第Ⅰ章 ――バーヒャルト近郊の戦い 編――
第Ⅰ章 第1話 ~澄んだ翠《みどり》色のまなざし~
――かつて神が人を
以来、常に両者は相手の
ついに二人の
ひたすらにお互いを欲して離れようとしない――
『イアヌ島創造記 第一章 第十三節』
~登場人物~
ノイシュ・ルンハイト……主人公。男性。ヴァルテ小隊の術戦士で、剣技と術を組み合わせた術剣の使い手
ミネア・ルンハイト……ノイシュの義妹。女性。ヴァルテ小隊の術戦士で、霊力を自在に操る等の支援術の使い手
ノイシュが歩を進めていると、不意に少女の
――起きたの、ミネア……――
背に負った義妹へと視線を向けるが、返事はなく素直にその身体をこちらへと預けたままだ。
ノイシュは身体を揺らして体勢を整えると、再び狭い廊下の床を踏みしめていった。彼女も
ノイシュが
彼女の毛先からほのかに甘い香りが
ふとそこで、背負った義妹の身体が細かく震えるのにノイシュは気づく。
「あっ、動かないで……っ」
振り落とさないよう何とか平衡を保つと、やがて彼女の身体から徐々に力が抜けていくのが分かった。
「私、どうして……」
「覚えてない……? 式の最中、急に倒れたんだ」
「そっか、ごめんね……」
背中越しにミネアの息が伝わり、彼女の額らしきものが自分の肩へと預けられるのが分かった。何も言葉が出せず、ただ歩を進めていった――――
「……夢を見てた」
不意にミネアの声が耳に届き、ノイシュは頷いた。
「……そう言えば、何か小さく
ミネアは黙っていた。肩越しで彼女の指から力が入っていくのが、ノイシュには分かった。
「……あの子達と、別れた日の夢……」
思わずノイシュは足を止めた。それだけで誰の事を言ってるのかが分かった。司祭だった父が引き取ってきた子ども達を、自分は捨ててしまった……――
「ワッツ、ルエリ、ザザキ……今はどうしているかな……」
ミネアの声は震えており、ノイシュは強く奥歯を
「ごめんね、こんな話……っ」
そう
「……学院の課程は全て修了したし、僕たちもこれで独り立ちできる。だから……」
自分に言い聞かせる様に、ノイシュは再び心中でつぶやいた。
――そう、明日から僕達は術戦士なんだ。支度金も
「ノイシュ、着いたけど……」
義妹の声にノイシュが顔を上げると、眼前には救護室の札を下げた扉があった。
何とか扉を開けると足を踏み入れていき、室内を
ノイシュは一番窓際の寝台まで来ると静かに腰を
「本当にごめんね、卒業式の日に倒れちゃうなんて……」
そう告げる義妹に、ノイシュは努めて
「きっとこれまでの疲れが出たんだ。すこし休みなよ」
ミネアがゆっくりと頷く。
「私は大丈夫だから、早く講堂に戻って……きっとみんな待ってるから」
「分かった。また来るよ」
そう応えると、ノイシュは入口のドアへと向かう。
「……ノイシュ……」
ささやく様な義妹の声にノイシュが振り返ると、彼女は静かにこちらへと視線を向けていた。 彼女の
「――どうしたの……?」
ふいに我に返り、ノイシュは慌てて困惑の表情を向ける義妹から視線をそらす。
「いや……ミネアこそ、何か言いたかったんじゃないのかい」
「卒業、おめでとう……」
彼女の穏やかな声を聞き、ノイシュは強く眼をつむった。様々な思いが胸を
「……明日は久し振りに帰郷するんだし、無理しちゃダメだぞ」
分かってる、と言う彼女の声に応じることも出来ないまま、ノイシュは急いで部屋を出た。
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