第3話 友達でした

「着いたわ。ようこそ、ジュン君。私達の家へ」


「はぁ…お、お邪魔します?」


「ここから入れます。どうぞ」


 地下下水道から梯子を登って出た先は白薔薇騎士団の宿舎。


 より正確には宿舎の裏庭、そこにある物置小屋の中。

小屋の周りには木があり、宿舎周辺の建物から見えにくくなっている。


 秘密の出入口を造るには丁度良い場所かもしれないな。


「団長!おかえりなさい!」


「その様子だと上手く行ったんですか?」


「上手く行ったんでしょ?上手く行ったんですよね?上手く行ったって言え!」


 宿舎に入ると、十人ほどの女性達が出迎えた。

彼女達も白薔薇騎士団員で顔見知りだ。


 しかし、もっと大勢待っているかと思えばそうでもない。


 白薔薇騎士団は総勢千名の騎士団で、その大半がこの宿舎で生活している筈だが。


「落ち着きなさい。作戦は成功よ」


「まだ詰め残っていますし、後始末もありますが、ジュン君をここまで連れて来れましたからね。成功と言っていいでしょう」


「成功?という事は…」


「あっー!ジュン君!」


「あたし達の嫁ー!」


「誰が嫁か」


 俺を保護するなんて言ってたけど…この人達も他の組織とやと大差無いんじゃなかろうか。


「やめときな」


「抜け駆けするとうらまれるよ?」


「大半はまだ帰って来てないんでしょ?」


「う…うぅ…仕方ない」


「そういう約束だった…」


「そうそう。白薔薇騎士団淑女協定は絶対尊守!」


「破った者はジュン君を嫁にする資格無し!」


「だから誰が嫁か!」


 俺に抱きつこうとしてたのを止めたのはいいが。

やっぱりこの人達も大差無い…いや、もう同じと断じていいだろう。


「…で?話の続き…してもらえるんですよね?」


「ええ。でも少し待って。クライネ、報告を」


「はい。作戦は全て順調。作戦変更の必要はありません。まもなく作戦は最終段階に入ります」


 宿舎に入ってすぐ、部下の女性と話してたクライネさんはそう言う。


 どうやら報告を聞いていたらしい。


「そう。ならもうすぐ彼女が来るわね。それまでに説明を終えましょうか。おまたせ、ジュン君。こっちでお話ししましょ」


「…彼女?」


 そう言って通されたのは食堂だ。

先に述べた通り、この宿舎には千名いる白薔薇騎士団の大半が暮らしている。


 その割には人気が少ない…いや、この時間だと普通に考えてまだ仕事中…王城にいる時間か。


 と、思いきや。


「白薔薇騎士団は現在、全員が休暇中よ」


「先日の魔獣討伐の功により、一ヶ月の休暇を戴けたのです。御蔭で、今日の作戦に人員の大半を回せましたし、準備にも余裕が生まれました」


「宿舎に残っていたのは不測の事態に対応するための人員、そして連絡要員ね」


 という事らしい。


 つまりは白薔薇騎士団の全員が俺の誘拐に関わってると。


 王国最強の騎士団が数年かけて準備した誘拐作戦…そりゃ問題なく進むわけだ。


「ふぅ…さて話の続きだけど…何から聞きたい?」


 食堂の椅子に座り、クライネさんが淹れてくれた御茶を飲んで一息ついてからソフィアさんはきりだしだ。


 まず聞きたいのは…


「じゃあ…俺を狙ってる組織や団体とは?」


「うん。沢山あるから取るに足らない木っ端貴族や弱小組織は省くわよ?」


「それらを含めるときりがないですからね。では先ずは…ローエングリーン伯爵家。ジュン君獲得に動いている貴族家の中では一番の大物ですね」


「ぶっ!?」


 思わず御茶を吹いてしまった。

いや、でも無理もないだろ?

だって数多いアインハルト王国貴族の中でもかなり有名…他国でも、知らない者は居ないとまで言われる超有名貴族。


 英雄と称される人物を複数輩出して来た名門中の名門。

そんなローエングリーン伯爵家とこれまでに関わりなんて……無かった筈だが。


「もう…ジュン君たら…いきなり御茶を吹きかけるなんて…ありがとうございます!」


「あ、すみません…いや、なんでありがとう!?」


「そうですよ団長…ジュン君の唾液が混じってるであろう御茶を吹きかけられて喜ぶなんて…羨ま死ね」


「あんたも何言ってんの!?」


 ソフィアさんにクライネさん…こんな人だっけ?

今までは多少のセクハラはあれど、優しく真面目な人だと思ってたんだけど…


「んんっ…えっと、次はエローー」


「いや、待ってください。先にローエングリーン家が俺を狙う理由を教えてください。正直、心当たりがありません。今まで接点もありませんし」


「あぁ…それはね…カタリナさんよ」


「…へ?カタリナ?って、あのカタリナ?孤児院によく遊びに来てる?」


「そう、そのカタリナさん。彼女のフルネームはカタリナ・リーニャ・ローエングリーン。ローエングリーン伯爵家の嫡子よ」


「……ふあっ!?」


 あのカタリナが?

昔、街中で喧嘩売って来て返り討ちにしたら孤児院までリベンジに来て、それも返り討ちにしたらまたリベンジに来て、を繰り返す内に他の子供達と仲良くなって、いつの間にか普通に遊ぶ友達になったあのカタリナ?


 身なり振る舞いからして良いとこのお嬢さんだとは思ってたけど…


「良いんですか、団長。カタリナ嬢はジュン君には秘密にしていたのでは?」


「そうだけど、いずれバレる事よ。ローエングリーン家に招くって事はそういう事でしょ?それにジュン君を手に入れようとするという事は私達の敵。敵に容赦する必要は無いわ」


「そうですね」


「納得するんだ…」


 しかし、あのカタリナがねぇ…初めて出会った時はお転婆で剣を振り回す我儘なお嬢様で、仲良くなってからはマシになっていった。


 だが最近は眼が合うとすぐにそっぽを向いて、どうかしたかと聞くと「何でもない!」と言って怒りだす。


 今も昔も困ったちゃんだ。とても名門ローエングリーン伯爵家の嫡子とは思えない。


 悪い奴じゃないんだが…美少女だし。


「ローエングリーン家がジュン君を欲しがるのはカタリナさんを通して君の話を聞いて、興味を持ち調べた結果でしょうね。ジュン君が男だって事も知ってる筈よ」


「他の貴族家にジュン君を知られないようにローエングリーン家も動いてくれたのは、我々としても助かりました」


「……はぁ」


 カタリナも俺が男だって知ってるのか…いつバレたんだろ?


「ローエングリーン家についてはこれくらいでいいかしら?」


「あ、はい」


「じゃあ次ね。次は…エロース教よ」


「………は?」


 …………………は? 

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