第29話 僕とゴールデンウィーク3日目 道の駅編

 僕たちは、長い時間、海の水平線を見ていたようで、気が付けば、正午を回っていた。


「道なりに進んでいきますね~」

「お願いします」


 マナは、ブルーライトカットメガネを再び身に付けると、ズボラ状態に戻って、再び運転をし始めた。


「蘭丸君、お昼ごはん、どうしましょうか?」


 ここで、昼ご飯をどうするかの問題が出てくる。僕は、節約のため、最近はほとんど食べていないことが多い。なので、絶対に食べたいとは思わない。


「海近いですから、何か海鮮料理食べたくないですか~」


 魚市場に行くのは渋っていたのに、アイドルを食すのは、何とも思わないのだろうか。


「けど、高くない?」

「串焼きとか、貝類のつぼ焼き系なら、まだ安価ですよ~」


 マナは、海鮮料理を食べたいようだ。僕は、推しを食う事に心を痛める事は無いので、特に反対しない。


「蘭丸君。当初の目的だった、道の駅がありますよ~」


 道の駅まで2km。そんな看板が見えると、マナはケラケラと笑った。


「どうしますか~?」

「寄るしかないでしょ」

「そうこなくっちゃ」


 マナは上機嫌に車を走らせ、そして僕たちは道の駅に到着したが。


「駐車場、空いていますかね~?」


 やっぱり連休の影響か、駐車場にはたくさんの車が止まっていた。満車で、止められないのかと思っていたが。


「あ、ラッキー」


 空いている場所を探して、駐車場を暫く徘徊していると、ついに僕たちの目の前で、車が出て行ったので、マナはすぐにその場所に車を止めた。


「はい、到着~」

「お疲れ様」


 マナはメガネを外して、座席で背伸びを大きくする。そして車を降りた瞬間、ズボラ状態から、優等生キャラに一瞬にチェンジしていた。


「では行きましょう。私、イカ焼きを食べたい気分なんです」

「あるといいね」


 この道の駅に、マナの所望する物はあるのだろうか。マナは少しテンション高めで、少し浮足立って辺りを散策したが。


「……ありません」


 道の駅の施設内にある、フードコート。そして露店もあって、露店も見てみたが、イカ焼きを売っている所は無かった。なので、マナは物凄く落ち込んでいた。


「たこ焼きならあるけど?」


 露店には、イカ焼きではなく、たこ焼きならあった。


「……食べます」

「じゃ、2つ買ってくる」


 僕は、露店のたこ焼きを買いに行ったが、一から作るようで、10分ほど待って欲しいと言われた。


「……今日、楽しい?」


 たこ焼きが出来るまで、僕はベンチに座っている、空を仰いでいたマナと合流してから、マナにそう聞いた。


「はい。蘭丸君と過ごせているのですから、とても楽しいです」

「どこかつまらなさそうに、空を見上げているのはなぜ?」


 この道の駅に着いてから、マナはどこかつまらなそうに、どこか遠くを見ている気がした。そんなにイカ焼きを食べたかったのだろうか。


「……無いんです」

「夏祭りの屋台にはあるはず。夏に、どこかの祭りに――」

「この道の駅、推しのコラボをしていないんですよっ!!」


 マナの予想の斜め上の回答に、僕はベンチから転げ落ちそうになった。


「先程の駐車場で黄昏ていた時、運営のSNSで言っていたのを思い出しました。この大型連休、各地の道の駅で、コラボ商品を販売する、重要な事を忘れていました」


 そんなの初耳だ。だから、マナは道の駅に着いてから、かなりテンションが高かった訳だし、こんなに車も止まっているのかもしれない。


「……何狙い?」

「もちのろん、カジキマグロちゃんの等身大パネル、アクスタ、カジキマグロちゃんパッケージの清涼飲料水です。けど、改めて確認したら、カジキマグロちゃんのグッズは、千葉の道の駅のみ販売だったようで……」

「ちなみにここは?」

「対象外です」


 マナは、推しのグッズを買えないので、見た事ないぐらい落ち込んでいる。顔と地面が今にもくっ付きそうなぐらい、顔が下がっていた。


「……正反対の道の駅だったら、甘えびちゃんのグッズがありました。……甘えびちゃんも、小っちゃくて尊い子なんですよ」

「げ、元気出そうよ……」


 こんなに落ち込んでいるので、僕はどうやって慰めたら良いのか、分からなかった。変に慰めても、マナに気を遣わせてしまうかもしれないし、何だかモヤモヤした感じで、今回の旅行が終わりそうだ。


「……蘭丸君、気分悪くさせて申し訳ありません。早く、たこ焼きが出来ると良いですね」


 マナも空気を読んで、作り笑いをしていた。


「けど、ちょっと寂しい気持ちもあります。レンタカーを借りた時には、たっぷり時間があるなって思っていたのですが、もう半分無くなっちゃいました。本当に、楽しい時間だけはすぐに過ぎちゃいますね」


 それは、僕も同意見。どうして、高校で過ごしてきた、退屈な授業と部活動は長く感じたのに、何の変哲もない、マナとこうやって過ごしている時間だけは、あっという間に過ぎていく。そんな時間が逆になればいいのになと思っていると、たこ焼きが出来たと、露店の人に呼ばれた。


「食べようか」


 僕はすぐにたこ焼きを受け取りに行って、ずっと作り笑いしているマナに、たこ焼きを渡すと、マナはお腹が空いていたのか、すぐにたこ焼きを食べて、熱々のたこ焼きをハフハフしながら食べていた。


「とても美味しいです。蘭丸君が買って来たからでしょうか?」

「……おっちゃんが真心こめて作ったから」

「好きな人に、何か送られると、女の子はとっても嬉しいんですよ?」


 マナにそう言われると、また照れ臭くなって、僕も熱々のたこ焼きを黙々と食べ終えると、僕たちは車に乗り込んだ。


「蘭丸君~。次の目的地なんですが~」


 僕は大きく欠伸をした後、メガネをかけたズボラ状態になったマナは、僕にこう言った。


「やっぱり諦められないんで~、もう一方の道の駅にも行きましょうか~」

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