第30話 僕とゴールデンウィーク3日目 推しとの対面へ
マナの推しがいるゲームアプリ、『ウオ娘』が各地の道の駅でコラボ企画を実施しているようで、僕たちはたこ焼きを食べた道の駅から、かなり南にある道の駅に行く事になった。
「1時間ぐらいだって」
僕はスマホで目的地までの所要時間を調べ、マナにそう言うと、マナはケラケラと笑っていた。
「よゆーですよ」
半日運転しているからか、マナはレンタカーを愛車だと思い始めているみたいだ。窓を開けて、潮風を浴びる。そして軽快に運転していた。
「蘭丸君。将来、こう言った港町で暮らすのも、悪くないかもしれませんよ~?」
「冬寒いし、台風とか来たら、めちゃくちゃ大変だと思う」
港町は、こんな風に晴れていると、とてもいい所だと思えてくる。けど、こんなにいい天気はずっと続くはずもない。自然災害の影響をものすごく受けやすい面もあるので、僕は今まで通りの、街中暮らしで良いと思っている。
「一理ありますね~。けど、港町暮らしは、ちょっと憧れますな~」
マナはそう呟いてから、僕とマナの会話は途切れた。たこ焼きを食べたせいか、それとも窓から入ってくる潮風が気持ち良いのか、僕は段々と眠くなってくる。それを察したマナは、ずっと海外線に沿って続いている道を、車でひたすら走らせていた。
「蘭丸君。到着しましたよ」
そして僕は、いつの間にか寝ていたようで、僕たちは目的地の別の道の駅に到着していた。
「……僕、寝てた?」
「はい。ぐっすりと」
マナは、僕が寝ている間でも、ずっと運転して大変なはずだ。けど疲れた顔を見せず、マナはどちらかと言うと、ソワソワしていた。
「行きましょう、蘭丸君。甘えびちゃんが、私の帰りを待っているんですっ!」
やはり、推しに会えるから、こんなにハイテンションなんだろう。けど、マナがとても楽しそうで何よりだと思いながら、僕も車から降りて、ズボラ状態のままのマナの後に付いて――
「あっまえっびちゃ~んっ!!!!」
マナは、施設の出入り口付近に設置された、甘えびちゃんの等身大のパネルを見て、相当興奮していた。
「蘭丸君っ!! あ、あああああああ甘えびちゃんが、わ、わわわわ私の目の前にににににに、い、いますよっ!!!」
「落ち着いて。麻酔銃撃ち込まれる」
マナの興奮は最高潮。ちらほらとこのコラボ企画にやって来ている人もいるようで、鞄にキーホルダーや缶バッチを付けた人たちの注目の的だ。
「ら、蘭丸君っ!! 甘えびちゃんとのツーショット写真、お願いしても――」
「分かったから、順番を守ろうよ」
他にも、パネルとツーショット写真を撮っている人もいる。なので、順番を守ってから、写真を撮るべきだろう。
「ら、らららららら蘭丸君っ!! つ、遂に私たちの――」
「尊すぎて倒れる前に、早く写真撮るよ」
もしこの道の駅が、推しのカジキマグロちゃんだったらどうなっていたのだろうか。パネル見た瞬間、天に召されてしまうのだろうか。
「はい、撮るよ」
これ以上目立ちたくないので、さっさと写真撮影を終えよう。マナのスマホを貰い、そして写真を撮ろうと思ったが。
「……甘えびちゃんの護衛してる?」
甘えびちゃんは、マナより10センチほど身長が低い。赤い髪の色の、毛先が丸まっているお姫様みたいなキャラ。そんなパネルの横で、マナは無表情で佇んでいた。
「尊すぎて、どんな感じに映ればいいのか……」
「普通にピースでいいんじゃない?」
「普通過ぎてつまんないですよ~」
無表情で佇んでいる方が、つまんないだろう。
「……とりあえず、無表情意外で」
「分かりましたよ~」
マナはしばらく考え込んでから。
「……はい撮るよ」
考え込んだ結果、マナは礼拝堂で拝むシスターのようなポーズを取っていた。もうこれで良いやと思って、僕はマナと甘えびちゃんのツーショット写真を撮った。
「あ、あの~。君も一緒に映ったらどうでしょうか? ぼ、僕が撮ってあげますよ~?」
写真を撮り終えると、恐らくウオ娘のファンだと思われる男の人に声をかけられて、僕も一緒に写真撮影を提案された。
「い、いや。別に――」
「良いじゃないですかっ! 蘭丸君も一緒に映りましょうっ!」
マナに強引に立たされて、僕とマナが甘えびちゃんのパネルを挟むように、写真を撮られた。
「お二人とも、いい写真が撮れましたよ~。そ、それでお二人さん、これから僕と――」
「間に合っています~」
マナは写真を撮ってくれた男の人に頭を下げてから、そそくさと男の人と距離を取った。
「懐かしいですね~。ナンパされるのは、高校以来ですかね~」
マナはナンパされても、ケラケラと笑うことが出来るぐらい、このような対処法も慣れているようだ。
「さてさて、甘えびちゃんのグッズを買いましょうか~」
あのような事があっても、マナは、ご機嫌で道の駅の施設内に入る。一番推しているカジキマグロちゃんのグッズは売っていないようだが、それでもスマホゲームのキャラのグッズが売られているのは、マナにとっては嬉しいようだ。
しかし、こんなひっそりとある道の駅でも、ウオ娘をプレイするプレイヤーは来るようで、手書きで、『ウオ娘関連商品は、すべて完売しました』という張り紙を見たマナは、この世の終わりのような顔をしてから、手と膝を床に着かせて、落胆していた。
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