第11話

 大攻勢スタンピードの条件は『人口が一箇所に多く集まっていること』だとされている。


 それを避けるために人々は生活に最低限必要な小集落を作り上げ、人数を調整しながら過ごしている。


 どのように調整しているのか?


 もちろん、よそものを容易には迎え入れないことがなにより大事だ。


 出生数のコントロールも肝要になるだろう。


 だが、それでも『多すぎるな』となった場合……


 いい数・・・になるまで、人を外に捨てる。


 このいい数・・・の見極めは村長が一任されていた。

 これは年寄りならかつて大攻勢スタンピードがもっともひどかった時代を知っているので、当時の肌感覚・・・いい数・・・がわかるから━━と、されていた。


 実際にそれで長く存続している集落だけが生き残っているわけなのだが……


 それはおそらく、生存バイアスにすぎない。


 数の見極めに成功したから生き残っているのだ━━ではなく。


 生き残っているから、数の見極めに成功したのだとみなされる。


 ……実際には秘伝の『見極め術』みたいなものがある可能性も否定はしないが、少なくとも俺から見た限りで、うちの村長にそういった技術を使っている様子はなかった。


 ……ともあれ、そうして『減らされる』者は、どうにも生まれつき体に問題があったり、あるいは年老いてもう仕事ができなくなった者が多かろうというのは想像がつく。


 そして、俺たちが発見した子供たちは、前者のようだった。


 盲目の弟と、姉。


 姉は弟が追い出されたのを放っておけずついてきたらしい。


 あてどもなくさまよって運よくこのあたりまで来たところを、ついにモンスターに襲われた━━のだとか。


「……彼女らを『国民』としましょう」


 女王陛下のお言葉は決定のようでいて、その青い瞳は俺に意思を問いかけていた。


 おそらくだけれど、俺がここで否を申せば、彼女はこの子らを見捨てるのだろう。

 気に病み、悲しみながらも、最後にはきっと、そうするしかないと涙を呑んであきらめざるを得ないのだ。


 生活の糧を主に稼いでいるのは、俺なのだった。


 食糧の備蓄も家屋の修繕も、難しいモンスターへの対処も、すべて俺がしている。


 もちろん今では女王陛下もそのあたりの技術を身につけているが、俺たちには未だ大人と子供ほどの力……腕力の差があって、さらに俺は不死身という特性もあった。


 この世界の腕力は筋肉や骨格の大きさに左右されない不可思議な法則の上に成り立つものだが、それはどうにも、『より多く、より難しい戦いを勝ち抜くこと』を条件に上がっていく数値のようだった。


 つまり、経験値。


 単純に換言してしまうと、そうなる。


 そして俺と女王陛下との経験値の差は最初からかなりあったようで、ここ数年で開きはすれど、縮みはしなかった。


 それはなるほど俺が『救世主』待遇でこの世界に呼ばれた可能性を強く見させるに足る要素なのだ。

 なにせ俺はどのような難しい敵を相手にも耐性を得て生き残る。つまるところ、戦えば戦っただけ経験値がたまり、戦いにおける『死』というリスクがない。

 これほど、この法則の世界を救うのに適した能力もあるまい。


 この法則はしかし、この世界の中にあって、ほとんど唯一と言ってもいい、人類の持てる希望なのだった。


 つまり『努力さえすれば誰でも強くなれる』ということに他ならない。


 骨格が小さくても、筋肉が大きくなりようがなくても。


 目が見えなくたって、強くなれる。


「反対はありません。ただし……屋根を貸す分の働きは期待せねばならない」


 すっかり従者口調も板についているな、と変なところにおかしさが込み上げてしまう。


 俺たちに処遇を話し合われている哀れな子供たちは、逃げるわけにもいかず、さりとて攻撃しても敵いようもなく、ただその場に釘付けになっていた。


 ただし姉は弟を背にかばうようにしていて、弟はそんな姉にすがりつくようにしながらびくびくしている。


 俺と女王陛下はちょっと視線をかわしあってから、女王陛下が子供たちに声をかける役割となった。


 彼女が優しく子供たちに言葉をかけているあいだ、俺は、久しぶりになんのわだかまりもなく女王陛下と会話をした事実を、ようやく噛み締めていた。

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