第Ⅱ章 第3話 ~幻滅したよね、私のこと……~

~登場人物~


 ノイシュ・ルンハイト……本編の主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手



 ビューレ・ユンク……ヴァルテ小隊の隊員であり、術士。また修道士でもある。女性。回復術の使い手







「――すぐ戻るからっ、きっと……っ」

 ノイシュはそれだけ言うときびすを返し、急いで修道士の後を追った。胸の中は様々な気持ちがからみ合い、まともに理屈で物事を考えられなかった。ふと傷痕にさわらないよう速度に気を配るものの、幸いに何も痛みは感じない。ノイシュは安堵の息をつくと、再び意識を前方へと向けた。


 微かに聞こえる彼女の足音を頼りに通路を折れ、階段を下り、時々擦れ違う他の兵士の間を縫う様に進んでいくと、やがて人気の無い小さな中庭に出る。くこちらの思いとは裏腹に、その場所は温かい日差しにあふれており、植えられた木々の上では小鳥たちが仲良く戯れていた。その中の一番大きな樹の傍らに、ノイシュは目当てとなる少女の後ろ姿を見つける――


 一度大きく息を吸い、呼吸を整えるとノイシュは回復術士の元へと歩み寄る。僧服姿の少女はこちらの足音に気づいたのだろう、強く眼を閉じると後ろ髪をこちらに振り向けてくる。ノイシュは静かに歩を進めていき、彼女の前で立ち止まった――

 

「……私、どうかしてた……っ、いつの間にか、人の命よりも戦いの趨勢や自分がどうなるかの事ばかりで……っ」

 不意にビューレが深くうなだれていった。

「誰かの命を手折るノイシュ達の気持ちも、考えないで……幻滅したよね、私のこと……」


 ビューレのささやくような声を聞き、ノイシュはゆっくりと首を振った。

「――そんな事ない、だって……っ」

ノイシュは眼を細めて回復術士を見据えた。彼女が静かにこちらへと視線を向けてくる――


「……だって君は、僕の命を助けてくれた。君が治癒術を施しながら、僕の手を握ってくれたこと……絶対、忘れないよ」

 不意にビューレが眼を大きく開いた。そして静かに眼を細めていき、そのまま微笑みを浮かべる――


「……ありがとう、ノイシュ」

顔に青痣あおあざのある少女の瞳から、一粒の涙が頬をつたった――

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