第4話 お隣さんでした

 ……………は?


 エロース教?

この世界において最大にして最多の信者を抱える宗教が?


 あの女神を信仰してる事は…言いたい事はあるがいいとして。


 世界最大宗教が俺を?


 何それ、詰んでない?


「正確にはアインハルト王国王都ノイス、エロース教支部になるわね」


 エロス教全体が俺を狙ってるわけじゃないのか…良かったと言うべきなのか?


「しかし…エロース教王都ノイス支部って…」


「うん。孤児院のお隣りさんね」


「私達が動かなかった場合、ジュン君はエロース教に捕まってた可能性が高いですね。冒険者ギルドに向かうのに前を通ったでしょう?」


「馬車からチラッと見えたけど、教会の前に何人かシスターがいたものね」


 それどころか、挨拶に行くつもりでしたが?


 だって孤児院の隣に教会がある関係上、少なからずお世話になってたし。


 孤児院の運営費は主に国から出てるし、職員も子供達も、全員がエロース教の信者というわけでもない。


 それでもエロース教から孤児院に寄付、服やお菓子をくれたりした。


 強引な勧誘も無かったし、良好な関係だった筈だ。


 現に、俺は信者じゃないけどシスター達は仲良くしてくれたし。


「まぁ…表向きはね。でも…」


「エロース教は確かに世界最大の宗教で、私達も信者です。ですが…」


「教義の内容的に…あのシスター達、間違い無くドスケベよ?」


「…ですよね~」


 エロース教の教義…それは…簡単に言うと…兎に角エロく生きましょう、だ。


 前にも言ったが、この世界は男性の数が極端に少ない。


 数百年前から男性の出生率が著しく低下。

今では戦うのは女なのが普通だが、昔は男が戦うのが普通。


 その為戦争のたびに男性が減った。


 男性は世界で最も重要かつ貴重な資源と言える存在になってしまったのだ。


 そこで人々が救いを求めたのがエロース教。

前世の世界…ギリシア神話にも登場したエロースは恋愛と性愛の神。


 この世界では子宝と性愛…そして享楽の神だ。

ギリシア神話に登場した神エロースがこの世界にも登場する話しはまた後でするとして。


 そんな女神を信仰する宗教が救いを求めた人々に拡めた教義。


 それは…


『こんな時こそ楽しんでエロい事しまくってバンバン子作りしましょ!』


 …だ。


 一応は理屈は通っている。

男性が減ってしまったのだから、沢山子作りして増やせばいい。


 そこでエロース教は妊娠薬やら媚薬やら精力剤やら。

果てには大人の玩具まで。それらの製作から販売まで全てを主導。


 信者の獲得と併せて拡めていった。


 それは世界事情もあって爆発的に拡散。

あっと言う間に世界最大宗教にまで伸し上がった。


 そんな教義を拡めたら性犯罪とか増えそうなものだが、強姦はエロース教において最も重い罪の一つになっている為、性犯罪の増加には繋がらなかった。


 ただし…女性が男性を襲うパターンの性犯罪は増加した。


 エロース教の布教により、人口は増加した。

しかし男性の出生率は下がる一方で、男はどんなにブサイクでもモテモテ。


 女を襲う必要など無い。

今では男であるというだけで働く必要も無く、子作りだけしていれば良いという国もあるくらいだ。


 つまり世界は極端な女余り。

奥手な女性に貰い手は無く、生涯未婚のままで終わる事も珍しくない。


 世界中の国全てが一夫多妻制になっている現在でもそれは変わらず、世の女性は婚活に必死なのだ。


 そしてこの世界の女性達の貞操観念は非常にゆるく。

 処女なんて全く価値が無い物となっている。


 つまり、そう…この世界は貞操観念が俺が元居た世界とは全く逆と言っていい世界なのだ。


 …逆とは言っても、ここまで極端な世界じゃなかったが。


 そんな世界故に娼館なんて物は存在せず。

 当然女性用風俗なんて物も存在しない。


 王族や貴族、大商会の会長といった権力者ならなんとか男を用意出来たりもしたが大半の女性はそうはいかない。


 そこで、世界中に溢れる欲求不満な女性達に救いの手を差し出したのもエロース教。


 エロース教は信者に生まれた幾人かの男性を女神エロースの御使い…神子とした。


 そしてエロース教の神職に就けば定期的に神子の御情けが貰える…つまりは子作りが出来る、としたのだ。


 一般信者は高い御布施を払えば同じように御情けが貰える…ぶっちゃければ男娼の斡旋をエロース教全体で始めたのだ。


 これがもう効果覿面だった。欲求不満に喘ぐ女性達に、それはもう効果覿面だったのだ。


 その神子は現在でも存在している。

そしてエロース教の教会でシスターとして働いているという事は…そういう事だ。


 長くなったが、以上がソフィアさんがシスター達をドスケベと言う理由だ。


 前世じゃドスケベなシスターとか大好物だったんだけどな…出会った事無いけど。


 俺を確保したいという事は俺を神子にするつもりなんだろう。そうなったら最後シスター全員が孕むまで搾り取られる事になる。


 下手すれば王都ノイス支部のシスターだけじゃ済まないかも…


「済まないわね。彼女達の目的はジュン君を神子にする事の筈。ジュン程の美少年を神子にしたとなればアインハルト王国中のエロース教のシスターが集まって来るわね」


「間違い無いですね。一般信者にまで解放するかは…読めませんね。エロース教で独占が一番可能性が高いかと」


「私達が誰よりも早くジュン君を確保しようとした理由、わかってもらえた?」


「…はい」


 エロース教に捕まってしまったら、正面から奪還する訳にいかない。


 何せ相手は世界最大宗教。

アインハルト王国最強騎士団とはいえ、たかだか騎士団一つで戦って勝てる相手ではない。


「ただ…一つわからないのは何故、ノイス支部単独で動いていたのか、て事ね」


「ですね。エロース教全体で動けば王家だって動かせたでしょうに。そうなっていれば私達でジュン君を確保なんて出来なかった筈です」


 それは…なんでだろ?

俺としては助かったけども。


「まぁ、今はわからない事を考えても仕方ないわ。で、次の組織はーー」


「まだあるんですかぁ?」


 もうローエングリーン伯爵家とエロース教だけでお腹一杯なんですけど…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る