第Ⅱ章 第18話 ~私の魂が、求めて止まらないから……っ~

~登場人物~


ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹いもうと。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、アニマを自在にあやつる等の支援術の使い手


 ウォレン・ガストフ……ヴァルテ小隊の隊員で、戦士。男性。あらゆる術を無効化する術たい性の持ち主


 ノヴァ・パーレム……ヴァルテ小隊の隊員で、術士。女性。様々なこうげき術の使い手


 ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手








「レポグント軍がっ、てき軍がッ……」

 ビューレはしぼり出すように声を発したしゅん間、ひざから力をけていくのを感じた。一気に地面がせまってくる――


 突如とつじょとして視界が静止するとともに、ビューレはやわらかい感しょくを背中に受けた。

「ビューレさん、しっかりして下さいっ……」


耳元でノヴァの声が聞こえ、自分が受け止められた事に気づく。胸の奥から安感がき上がり、再び涙腺るいせんゆるんでいく――


「ビューレ、すまないが説明してくれ……どういう事なんだ」

 不意に低い別の声が聞こえ、それがウォレンのものだと分かった。声音にはかくしきれない憂慮ゆうりょふくまれている。


――そうだ、私は敵襲てきしゅうげるために来たんだ……っ

 しばらくこのままでいたいという想いをわきしやり、ビューレは顔を上げた。がん前には自分をき止めるノヴァとウォレンの顔があり、少しはなれた場所ではミネアが不安げな眼差まなざしをかべていた――


「……敵軍がっ、河を凍結とうけつさせながら、側面から進撃しんげきしてきて……」

 そうビューレが声をしぼると、不意に脳裏のうりから凄惨せいさんな戦いの場面が浮かんできた。

「私達も応戦したけど……激しい術連けいすべもなくて……っ」

 ビューレは思わずうつむいた。ひとみからは止めどなくなみだあふれ、止まらない――


「ノイシュはっ、たい長はどうしたの…っ」

 不意に強い口調が耳朶じだを打ち、思わず顔を上げるとミネアの真摯しんしな眼差しが間近まぢかにあった。その剣幕けんまく気圧けおされながらもビューレはかぶりをった――


「……ノイシュと隊長は、援軍えんぐんが来るまで時間を稼ぐって、そのまま……っ」

「そんな……ッ」

 ミネアが小さくかぶりを振りながら後退あとずっていく。すぐかたわらでノヴァが強く眼を閉じ、大きく息をいた。


「……分かった。すぐにヨハネス様の元へ向かおう」

そうげながらウォレンがやってくると、彼は早くかたしてきた。彼のりょ力にみちびかれながら術士隊のつどう方向へと進んでいく。すぐ傍らではノヴァが付きってくれていた。


――……ミネア?

 不意にビューレが顔を後ろへと向けると、ノイシュの義妹いもうとはどこか思いめた表情のままたたずんでいた。

「どうしたの……」

 ビューレは思わず声をかけると、ミネアはゆっくりとこちらに顔を向けてきた。


「ここで、お別れだね」

「え……」

 ミネアの静かな微笑ほほえみを受け、ビューレはなぜか胸がえぐられる様ないたみを感じた――


「行かなきゃ……ノイシュが死んだら、私……っ」

 不意にミネアの瞳から一つぶの涙がこぼれ、胸をその手で強くにぎるのが見えた――


「私のアニマが、求めて止まらないから……っ」

 そう告げた直後、ミネアが背を向けるとそのまま森のおくへとけ出していく。ビューレは胸中きょうちゅうが強くふるえ、そして界がにじんでいくのが分かった―― 


「ミネア……ッ」

「ミネアさんっ」

 ウォレンとノヴァが同時に驚きの声を上げる。


――そんなっ、ミネア、どうか戻って……ッ

 ビューレは右手をばして懸命けんめいさけぶものの、翠色すいしょくの瞳をした少女の姿はやがてやみまぎれて見えなくなった――



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