第6話 姉でした

「怪我は…無いみたいね。良かった」


「私達がジュン君に怪我させるわけないじゃない」


「何もされてない?具体的に言うと童貞奪われてない?」


「ど!?そんなわけないじゃない!」


「団長…この人、私達の事目に入ってないですよ…」


 食堂に入ってからずっと俺を見て視線を外さない女性はピオラ先生。


 俺が孤児院に入った時には彼女も孤児院で暮らす子供で、その時彼女は六歳。


 十五歳で孤児院を出る決まりだが彼女は孤児院に留まり職員となった。


 子供の頃からも先生になってからも、一番俺の面倒を見てくれた人だ。


 今日、孤児院を出る時に同棲しようと言っていた人でもある。


 そして、彼女も俺が男だと知っている。


「ピオラ先生…此処に来て大丈夫なの?院長先生達は大騒ぎのはずじゃ?」


「それは大丈夫よ。あの後ーー」


「大丈夫大丈夫。あの後すぐに白薔薇騎士団の別働隊が来て、すぐに追っかけてジュンを保護したって報せが来たから。そこで私が代表して様子を見に来たって形になってるの。ま、もう聞いたんだろうけど全部この人達の自作自演なんだけどね」


「……」


 団長の言葉を遮って話す間も一切俺から視線を外さずに話すピオラ先生。


 この人、昔から俺に対する執着心が強い。

俺が冒険者になる事に最後まで反対していたのもピオラ先生だ。


 いや、それは今でも、か。


「ピオラ先生は…」


「ねぇ、ジュン。此処は孤児院じゃないんだし、ジュンは一応は孤児院を出た身なんだから、もう私の事を先生って呼ぶ必要は無いんじゃない?昔みたいにピオラお姉ちゃんって呼んで欲しいなぁ」


「…先生は…」


「お姉ちゃん」


「先…」


「お姉ちゃん」


 …これだ。

この人、どういうわけか俺にお姉ちゃんと呼ばせたがる。


 孤児院の職員になった時、いい機会だからとお姉ちゃん呼びを止めて先生と呼ぶと言ったら泣き喚いて泣き喚いて大変だった。


 その時は二人切りの時はお姉ちゃんと呼ぶと約束して宥めたのだが…六年経っても変わらずこれである。


「……ハァ〜。ピオラお姉ちゃんはどうして白薔薇騎士団に協力を?クリスチーナ達に協力するならわかるけど」


「…うふっ。まあね〜。その様子だと大体は聞いたのね?勿論、クリスチーナ達にも協力は頼まれたし、聞かれた事には答えたわよ?でも、あの子達じゃ足りないのよ」


「足りない?何が?」


「権力・パワー…ジュンを護るの必要なもの、全てよ」


 権力・パワー…つまりは俺を狙ってるという存在をピオラ姉も知っている、と。


 そして、それらから俺を護るには白薔薇騎士団が一番だと。


 そう判断したのか…正直、意外だ。


「そう?」


「だってピオラ先…お姉ちゃんは白薔薇騎士団の人達と仲良くしてなかったでしょ?」


「そうだけど、別に仲が悪かったわけでも無いわ。それにこの人達が一番まともだし」


「まとも?クリスチーナ達やカタリナはまともじゃないって事?」


「うん。絶対まとも…普通じゃない。お姉ちゃんが断言しちゃう」


 …断言しちゃうのか。

なんかおかしな行動してただろうか?


 クリスチーナは自信家でナルシストではあるが、おかしな事はしてなかったと思うし、アム達三人はやんちゃではあったが大人になるにつれ落ち着いていったし。


 冒険者らしく口調が荒っぽい所もあるが。


「じゃあカタリナは?あいつは素直じゃないってだけで、別に普通じゃないってわけじゃ…初めて会った時は兎も角」


「…ある意味、とっても素直でわかりやすいと思うけどね。確かにカタリナさんは大丈夫かもしれないわ。でもあの子の事は信用出来てもローエングリーン伯爵家は出来ないわ。聞こえて来る噂じゃ貴族の中ではまともかもしれないけど、貴族ってだけで色々な面倒が増えるに決まってるもの」


「…確かに」


 ローエングリーン伯爵家が俺を確保してどうするのかはわからない。


 だが過去にあったパターンとローエングリーン家の評判から考えたら…何処かの貴族家に養子にとらせてカタリナと結婚させるってとこか。


 伯爵家の養子にして別の有力貴族に差し出すってのは無いと思いたいが…カタリナの家族…ローエングリーン伯爵とは会った事が無いからな…どうだろうか?


「エロース教に関しては言うまでもないわよね〜」


「まあね」


「論外も論外。権力だけを見れば一番かもしれないけどジュンを種馬にするような宗教に渡すわけにはいかないわっ」

 

 うんうんと。

その場にいる白薔薇騎士団の全員が同意とばかりに頷く。


 種馬生活は俺もやだ。


 あの女神は賛成するんだろうけど…


「ま、そんなわけで白薔薇騎士団が一番まともかなって」


「…でも白薔薇騎士団にだって貴族はいるじゃん?団長だって貴族でしょ」


「確かに私は貴族だけど、実家には口出しさせないわ。もう私が当主だしね。フフン」


 ソフィアさんは子爵家の長女。

しかし戦争で活躍して騎士団内でトントン拍子に出世。

今では伯爵家の当主だ。


 じゃあ結局は貴族に関わるんじゃんって?

俺もそう思ったよ?でも…


「ソフィアさんにはあくまで白薔薇騎士団としてジュンを保護するって約束して貰ってるから。ジュンの意思を可能な限り尊重して貴族にも関わらせないって。それが出来るだけの力があるのはクリスチーナ達じゃなく白薔薇騎士団よね」


 …まあ、確かに。

権力はローエングリーン伯爵家も中々だけど…ソフィアさんも伯爵。

更にアインハルト王国最強騎士団の団長。

 

 大概の権力者に勝てるはず。

例外は王家だろうけど…今の王家は孤児院の子供に目を向けたりしないだろうからな。


 誰かが教えたりしない限り。


「まぁ、そんなわけで。此処に自由に出入りする権利と引き換えに協力したってわけ。わかった?」


「うん、まぁ……ん?此処に自由に出入りする権利?」


「そ。…あ、もしかしてこれからは此処で暮らすって聞いてない?」


「誰が?」


「ジュンが」


「俺?」


「そ」


 ………はぁぁぁ!?

此処で暮らす!?白薔薇騎士団の宿舎で!?


 なんでやねん!


「そう言えばその話はまだだったわね」


「ですね。あのですね、ジュン君。先も言った通り、ジュン君を狙う組織や権力者は沢山います」


「そいつらを黙らせるには時間が必要なのよ…それはわかるわよね?」


 そりゃ…まぁ。

貴族は欲しい物は必ず手に入れるって人多そうだしなぁ。


 それはクリスチーナ達も同じだし。


「だから、今日だけ凌げば良いって話じゃなく、ジュン君は白薔薇騎士団の保護下にあるって広く知らしめ納得させる必要があるのよ。そうでないと今度は本当に誘拐されかねないわ」


「そうした後でも、あの手この手でジュン君を手に入れようと動く者は多いでしょう。ですから、ジュン君には此処で暮らしてもらうのが一番なのです」


 …まぁ…話しはわかったけど…でもなぁ。

こうなると実力を隠してたのが完全な裏目たな。


「だからジュン君には悪いとは思うけど、根回しが済むまで外出も禁止ね」


「…は!?外出も禁止!?」


「仕方ないよ。お姉ちゃんもそれには賛成〜」


「出来るだけ早く外出出来るようにしますから…でも、そうですね…早くて半年。長くて一年以内には何とか…」


「半年!?一年!?」


 ソンナバカナ!

転生して早十五年!待ちに待った冒険者デビューの日になるはずだったのに!


「そ、そんなに落ち込まないで…私達もジュン君が冒険者に憧れてるのは充分にわかってるから」


「宿舎内なら自由して構いませんし、小さいながらも訓練場もあります。不便は無いようにしますから…」


「ピオラお姉ちゃんは毎日会いに来てあげるから。いい子にして我慢しなさい。ね?」 


「でも…俺…俺は…」


 俺Tueeeeeがしたいんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!




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ソフィアの身分に関する部分を修正しました。

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