第3話

 国家は滅びた。


 それはモンスターどもが人類の多い都市などに集まる習性があるからで、大国家、大都市の順番にすさまじい大攻勢スタンピードを受けて無惨なありさまに成り果ててしまったらしかった。


 人々は大攻勢スタンピードが起こるギリギリの数を見極めながらコミュニティを形成し、モンスターに怯えつつ細々と暮らしている。


 駆除人の役割はそれでもたまに襲いくるモンスターへの対応、予防策として村の周辺にいるモンスターの間引き、それから食糧調達・・・・生業なりわいにしているのだという。


 農業はもう、無理だった。


 畜産もすでに、できなかった。


 だから人々はモンスターという、おおよそ尋常なる生き物とは思えない連中からとれる素材を加工し、生きているのだった。


 モンスターは動物だというのに植物でもあり、虫かと思えば毛皮があり、皮をはいで洗っただけで、加工もせぬままなめした・・・・皮革のようになる。


 また、このモンスターに造詣の深い者は特殊な加工をすることにより、モンスターどもからはぎとった素材で効果の高い薬や道具まで作り上げてみせた。


 農耕と畜産が可能な環境を失い、流通さえも途絶したこの世界で、それでも人類を支えているのは、人類をこんな状況に追いやったモンスターそのものなのだった。


 ……世界のそういう状況について俺に教えてくれたのは、たまたま出会った駆除人の一団だった。


「強者には礼儀を尽くすのがならわしだ。どうだろう、その力を我らの村にもたらしてはくれないか?」


 まともな装備もないくせに、牙も爪も毒さえも無効化し、さらに死んだと思われてもなにごともなかったかのように立ち上がってみせた俺は、彼女らの村に誘われることになった。


 ……俺がそれを承諾したのは、まったく感情的な理由だった。


 長い間、一人でさまよい続けていたのだ。


 もうこの世界に放り出されてから幾日経ったのかもわからない。


 もはや滅多なことでは死ななくなった。

 それでも、こちらを殺そうと一心不乱に向かってくる、言葉も通じないモンスターどものうろつく場所を歩き続ける日々は、もう、いやだった。


 俺は、人恋しかった。


 言葉の通じる誰かが恋しかった。


 会話をしたかった。


 ……なぜ、会話ができるのかはわからない。


 とにかく初めてまともに話せる相手と出会った喜びで俺は涙して、その人たちに救われた気がして、その人たちと一緒にいられるなら、なんでもしたいような気持ちになっていた。


 ━━もっと、冷静に考えればよかった。


 でも、『知らない世界に一人放り出されて、何度も殺されて、体は作り替えられていく』という状況でそこまで冷静に色々なことに目を配れるほど、俺はしっかりした人間じゃなかったんだ。

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