第5話 仲間でした
「次の組織は…ジュン君が良く知ってるエチゴヤ商会よ」
「……へ?」
エチゴヤ商会?へ?なんでやねん!?
「なんでって…むしろ彼女達は当然じゃないかしら?」
「エチゴヤ商会の目的はジュン君を捕まえるというより保護…私達と同じで護るのが目的ですから。ですので彼女達と協力も視野に入れていたのですけど…」
「拒否されてしまったのよね」
「思えば私達は昔からエチゴヤ商会の会長クリスチーナに敵視されてましたからね」
「どうしてかしらねぇ」
エチゴヤ商会…名前からなんとなく察せられると思うが、名付けたのは俺だ。
このエチゴヤ商会…実は俺と同じ孤児院出身者が創った商会なのだ。
というのもこの世界は…学校はあるにはあるが富裕層向けとなっており、一般人が学べる場は少ない。
文字や歴史、簡単な算数なんかは親兄弟から習うのが一般的だ。
しかし孤児院の子供に親兄弟は居ないし、孤児院の先生達も忙しい為に教わる時間も少ない。
そこで前世の記憶を持つ俺が冒険者になる為の訓練の合間に教師の真似事をしたのだ。
文字は幸いというか何というか、カタカナ語と漢字の組み合わせと少しの英語という御都合主義万歳な展開だったし、日本で大学生をしていた俺には算数を教えるくらい簡単だった。
中には商売の基本を教えた子もいる。
その商売の基本を教えている中に居た三つ年上の女の子、クリスチーナ。
彼女は成人して孤児院を出ると行商人になった。
そして僅か一年で一財産を築き、王都ノイスで店舗を構え、更に一年後には複数の店舗を持つに至り、現在では大商会と呼ばれる程に大きくなった。
十五歳から商売を始めて僅か三年。
たった三年で大商会の会長に伸し上がったのがクリスチーナだ。
そのクリスチーナが店舗を構える際、店の名前を決めて欲しいと頼まれた結果、エチゴヤの名前を付けたのだ。
…ネーミングセンスが無いとかは言わないように!
異世界で創る商会の名前と言えばエチゴヤ!
異論は認めない!
…んんっ。以上がエチゴヤ商会設立の簡単な経緯。
そして俺とクリスチーナの関係だ。
ただ、そのクリスチーナだが…商人として才があるのは間違い無い。
俺が商売の基本を教えたし、何なら異世界転生の御約束の知識チートで目玉商品となるようにマヨネーズや石鹸の作り方を教えたりもした。
だからこそ三年で大商会の会長になれたわけだが、本人の努力と才能があったのは間違い無い。
間違い無いのだが…このクリスチーナ、自信家で超が付くナルシストなのだ。
孤児院に居た時も鏡の前で自分に見惚れている時が多かったし、俺にも「私は美しいだろう?」なんて言って来た。
同じくらいの回数で将来は孤児院の子供達全員、自分の商会で養ってやる、とも言っていた。
実際、孤児院を出た子供達の何人かは従業員として雇っているし、孤児院への寄付もしてくれている。
そんなクリスチーナには俺も従業員にならないかと誘われてはいた。
だから従業員として勧誘に来るのならわかるのだが…確保に動くとは一体?
そもそもクリスチーナにはそういう荒事には向いてないと思うが。
「そこはほら、同じ孤児院出身の冒険者チームを頼る予定だったのよ」
「冒険者ギルド王都ノイス支部所属の冒険者チーム『天使の守り手』ですね」
「…なるほど」
孤児院出身者には大きく分けて二つの道がある。
何処かで誰かに雇われるか、冒険者になるか、だ。
クリスチーナのように行商人になり大商会の会長にまでなると言うのは例外中の例外なわけだ。
そしてクライネさんが言った『天使の守り手』と言う冒険者チームはクリスチーナと同じ年に孤児院を出た三人で創られたチームだ。
チームリーダーの戦士アム。弓士のカウラ。魔法使いのファウ。
この三人はクリスチーナと仲がよく、クリスチーナと同じように俺から勉強を教わっただけでなく、ソフィアさん達から手解きを受け、俺と同じ訓練に参加したりもした。
結果、若手冒険者チームで期待の星と評価され王都でも有名な冒険者チームとなった。
そのアム達を資金面で支援していたのが、クリスチーナだ。
俺も冒険者になったら支援してやると言われていたし、なんなら自分から顔を出すつもりだった。
アム達とは何も言わなくても会う事になっただろうし。
「その時から私達ってクリスチーナ達には何処か敵視されてた気がするのよね」
「ですね。アム達は訓練をしている時は素直でしたが、私達と訓練をしていないクリスチーナは時々睨んでいましたね」
それは確かに。
しかし、それはソフィアさん達だけじゃなくカタリナに対しても同じ。
もっと言えば孤児院の子供達と先生達以外には心を開いていなかった。
でも同じ孤児院の仲間には甘々。
それが自信家でナルシスト、天才商人クリスチーナだ。
「だから、まぁエチゴヤ商会に関しては其処まで警戒しなくても良いのかもしれないけれど…協力を断わられた以上は警戒するしかないのよね」
クリスチーナ達は……うん、大丈夫だと信じたい。
俺が男だって知らない筈だし。知らないよね?
「さて…ジュン君を狙ってる組織で要注意なのは以上の三つよ」
「後は偶然ジュン君が男だと知った弱小貴族や弱小商会。クリスチーナ達以外の孤児院出身者達。それらは私達が睨みを効かせるだけで封殺出来ます」
「え。俺が男だって、そんなにバレてんの?」
「えぇ。言ったでしょ?完璧には隠せないって」
「潰せる所は潰したのですけどね」
……何処でバレたんだ?
そりゃ完璧な女装をしていたわけじゃない。
この世界の女性の服装は男が着ても違和感が無い物が多いし、冒険者なんて特にそうだ。
前世の価値観に近い、女らしい服装なんて上流階級の人だけだ。
言動だって男勝りな人が多いし…前世の男としての振る舞いで、何ら問題無かった筈なんだが。
「上手く隠せてたとは思うけどね。どうしても違和感は生まれるものよ」
「では、他に何か聞きたい事はありますか?」
「はい。孤児院の中に白薔薇騎士団のスパイが居ますよね?誰ですか?」
「…わ〜お。鋭いわね…」
「驚きました…何故わかったんですか?」
「俺が今日、孤児院を出る事は孤児院の人間以外には言ってませんし、何時に出るかは先生達に言ったのも当日ですから」
ソフィアさん達の計画は孤児院を出る時間も把握して無ければ無理だ。
そうで無ければ誰よりも早く俺を拉致するのは不可能だ。
そうで無くとも、俺が他の誰かに誘拐されないか監視が必要。
そして、それは恐らく…あの人だ。
「…良いわ。此処に通して。団長、丁度来ましたよ」
「良いタイミングね。ジュン君、今から来る人物が私達のスパイよ」
なんと。今から来る?
という事はスパイ活動だけでなく、この誘拐作戦にも、あの人は深く関わってるらしい。
「来たわね」
「ジュン君、この人ですよ」
其処に現れたのは予想通りの人物。
見送りに並んでくれていた孤児院の先生達の一人。
「やっぱりですか、先生」
「あれ?もしかしてバレてた?」
先生達の中で一番若い、ピオラ先生だ。
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