ。マスターの理想通りの冒険者ライフは送られへんやろとはおもとったけど。まさか第一歩目で拉致られるとは。マスターも大概不運やなぁ』
「やっぱりて。襲われるってわかってたのか?」
『せや。それは前から言うとったやろ?少なくとも冒険者デビューしたら絡んで来る連中はおるし、安穏とした冒険者ライフは難しいと思うでって』
「確かに言ってたけど…」
大体は実力で黙らせる事が出来ると思ってたし、出来るはず。
しかし、まさか親しい人、友人と言って良い人達に誘拐されるとは思ってなかった。
「大体、お前はなんであの時起きなかったの?いつもなら…」
『それも前に言うたがな。マスターにとって害のある行動でも、そいつに悪意が無ければわいは反応でけへんて。馬車にひかれそうなマスターを突き飛ばして怪我させたからって悪意ある行動とは言わんやろ?』
例え、俺が馬車に気付いていて充分に対処可能だとしても悪意無くした行動にメーティスは反応出来ない。
そういう事らしい。
それは確かに聞いてはいたが…
「悪意なく誘拐とか出来るものか?」
『まぁ…かなりグレーなラインやと思うけど…根底にあるのは確かにマスターへの善意と好意やろ。誘拐って手段が如何にも脳筋の白薔薇騎士団らしいけどな。アハハ』
善意と好意?
そうなかなぁ…あの人達もそこそこ欲望にまみれてると思うけども?
「てか、脳筋て。お前白薔薇騎士団をそんな風に思ってたの?」
『せや。我ながら正しい評価や思うで?だってマスターを誘拐するために地下下水道を拡張するって。如何にも脳筋が考えそうな事やん?』
……確かに、そうかもしれない。
でも、クライネさんとか知性派だと思うんだけど。
『しかしまあ、考えようによってはこれで良かったんとちゃうか。マスターを狙ってるっちゅう連中はいずれは何とかせなあかん事やったわけやし。それが冒険者ライフを始める前か途中からの違いってだけやろ、現状は』
「ううむ…」
そうなんだけど…しかし、少しくらい俺Tueeeeeをさせてくれても良かったのでは?
『それに保護してくれたんが白薔薇騎士団なのはラッキーやろ。ピオラ姉ちゃんの考えは正解やったと、わいも思うで?花丸あげてもええくらいや』
「ほう?さっきは脳筋とか言ってたくせに。白薔薇騎士団の評価は高いのか?」
『せや。白薔薇騎士団の姉ちゃん達は言うなればやな…恋に恋する純情乙女な脳筋集団やろ』
「純情乙女と脳筋…」
それって同居していいのか…?
いや、しかし…うん、言い得て妙。
『他に名前の挙がった連中と比べても白薔薇騎士団が一番まともやと思うで?ローエングリーン伯爵家は…マスターを欲しがる理由次第やな』
「うん?じゃあメーティスのカタリナに対する評価は?」
『ツンよりのツンデレ、脳筋巨乳金髪ツインテール』
カタリナも脳筋なのか…まぁ出会いからして剣を振り回してたしな。妥当な評価かもしれない。
「じゃあクリスチーナ」
『露出狂のインテリ銀髪ナルシスト』
「え?クリスチーナって露出狂なの?」
嘘だろ…全然知らなかった…何故いつも俺と一緒に居たメーティスが知っていて俺が知らない?
『まぁマスターと一緒にいたからこそ気付けたっちゅうか…』
「じゃ、じゃあアム達は?」
『アム達はマスター依存症やな』
「依存症?俺に?」
『せや。まぁ、それは他の孤児院出身のヤツにもおるし、長い時間マスターと生活した者ほど酷い。あの三人は特にやな』
依存症…そうなのか?
確かに、何かにつけて頼られていたし俺が冒険者になるって言ったから、あの三人も冒険者になったようなものかもしれないが…孤児院を出た後も毎日のように会いに来てたし。
『今頃マスターが冒険者ギルドに来るのん待っとるんとちゃうか。んで、マスター来ないって騒ぎ出して孤児院に行って誘拐されたって聞いて半狂乱。ピオラ姉ちゃんが宥めすかして白薔薇騎士団が保護してるって聞いて此処に突撃かますんや』
わぁ〜…何でだろう。その流れは目に浮かぶようだ。
「一応聞くけどお隣りのシスター達は?」
『無害なファンやな』
「え?何、その無茶苦茶意外な評価」
無害なファン?俺の?
『せや。あくまでエロース教ノイス支部のシスターさん達に限った話しやけどな』
「いや…いやいや。エロース教の教徒…シスターってだけで無害なわけが…」
『だから、他のシスターさん達はアウトやろな。でもあのシスターさん達はセーフ。あのシスターさん達は個人的に味方に付けるんは、アリよりのアリやと思うで。エロース教の動きとか教えてくれるやろし』
「ええ…」
そうかなぁ…でもソフィアさんがシスター達も俺の確保に動いてるって言ってたけど?
『それは白薔薇騎士団と同じで目的は保護やと思うで?ただエロース教の上層部に間違い無くバレるし、シスターさん達に保護されるんはオススメでけへん。でも味方に付けるんはオススメや』
「ん〜…」
『マスターは神子にされるんが怖いんやろし、実際エロース教のお偉方に知られたらそうなるやろけど…あのシスターさん達に神子にならないか?なんて言われた事ないやろ?』
それはまぁ…確かに?
でも、それは俺が子供だったからで…
『エロース教が本気になったら孤児院の子供なんて未成年やろうが関係あるかいな。でもマスターが男やって知ってる上で、ノイス支部のシスターさん達しか動いてないんやろ?それにあのシスターさん達から悪意を感じた事ないしな』
「…そうだな」
それは俺も認める。シスター達には本当によくしてもらっていた。
「でも、それならそれでわからないな。俺のファンってなに?神子になって欲しいわけじゃなく、ただアイドルみたく憧れてるとでも?」
『ん〜…うん、それが一番近い例えかもしらんなぁ。マスターがアイドルでシスターさん達がファン倶楽部の会員や』
え〜…何でだよ。特になんかあったわけでもないし…
『まぁ、以上の事を踏まえて、現状についてのわいの結論を言うとやな。諦めろ、や』
「諦めろ!?え?現状を理解してもらった今から現状打破の為の相談をしたかったのに?!」
『せやから…今後の為に現状を受け入れて大人しくしときって事やん。マスターがなんともできん事をやってくれるっちゅうてるんやろ?』
「せやけどお前さん!わては今日!やっと夢の冒険者ライフ…憧れの俺Tueeeeeの第一歩目を!」
『マスターって時々わいの口調真似るな…まぁええんやけど。それは始めっから難しいって言うて来たがな。それでもやりたいっちゅうから色々アドバイスして来たし、冒険者になる一歩手前まで来れたやん?』
確かに…確かにそうなんだけども!
十五年だぞ?十五年待って、ようやくここまで来たのに!
『まぁまぁ。これからのマスターの永い永い人生の、たった半年、長くて一年程度やろ?ええやん、それくらい。十五年待てたんやから、待てる待てる』
くっ…こいつめ…正論ばっかり…
『実際、それが一番ええんやから、しゃあないやん?元気だしいや。な?マスター』
「はぁ~…何でこんな事になったんだか…」
『そりゃ…なるべくしてなったんやろ』
「は?何だよ、それ。俺の行動のせいだとでも?」
『せやで?』
「何でだよ!」
俺が一体何したっちゅうねん!
俺が何かしたっちゅうならお前のアドバイスに従った結果ちゃうんかい!
『いやいや。確かにわいはアドバイスしたけど、アドバイスした結果取った行動は全部マスターの選択やし?大体わてのアドバイスはマスターの希望を叶える為のアドバイスやしなぁ。それをわいの責任みたいに言われても。全く無いとは言わんけど、ほぼマスターに責任やろ、うん』
くっ…落ち込んでる時に正論パンチは普段より効くんだぞ…
『まぁまぁ。せや!いい機会やし、今までの事を振り返ってみようや。反省の意味も込めて』
「ええ?何でだよ…」
『エエからエエから。ほら先ずは女神様との出会いからや!』
「そこからかよ…」
ええと…アレは…俺が前世で大学の帰りに事故にあって死んだ時に…
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