第28話 僕とゴールデンウィーク3日目 海の駐車場編

 マナの推しのキャラの声帯模写で2曲ほど歌わされると、僕たちは海岸線に出た。


「蘭丸君……休憩させてくださ~い……」

「いいよ」


 しばらく海岸線を走っていると、海原を眺めるための駐車場があったため、マナは休憩するために、その駐車場に立ち寄った。


「……はぁ。……つっかれた」

「お疲れ様」


 マナにとっては、初めてと言っていいほどの、まともな距離の運転。いつも気品に立ち振る舞い、疲れた表情なんて、連続徹夜以外見た事ないので、本当に疲れたようだ。


「それなりに人がいるみたいだよ」


 公衆トイレ以外、何もないが、この駐車場は休憩所しても使われているようで、ツーリング仲間で会話していたり、親子で写真を撮っている姿もあった。


「……私は少し休憩していますんで、蘭丸君はご自由に~」

「分かった」


 マナは、暫く仮眠するようで、僕は周りを探索することにした。


「……きれいな場所」


 予報通りに、今日は晴れている。澄み切った空のおかげで、海は更に青く輝いて見え、その光景を思わず僕は、写真を撮ってしまう。


「ま、こんな日も良いかもね」


 岩場に降りれるようなので、僕は岩場に折りて、座れそうな場所に座って、じっと水平線を見つめていると、僕はマナと初めて会話した時の事を思い出した。


 高校の卒業式が終わった時、特にクラスの連中と絡む事無く、僕はさっさと家に帰ろうとした時、突然クラスに入って来たマナに声をかけられ、僕はその後に、伝説の木の下で、マナに告白された。


「私は、桜木蘭丸さんが好きです」


 マナの声帯模写で、僕は告白された時に言われた言葉を呟いた。本当に、あの伝説の木の下にいた美少女は、一体どこに行ってしまったのだろうか。伝説の木の下にいた、木の精霊とかじゃないだろうか。


「きれいですね。港町には住んでいませんから、水平線を見るのは、とても新鮮です」


 木の精霊かと思いかけていると、僕の隣に優等生キャラになっているマナが座って来た。メガネも外し、いつの間にか、あったはずの寝ぐせもきれいに無くなっていた。


「……僕、そんなにじっとしていた?」


 マナの目が覚めるまで、僕はそんなにじっと水平線を見ていたのだろうか。


「いいえ。ガソリン節約でエンジンを切って寝ようと思ったら、段々と暑くなって、車内にいられなくなってしまいました」

「なるほどね」


 今回使用したレンタカーも、ガソリンを満タンにして返さないといけないと、レンタカー店に言われたので、ガソリンを無駄にしないよう、なるべく燃費良く、アイドリングをしないように、マナは心がけているみたいだ。


「……マナって、何者なの?」


 僕は、つい思っていたことを口に出していた。


 僕は、意外と木下マナのことを、よく知らない。マナの内面的な事、人脈、プライベートな事。表では、誰からも好かれる、優等生美少女、けど裏では、スマホゲームに命を燃やす、ズボラ女子の一面しか知らない。


「蘭丸君が大好きな、可憐な美少女、でしょうか?」

「そうじゃない……」


 マナに好きと言われると、やはり僕は顔が熱くなってしまう。マナは僕をからかったのか、ズボラ状態の顔になって、ケラケラと笑っていた。


「そもそも、何でマナは、実家で暮らさず、マンションを借りて暮らしているのかって事」

「親の意向ですよ」


 ここでも、マナの親の話が出てきた。


「私の親は、蘭丸君以上に厳しい親です。けど蘭丸君のお母様とは違い、一人前の大人になる為に、礼儀作法、教養を叩きこまれました。そして、この一人暮らしが親の最後の教え。一人前の大人になる為に、これからは、どんな時も考え、これから出会う人と関わって、色んな事を学び、一人で成長していくようにと。それが親の教育方針みたいです」


 僕みたいに、家を飛び出して過ごしているのかと思っていたが、マナはそう言った事情ではないようだ。


「それは、マナの意思なの?」

「はい。わたしにとっては、蘭丸君と一緒に暮らすためには、丁度良かったですからね。両親の言う通り、色んな事があって、色んな人と関わって、新たな知識を得る事は、私にとって性に合っているみたいです」


 嫌々やっていない。僕の親みたいに、親の自己満足のために動かされていない。こんな話を笑いながら話せるのは、本当にマナは、この生活を楽しんでいるみたいだ。


「羨ましい」

「スマホは、外出時以外使用禁止、勉強以外のご学友の交流は禁止。テレビはニュースのみ鑑賞可。そんな生活、送りたいですか?」

「……何だか、今のマナが出来た理由が分かった気がする」


 一人暮らしになれば、マナに自由の時間が出来る。興味本位でスマホゲームを始めたと、前に言っていたので、そんな束縛された生活をしてきた反動で、マナにズボラ状態が出来上がってしまったのだろう。


「他に聞きたいことはありますか?」

「もう十分かな」

「蘭丸君なら、私のスリーサイズを、教えても良いですけど?」


 程よく膨らんだ胸、くびれ、そして整った形のヒップ、きれいで長い脚のマナは、男性だけではなく、情勢も羨むような体付きをしている。


「……きょ、興味ない」


 僕はマナを意識してしまい、顔を赤くして水平線を再び見つめると、マナは再びケラケラと笑う。


「蘭丸君も、ちゃんとした男の子ですね。たまに、私の胸、ふくらはぎをチラ見している、むっつりな蘭丸君も好きですよ」


 マナの言った事が否定できないので、僕は水平線を見つめるのに真剣になっているふりをして、黙り込んでいると、マナは可笑しそうに、ケラケラと笑っていた。

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