第Ⅱ章 第19話 ~ここで僕は、死ぬかもしれないな……~

 ノイシュは手にした大剣を支えに何とか立ち上がった。視界しかいにはたおれた戦士達が敵味方の別なく広がっている。うであしがどこかにき飛んでしまっている者、破れた腹部から臓物ぞうぶつを出したまま転がっている遺体いたい、真っ黒に焼けげてしまい、その顔も判別できなくなっている炭塊たんかい――


地獄じごくを再現させたその光景に、ノイシュは思わずまぶたを下げた。一体、僕はこの中のうち何人と戦い、その命をみ取ったのだろう――


ノイシュはかぶりをって心想のふちから無理矢理にけ出した。周囲からは依然いぜんとして剣戟けんげきと悲鳴が容赦ようしゃなくひびわたっている。


――まだ戦いは終わっていないんだ……ビューレ達を戦場からがすためにも、少しでも長くここを防守しなきゃ……ッ――


 ノイシュは何とかあら呼吸こきゅうを落ち着かせようと無理に大きくむ。が、途端とたんに胸がそれを受け付けずに激しくき込んだ。相次ぐ敵軍の波状攻撃はじょうこうげきを受ける中で腕や大腿だいたい刀傷かたなきずを刻まれ、それらが容赦ようしゃなく痛覚つうかくうったえてくる。全身に重苦しい疲労感ひろうかんりつき、もはや刀身をり上げる事さえ覚束おぼつかない。そもそも大剣など自分にはあつかいこなせる代物しろものではないのだ。衝撃剣しょうげきけん威力いりょくを最大限に引き出すため、無理して振り回しているに過ぎない――


 不意にレポグント軍側から角笛つのぶえの大音量がひびわたった。ノイシュはそれが次なる波状攻撃はじょうこうげきの合図であることに気が付き、素早すばやく遠方を見えると敵戦士てきせんし達が渡河とかして来るのが視認しにんできた。ノイシュはあわてて後方を見渡すが、もはやこちらの手勢で戦える者など指折り数えるほどしか確認できない――


 ノイシュは奥歯おくばみ、絶望ぜつぼうえそうな思いを打ち消すべく腹に力をめた。そしてどうにか呼吸こきゅうを整えると大剣をて、こしつるしたさやから片手剣を抜く。大剣に比べるとあまりに心許こころもとない武具だが、今はこれにたよるしかない。霊力れいりょくを発現できるのも体力からみて、あと一回が限界だろう――


――ここで僕は、死ぬかもしれないな……

 思わずノイシュは眼をせた。しかしそれも仕方ないと思う。こうして後詰ごづめに自分は身をとうじたのだ。何より敵戦士からすれば自分は戦友を殺したかたきだった。聖都せいとの民を略奪りゃくだつから守るためとはいえ、何人もの敵戦士をててしまった。死んだ彼らにも家族、大切な仲間、そして愛する人がいただろうに……――


 ノイシュは静かに眼を細め、すぐそこまで近接してくるレポグント兵の隊列を静かに見据みすえた。


――……でも、だからこそ僕は、命をけて最後まで戦わなくちゃいけないんだ。自分にとって大切な人のために、最期まで……っ

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