神様、私の恋を実らせないで
外清内ダク
神様、私の恋を実らせないで
恋をした。
そもそもそれが間違いなんだ。
いつからだっけ……これほど激しく、彼に焦がれはじめたのは。
いや。「彼」って呼び方はおかしい。男の人じゃないからだ。では「彼女」? これも違う。「あのひと」――もっと遠ざかってしまった! 「あのおかた」なんて仰々しくお呼び申し上げ奉るのが筋道で言えば一番正しい。でもそんな肩ひじ張ったのは、私たちのくだけた関係にはいまいち似つかわしくない。結局、私は「ねえ」と馴れ馴れしく息を吐く。『うん』と向こうは親しげに応える。身長差がすごいけど、ちっぽけな私にも、あいつはちゃんと目線を合わせてくれる。
あ、私、愛されてるな、って思う。愛にもいろいろある。激しく燃える炎のような愛。狂おしく足を引っ張る泥沼のような愛。あいつの場合は……日常の小さな心遣いからのぞく、深くて静かな愛情。
「ほら! 見て! ジョナサン・クルツティン、ノーベル文学賞だって!」
『お!』
神社の石段に腰掛けてスマホを持ち上げてやると、あいつは私の肩の上からニョロッと顔を出して画面をのぞき込んだ。私の背に、そっとのし掛かる体重。この体勢、好き。後ろから抱きしめられてるみたいで、どきどきする。それにスマホに見入るあいつの顔。首を思いっきり伸ばして、大きな黒い目をくりくりさせて。子供みたいに夢中になって……
『お、お、おお……! そうか。そうだろうとも。あの者はまことに優れた書き手だと儂はもちろん分かっておった』
「よかったね、邦訳増えるよ」
『あ! そうなんだな。知っているぞ、市場原理だろう。話題になれば需要が増えて、需要が増せば供給が現れる。なあ、ハルカ?』
「分かってる分かってる。出たらすぐ買ってきてあげる」
『うふ。おおきにありがとう。うふ、うふふ……』
蛇の笑顔って分かる? 私は分かる。爬虫類は頬も口も目も全然動かさないけど、長年顔を見ていると、だんだん表情が読めてくるんだ。お腹が空いてる、とか。眠たそう、とか。ちょっと気が立ってる、とか。お前のことが好き……とか。
だから私にだけは分かる。多作なのに日本ではいまいち人気がなくて、全作品の1割くらいしか邦訳されてないような作家のファンになると、あっというまに日本語版を読み尽くしてしまって、未訳作品のリストを眺めながら「もう仕方がないから英語勉強して原書を読むか……」ってとこまで思いつめることになる。そんなときに受賞や映画化で話題になって、いきなりばたばたと新刊ラッシュが来たなら……“知る人ぞ知る”推し作家が一気にメジャーになっていくときのあの嬉しさ。本の虫の考えることは、人でも蛇でも一緒だよね。
何の話だ、って?
もちろん、私の恋の話。
私は、肩にもたれかかって来たあいつの首を、かかえるようにして撫でた。手のひらをぞろりと流れる鱗の感触。あいつは心地よさそうに目を細めて愛撫を受け入れながら、私の周りをぐるりと取り巻き、ひんやりした肉体で私を包んでくれた。私はあいつの喉へキスをする。「キスくらい、現代ではあたりまえの挨拶なんだよ」――あいつの無知をいいことに私がかつて吐いた嘘。疑いもしないあいつの純心へ、微かに覚える罪悪感と背徳感。
「ねえ、神様。私のこと、好きでしょ?」
『好きだとも。ハルカはとてもかわいい』
違う。違うの。そうじゃない。
あいつの、ぷっくりと膨らんだアゴの曲線へ指を這わせながら、私は鱗に額を押し付ける。もうこれ以上見ていられない。見れば抑えられなくなる。止められなくなる。知られちゃいけない。隠さなきゃいけない。お腹にキュッと力を込めて、この欲情をどうにか食い止めてなきゃいけない。
なぜなら私の片想いの相手は――体長10mの蛇神様だったのだ。
*
ことの起こりは5年前。仕事の理不尽なトラブルとか彼氏の浮気とかクソうぜえ親戚の干渉とかが重なって、「滅びよ人類!!」ってなってた私は家を飛び出しスマホの電源を切り何もかも投げ出して知らない神社の境内に逃げ込んだ。小ぢんまりとした古いお社に向かってやけくそ気味に柏手を叩き、私が絶叫したのがこちら。
この世には
神も仏も
ありません
みんなくたばれ
おれもくたばれ!
今にして思えば、神社で柏手叩いてこの暴言もないもんだ。その時の私はとにかく自分のことで手一杯で、信じてもいない神様に失礼だとか冒涜だとか、そんなことにはとても頭が回らなかったのだ。
自分の気持ちを飾らずそのまま叫んでしまうと、ここまでずっとこらえてきたのが堰を切って溢れ出て、私はわんわん号泣しながらその場に崩れ落ちた。
その時だ。私の耳に、予想だにしない声が聞こえてきたのは。
いで我を
人な
大船の
ゆたのたゆたに
もの思ふ頃ぞ
(人よ、どうか私を
大船が“ゆた、たゆた”と揺れるように、私の心は物思いに揺れているところなのだ)
心霊現象!?
としか思えなかった。私は飛び上がり、身構え、辺りをぐるぐる見回した。誰の姿も見えない……でも、いる。私には不思議な確信があった。気配っていうのだろうか。すぐ近くに、目には見えない誰かがいるのが、はっきりと皮膚感覚で分かったのだ。
だんだん私は落ち着いてきた。いつのまにか涙も止まっていた。さっき聞こえた和歌のことが気になって、泣くどころではなくなっていた。なんだか奇妙な、そしてひょうきんな歌だ。最初は単に責任逃れの言い訳をしているみたいだったのに、船がユラユラしてるのを想像してたら、いきなり「物思いに揺れてる」、なんてドキッとさせられる。なんか、「僕は君に恋してるんだよ」って囁かれたような気分。
私は息を落ち着け、膝の砂を払い、乱れ乱れた髪を手櫛で撫でつけて、再びお社の前に向き合った。しばらく考え、考え、考え、ふと浮かんだ言葉を口にする。
あの山の
向こうの海の
また沖の
船から逢いに
来てくれたなら
音が消えた。
私は息を飲んだ。いつのまにか風も止まり、鳥の声も、草木のざわめきも、遠くの線路から聞こえていた踏切の警告音もひたりと止んで、神社の境内が完全な静寂の中に包まれていた。いや、違う。これは沈黙だ。この山そのものがひとつの生き物。それが今、ためらいに口をつぐんでしまったんだ。
「面白いことを申す女子よ」
突然、背後から声が聞こえて、私は弾かれたように振り返った。そこにはひとりの、平安貴族っぽい格好をした男性が、苦笑しながら立っていた。
「ま、それもよい。儂はこの山に住んでおる者。お前たち人間が言うところの、神だ」
*
神様は、ちょっと見たことがないくらい美形だった。世間でもてはやされてるアイドルとか芸能人とかでも、あれほどの美人はちょっといない。透明感というのだろうか、全然アクがない、探しても探しても欠点ひとつ見つからない、作り物みたいに整った顔をしていた。かなり高身長な私よりも頭1つ分以上も背が高くて、腕や脚はすらりと細くて……でも、いまいち私は惹かれなかった。美男子は美男子、なんだけど、どこか非人間的というか、神聖すぎて恋愛対象にできないような感覚だった。
しかし見た目の冷たさとは違って、神様は私に対して本当に親切だった。涙の痕の残る私をお社の階段に座らせ、そっと隣に寄り添って、私の愚痴を聞いてくれた。親のこと。同僚のこと。彼氏――元・彼氏のこと。親戚のこと。政治のこと。痴漢が嫌すぎて電車に乗れなくなったこと。Twtterでウザ絡みしてくるおっさんのこと。好きだったラーメン屋が閉店しちゃったこと。先月転んで痛めた手首がまだ痛むこと。それから、それから……
神様は聞き上手だった。私の話全てにきちんと耳を傾けて、相槌を打ち、私の気持ちを一度も否定せず、それでいて変に迎合もせず、自然に先を促してくれた。思いつく端から嫌なことを全部吐き出して、愚痴の不良在庫も底をつきはじめた私は、当然の帰結として、楽しいことをも話しはじめた。美味しかったお店。ネトフリで出会った大傑作。今年の読書記録。
ふと気が付いたときには、とっぷりと日が暮れて、神様の顔も見えないほどになっていた。私の目尻に刻まれた涙の痕は、いつしか薄れて消えていた。私は星空を見上げながら立ち上がった。
「ありがとう、神様。なんかスッキリした。神様って本当にいるんだね」
「儂のような小神には、愚痴を聞いてやるほどのことしかできないがな」
神様も私の隣に立ったらしい。星灯りの中にボンヤリと黒いシルエットが浮かんでいるだけだけど、神様が付かず離れず、すぐそばにいてくれてるのが分かる。このときにはもう、私は神様の人柄を好きになっていた――神様なのに“人柄”というのもおかしいけれど。
「さて……ずいぶん暗くなってしまった。灯りなしで石段を下りるのは危ないぞ」
「んー。スマホのライトでなんとか……いや、心もとないな」
「送っていってやりたいが、なあ……うーん……」
「どうしたの?」
「儂は力が弱いから、2つの術を同時には使えん」
「それで?」
「おまえを麓まで送るなら、変化を解かねばならぬ」
「えっ!? 見たい! 解いてみて!」
「女子は、ほら、怖がるから」
「どんな姿?」
「蛇だ」
「大丈夫、私、爬虫類好きよ」
「そうか? うーん、それなら……」
ああ、思い出した。
あのときだ。私が恋に落ちたのは。
美男子の姿の神様と話してるときは、別に、ふーん、って感じだった。
でもスマホのライトの乏しい灯りで蛇の本性を見た瞬間……胸が、きゅんとした。
違う。違うの。姿かたちじゃない。幾何学的に美しく配置され、一枚一枚異なる方向へ光を照り返す鱗。ぞっとするほど艶めかしくうねる身体。先端がぷっくりと膨らんだ煽情的な頭部……確かに神様は魅力的だった。でもそれだけじゃない。神様が人間の男の姿で私の話を聞いてくれている間、私はずっと感じていた。神様と私の間に、心の壁みたいなものが張られているのを。実際、壁があったんだと思う。神様は神様として、いわば職務として、加護すべき人間たる私に接していた。でも違う。今、神様は本当の姿を、素を、裸を私に晒してくれた。その事実が私を確かに魅了している。神様が長い舌を出し入れしながら私に身を寄せてくる。冷たい舌が私の腕に触れくすぐる。私は背筋に寒気にも似た快感を覚え、「ひゃん!」なんて卑猥な声をあげてしまう。
『さ、儂にまたがれ』
「いい……の?」
『よいとも。落ちぬようにつかまって……も少し強く。そう、それでよい。ゆくぞ――』
と聞こえたその瞬間、私は風になった。そうとしか思えなかった。
蛇神様の背にまたがり、信じられないほどの速さで坂を下っていく。爽快な風を頬に浴びながら、私はじわりと自分の奥から湧き上がる欲望を、自覚せずにはいられなかった。
*
私は神様のところに通い詰めた。
神様は文学が好き。千年以上も昔から、数え切れないほどの本を読んできたのだという。物語、歌集、日記、軍記。特に明治に入ってからは翻訳された西洋文学に凝り始めたのだとか。最近はお気に入りはジョナサン・クルツティン、ケイン・スミス、E.C.エインシャム、間近由香里……それに半休アワヂだって。Web小説じゃん。守備範囲広いな神様。
『神にはそれぞれ守護する土地があって』
と、神様はある日私に教えてくれた。
『その中に生起する人の想いを糧とする。賽銭や供え物の菓子が儂のものとなるのと同じこと。守護地の住人が物語を読んで感動したなら、その想いの一部が儂に伝わってきて、儂もその本を読めるのだよ。
しかしこのあたりも随分人が少なくなった。読書家も数えるほどしか残っていないから、最近は読みたい本が読めないこともしばしばで……』
しょんぼりととぐろを巻く蛇神様に、私はぽんと手を打つ。
「じゃあ、私がここで読めばいいんだ!」
かくして蛇神様の神社は、私の大切な遊び場になった。嫌なことがあればもちろん、何もないときも、わけもなく寂しさに襲われたときも、私は蛇神様に逢いに来た。そして、読む。スマホに入ってる電子書籍を。あるいは鞄に潜ませた文庫本を。時にはぶ厚いハードカバーの単行本さえ。私はこの神社から、物語の世界に遊ぶ。神様はいつも私の周りを守るようにぐるりと囲んで、静かに目を閉じて私がページをくる音を聞いている。
読み終わるといつも小説談義だ。私が読めば、その情報がみんな神様に伝わっていて、私たちはその物語について心行くまで語りあうことができた。神様はすごく懐が広かった。私はわりと趣味が狭い方で、活劇趣味っていうのか、話がぐりぐり動いてバリバリ解決していくみたいな作品が好き。神様はそういうのも好きだし、一方で、哲学的で難しくって、私にはちょっと退屈としか思えないような話も大好きみたいだった。私が「なんかイマイチ」って顔をしていると、神様は穏やかにその本の魅力を語ってくれる。その小説にどんな文化的下敷きがあって、文学史の中でどう新しくて、どういうところを見事に描き切っていたか……神様の話を聞いてると、さっきつまらないと思ったばかりの話が、なんだか実は面白かったような気がしてくる不思議。
「神様、すごいね。自分でも小説書けるんじゃない?」
『物語はうけなかったが、歌なら少し。勅撰和歌集に収録されたこともある』
「え―――――っ!? 勅撰って、万葉集とかそういう……」
『古今集というやつだ。千首以上もあるうちのたった1首だがな』
「えー!? まじぇ!?」
『うふ。ちょっと、自慢だ。うふふ……』
蛇神様は、すごい人だった。いや人じゃないけど。古今和歌集とか教科書にも載ってる有名なやつだ。蛇神様の話によると、ああいう歌集に「詠み人知らず」で収録されてる歌の中のけっこうな数が、実は神々の作品であるらしい。ってことは、今のこのご時世だ。ネットにあふれてるWeb小説作家の中にも、比喩でもなんでもない正真正銘の神様が何人か紛れ込んでるのかもしれない。
私のこういう無邪気な反応を、神様はあの大きな目でいつも優しく見守ってくれていた。いつしか私は、神様との関係にどっぷり浸っている自分に気付いた。どんなに嫌なことがあったって、世間の誰が私を虐めたって、神様だけは絶対私を裏切らない。そりゃ、ひとつの町内くらいしか守護領域のない小神かもしれない。でも私にとっては唯一の神様。おおげさな加護なんかなくっても、こうして話を聞いてくれるだけで、面白い話を聞かせてくれるだけで、同好の士として認めてくれるだけで、私は充分に嬉しかった。守られてるって感じた。彼の鱗に触れるたび、私の胸はときめいた。
*
ある夜、眠れぬ夜をベッドの中でやりすごしながら、私は、神様に丸呑みにされてる自分を想像した。
蛇は獲物をそのまま飲み込む。神様は私を飲めるだろうか。パッと見、それほど大きな口ではないけれど、蛇はアゴ骨を左右に切り離して、大口を開くことができる。ニシキヘビが子供を丸呑みにしたって話を聞いたこともある。神様の体長なら、きっと私ひとりくらいいけるはずだ。
私は私のかたちを保ったまま、神様の中に潜っていく。身体の四方八方から、私に迫ってくる肉の壁。私は全身を締め付けられ、指一本動かせないまま、じわじわと神様の奥の方へ吸い込まれる。空想が私を興奮させる。私を束縛する神様。私の胸が肉壁に圧し潰され、絶え間なく揉みしだかれ、ざらつく壁に擦りあげられ、背中も、おしりも、太ももも、どこもかしこも神様に包まれる。指――足の指の裏が、神様の食道の、奇妙にぬめった襞にくすぐられる。体が熱い。声が出ちゃう。私、死ぬんだ。神様に食べられて、神様に包まれて、神様と今、ひとつになるんだ。なんでこんなに興奮するの? 私、私もう――
違う。
いや、違わない。
いや、違う。
この気持ちは嘘なんかじゃない。もうごまかせない。私は神様に性的な欲望を抱いてる。こんなふうに神様に食べられる自分を一体何度夢見ただろう。そのたびに私はそれまでしたこともないほど激しい自慰をして、気が狂いそうなほどの深い絶頂に酔い痴れた。
でも違う。神様は優しいから、私が願えば、セックスくらいしてくれるかもしれない。私を慈しみながら、優しく抱きしめて、体中をわけわかんなくなるくらい丁寧に舐めて、何百回も燃えるようなキスをして、私の欲望を充分以上に満たしてくれるだろう。
でも違うんだ。それは私の願いじゃない。
私が欲しいのはその愛じゃない!
「愛にはいろんな形がある」分かってる。「愛に貴賤はない」そんなの知ってる! でも違う。そうじゃない。昔なにかの動物番組で見たことがある。動物学者のおじいさんが、旅先でオス犬と出会うんだ。それで仲良くなるんだけど、この犬はどういうわけか、おじいさんをメス犬と勘違いして、おじいさんに恋してしまう。
人間に対して求愛行動を繰り返す犬。報われない欲情。もしこのまま別れれば、この犬はオスとしての自信を無くし、今後うまく繁殖ができなくなるかもしれない。
そこでおじいさんはどうしたか?
犬のチンポを撫でて、手のひらに射精させてあげたのだ。
満面の笑みで「すごい量でしたね。元気がいいですね」って、心底嬉しそうに笑うおじいさんを、私はポカーンと口開けっ放しで見てた。チンポが何なのかも、射精の意味も、まだ3割くらいしか理解していなかった子供時代の私だ。後年、何かのきっかけでこの番組のことを思い出した時には、「とんでもねえなあのジジイ」って少し寒気も覚えたけれど。
ともかく、あのおじいさんは、犬のことを愛してたと思うんだ。
誰よりも犬のことを知り、犬の生態もコミュニケーション方法も研究し尽くし、ひょっとしたら犬同士よりも深く、犬のことを愛していたと思うんだ。
でも――
違う。
違うよ。
私が欲しいのは、それじゃない。
あまりにも、途方もなく、残酷なまでに、しっちゃかめっちゃかに。
決定的に、違う。
*
『ハルカ』
ある日、神様は妙に改まって、私に呼びかけた。
私は何も気づかないふりをしていた。昨夜、夜通し泣き続けて、でもその涙の痕は化粧でうまくごまかしているはずだった。今日だっていつものように新刊を持ち込み、いつものように気楽にふるまい、この胸の内に気付かせるどんなヒントも与えてないはずだった。
なのに神様の私との距離は、いつもより拳ふたつぶん、近い。
『悩みがあるのなら、遠慮は要らないのだぞ。
小神とはいえ、ささやかな願いを叶えてやる……それくらいの力は、私にもあるのだぞ』
「どうして、そんなに、やさしいの」
こぼれる涙を手のひらで覆い隠そうと必死な私に、神様は穏やかに囁いた。
『ハルカを愛しているからだ』
ああ……そうか。分かってしまった。
恋をした。
そもそもそれが間違いなんだ。
恋は乞い。逢いたい気持ち。欲しいという願い。相手を我が物とするために、胸の中で猛り狂う騒がしい炎。
私は恋をしたんじゃない。
私は彼を、愛してるんだ。
「だから、どうか」
私は涙の下で微笑む。
「神様、私の恋を実らせないで」
THE END.
神様、私の恋を実らせないで 外清内ダク @darkcrowshin
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