第2話 知り合いでした

 と、いうわけで。

俺は現在地下下水道にいる。

俺を拉致した犯人…女騎士達と共に。


「団長、早く行きましょう」


「ええ。少し待って。…手荒な真似してごめんなさいね、ジュン君。でも、貴方を護る為なの。許してちょうだい」


「…はぁ。お…いや、私を護る?」


 この人達…顔を隠してるし、普段とは違う鎧を着てるけど…もしかして、もしかする?


「貴女、ソフィアさん…ですよね?」


「なっ!なんでわかったの!?愛の力!?」


「いや、声でわかりますよ。そっちは副団長のクライネさんですよね」


「…はい。流石ですね、ジュン君」


 そう言ってフルフェイスの兜を脱いだのは予想通りの人物だった。


 やっぱりか。


 つまりこの人達の正体は、俺が住むこの国最強の呼び声高い騎士団『白薔薇騎士団』。

その団長と部下の騎士達だ。


 白薔薇騎士団…アインハルト王国に存在する騎士団の一つ。

王都に拠点を置く騎士団で、近年まで続いていた隣国との戦争で多大なる武勲を挙げ、先日も強大な魔獣を討ち凱旋していた。


 俺が今日まで暮らしていた孤児院も王都にあり、団長のソフィアさんを始め孤児院に多額の寄付をしてくれたし、子供達の面倒を見たりしてくれていた。


 俺に至っては剣や魔法の訓練を見てくれたりして、恩人と言っていい存在なのだが…


「どういう事か説明してもらえます?何故、こんな誘拐じみた…いや、はっきり言って誘拐ですよね、これ」


「ええ、説明するわね。実は貴方は――」


「団長、急ぎましょう。此処で時間を取るのは拙いです」


「あ、そ、そうね。ジュン君。話は移動しながらで。こっちよ」


「…はい」


 ソフィアさんを先頭に地下下水道を進む。

下水道を歩くのは初めてだけど、薄暗くはあるが空気は悪く無いし、匂いもそれほど臭くない。

何処もこんなものなのだろうか?


「さてと…ジュン君。まず、貴方を拉致した理由だけど」


「はい」


「貴方は狙われているわ。それも複数の組織、団体から」


「……はい?」


「理由は単純よ。貴方が美少年だから。それだけよ」


「はいぃ?」


 そんなアホな。

と、驚きはするが、俺が驚いたのは美少年だからという理由じゃない。


 この世界において美少年だというのは誘拐の理由として十分なのだ。


 俺が驚いたのは別の理由だ。


 自分で自分を美少年だと肯定する事は置いておくとして。


「ソフィアさん…俺が男だって知ってたんですか?」


「もちろん。貴方の訓練を見てたのは私達なのよ?ゆったりした服を着て誤魔化してたつもりなんだろうけど、体つきがどうみても女の子じゃないもの」


 流石と言うべきなのか…バレてないと思ってたのだが。


 この世界に置いて、男性は貴重な存在だ。

何せ世界の男女比は脅威の男1:女30。出生率も似たような比率だ。


 過去、何があって何が理由でこんな事態になってるのかはまた今度説明するとして。

この世界では男は貴重で、美少年となればさらに貴重。

平民だろうが貴族だろうが、男児が生まれれば大事に大事に育てられる。


 そんな世界に転生した俺は赤ん坊の頃から孤児院に居た。

孤児院の前に捨てられていた、という形で拾われたのだ。


 貴重な男を捨てる、なんてこの世界では考えられない事なのだが、とにかく俺は孤児院に拾われ、そこで暮らした。


 だが男が孤児院に居るとバレたらどうなるかわからない。

なんの後ろ盾もない孤児なんて、権力で無理やり連れ去られても文句も言えないのだ。


 そこで、院長先生達は俺を女の子として見えるように女装させた。

と言っても、髪を伸ばし外では一人称を『私』に変えてたくらいだ。

服装は男でも女でも特におかしくない服装だったし、他の孤児院の子供達は俺をお姉ちゃんと呼んでいた。


 俺が男だと知っていたのは孤児院では先生達だけのはず。

今まで誰にも男だと指摘された事もないので、バレてないと思っていたのだが…


「いつから気付いてたんです?」


「そうね、強いて言えば最初からね」


「最初?」


「そ。君が孤児院の庭で訓練してるのを見て声を掛けた、あの時から、よ」


 本当に最初、初めてソフィアさんと会話した時じゃないか。


 俺は昔から、冒険者になると決めていた。

だから小さな頃から訓練していた。

独学で、剣や魔法の訓練を早朝から孤児院の庭でやっていたのだ。


 ある日、その時はまだ新人騎士だったソフィアさんに剣の訓練をしてる時に声をかけられ、少し指導してもらったのが切っ掛けで、見掛ければ会話する仲になり、白薔薇騎士団の面子が孤児院に来るようになった。


「ま、確信したのは君の訓練を見た時に身体に触れた時ね」


「アレは完全なセクハラっスよねー」


「腕や脚だけじゃなく、お尻を弄るのはやりすぎよねー」


「う…あ、貴女達だってやってたじゃない!」


 …そう言えば、そんな事されたな。

ソフィアさんだけじゃなく、他の人達にもされたから、剣の指導とはそんなものなのかと思って納得してしまった。


 前世じゃ剣なんて習ってなかったしな。


「それで?私…いや、俺が男だから誘拐したと?白薔薇騎士団はいつから犯罪を犯すように?」


「そうツンケンしないで。最初に言ったように、貴方を護る為なのよ。貴方を男だと知ってる。他の組織や団体から護るためにね」


「ジュン君が男だと知ってるのは私達だけじゃないのよ」


「え?他の人にもバレてるんですか?」


「当然よ。男を欲してるのは何処でも同じ。私達が知ってからは、君の情報が漏れないように隠蔽していたけど、それでも限界があるわ。完璧に隠し通すのは無理なのよ。ごめんなさいね」


「は?俺の情報を隠蔽?」


「そうよ。貴方が出掛ける時は影から護衛を付けていたし、貴方の噂を聞いて孤児院に探りを入れていたスパイは即排除したし、アインハルト王家のみならず、王国貴族にも漏れないように情報操作してた。それでも何処からか漏れるものなのよ。年単位で完璧に隠すのは無理ね」


「本当は幻影の魔法をかけて、ジュン君が完璧な女性に見えるようにもしたかったのですが、どういうわけか君は魔法耐性が高いようで、無理でした」


 そこまでやってたのか…全然気がつかな…いや、そう言えば何年か前に、魔法を掛けられた気配があったな。


 あの時の事か。尾行には気が付かなかったな。悪意を感じたら気付くんだけど。

流石に街中じゃ視線の一つ一つは特定出来んし。


「俺が男だってバレてるのはわかりました。でも、何でそれで誘拐?」


「君が男だって知ってる連中は、君が孤児院を出て冒険者になる事も知ってるわ。そうなると王都の外に出る事も増えるでしょう?」


「故に、ジュン君が冒険者になって外に出た瞬間、誘拐される可能性が一番高い。その前に、私達で確保し、保護する。そういう計画です」


「計画は順調。今日この日の為に、長年準備してた甲斐があったわ」


「長年て…何年前も前から今日の事を?」


「ええ、そうよ。五年かけて準備して来たのよ?」


「ご、五年?」


 五年前って…まだ戦争中じゃないか。

戦争中に、誘拐計画を立てていたと?


「大変だったのよ?ただでさえ戦場に行く団員と王都を護る団員とで二つに分けてるのに、そこから更に君を護る団員と計画を進める団員を用意するのは」


「薄々感じてましたけど、今日の計画って白薔薇騎士団全員が絡んでるんですね…」


「当然よ。ジュン君は私達のモノにす…ゴホンゴホン。んんっ、私達で護ると誓いを立てたのだから」


「本当に大変だったんですよ?この地下下水道なんか特に」


「ジュン君を下水道なんかに連れ込むのは心苦しかったっスっからねー。魔法やスライムを大量投入して綺麗にして匂いをマシにして、増えすぎたスライムを駆除して」


「土魔法を使える団員を総動員して、下水道を延長して白薔薇騎士団の宿舎に繋げるのは大変でした」


「勿論、他にバレないように秘密裏にね。だから余計に時間が掛かったのよね」


 そ、そんな事まで…てか、それって勝手に地下下水道の拡張工事をしたってことでしょ?

…犯罪なのでは?


「…他に俺が男だって知ってる組織や団体があるって言いましたよね。何処の誰なんです?」


「それはね…と、着いたわ。この奥のはしごを昇れば私達の宿舎よ。そこなら安全よ」


「話の続きはそこでしましょう。さ、ジュン君」


「はい…」


 ハァ…まさか俺が男だってバレてるとは。

新生活の第一歩から躓いてしまった。この先、どうするつもりなんだろ、この人達…

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