第27話 僕とゴールデンウィーク3日目 出発編

 ゴールデンウィーク3日目。


「おっは~」


 ズボラ状態のマナだが、珍しく僕より先に起きて、そしてカーテンを開けて朝日を浴びていた。この日の為に、徹夜する事無く、僕より先に寝ていた。


「楽しみ過ぎちゃって、目が冴えちゃったんですよね~」

「……ちゃんと寝たんだよね?」

「そこは抜かりなく~。起きたのは、ついさっきですから~」


 マナが居眠り運転する事は無いようなので、ひとまず安心できる。


「それじゃあ、道が混み出す前に、ささっと車を借りて、どこか行きましょう~」

「そうだね」


 僕もすぐに準備をして、平日なら人や車が多いのに、連休のせいかその光景が無い、少し静かな町を、二人で歩いた。




 駅前にある、レンタカー店に行き、そこで軽自動車を1日レンタルした。12時間利用で、大体3000円ほど。高速バスや電車を利用するよりかは安く済んだので、少しは気を楽にして、今日を楽しめるだろう。


「……サイドミラー良し……ルームミラーも良しっと」


 ズボラ状態で真面目に運転しようとしているマナに、補助席に座っている僕は、違和感を感じる。ズボラ状態、流石に体操服ではないが、紙には寝ぐせが付いている、とてもラフな格好で、マナは今回の旅行を楽しむつもりらしい。


「推しを育成しないんだから、メガネは要らなくない?」


 マナのメガネは、ブルーライトカットをするためのメガネ。マナは視力は良いので、メガネをかけて運転する意味はない。


「メガネかけた方が、集中できる気がするんですよね~」


 なら伊達メガネでもいいんじゃないのかと思う。


「そんで蘭丸君は、行き先は見つけたんですか~?」


 色々と確認してから、マナは少し覚束ない感じで、車を運転し始め、僕にそう尋ねた。


「一応、目星をつけた。僕的には、県外にあるアウトレットとか、博物館、水族館は混む」

「ほうほう~」

「そうなると、道の駅とか高速道路のサービスエリアだと思う」


 大まかな目的地をマナに伝えると、マナは愉快そうに笑った。


「初心者に、いきなり高速道路を走らせますか~?」

「……ごめん」


 マナだって、まだ免許を取得したばかりだ。いきなり猛スピードで走るのは、マナだって怖いだろう。


「せっかくの休みですから、私は全然構いませんけど、高速道路のサービスエリア、道の駅も混みます。み~んな、考えることは一緒ですな~」

「……施設よりはマシだと思うけど」

「それと、高速道路は有料ですね~。距離によりますが、往復で電車や高速バスと変わらないぐらいの料金になってしまいますよ~」


 そう言えば、高速道路も有料だった。バスケ部に入っていた頃、県外に遠征する時に、高速道路を利用していたが、すんなりと入って行ったので、有料と言う概念を忘れていた。


「まあ、のんびりとドライブでいいんじゃないんですか~」

「それがあっているかもね」


 そして適当にドライブという事になった。マナも初めてになるであろう運転は、きっと疲れるであろうから、今回はこんな感じで丁度いいのかもしれない。


「免許を取るのって、大変?」


 将来、僕も車の免許を取りたいと思っている。なので、経験者のマナに、そう聞いてみると。


「自動車学校と言うぐらいですからね~。やる事は、高校時代と変わりませんよ~。授業を受けて、そして実際に車に乗って卒業する。もしかすると、蘭丸君だと、大学の雰囲気と、どこか似ているなと思うかもしれませんね~」

「成程」


 そしてマナは、ケラケラと笑いながら、僕に問いかけてくる。


「運転する時は、夜の走行に注意しなければいけない。蘭丸君は、どう思いますか~?」

「そうじゃないの?」

「不正解ですよ~」


 何が間違っているのか、僕は首を傾げていると、マナは再びケラケラと笑う。


「常にですよ~。運転する際は、どんな状況、時間でも注意して運転をしないといけない。そんな引っかけ問題だらけですから、国語が苦手だと意外と苦戦するかもですよ~」


 大人の世界って、やっぱり意地悪で残酷だ。そう思ってしまい、僕もほくそ笑んだ。


「蘭丸君。お暇ですか~?」


 市街地を抜け、車は山道に入ると、マナは少しウトウトしていた僕に話しかけてきた。


「……まあ。暇」


 鳴れていない運転に、ずっとマナに話しかけているのもどうかと思い、僕はずっと外の景色を見ていた。

 カーナビはあるが、テレビは映らない。一番安いレンタカーなので、USBの差込口もないので、スマホを接続する事も出来ない。なので、ラジオしか聞けないのだが、ラジオも興味の無い話ばかりしているので、とてつもなく暇だ。


「なら、昨日のカラオケみたいに、推しの声で歌ってくれませんか~?」

「……嫌だ」


 ノリノリで歌えてしまった事が、なぜかショックだった。なので、僕はマナのお願いでも断ると、マナは車を路肩に寄せて停車させてから、僕の肩を揺すってきた。


「……そもそも、曲が流れないと歌えない」

「そういう事なら……」


 マナは、スマホを操作してから、大音量で推したちの曲を流した。


「……歌う必要性なくない?」

「この歌だと、推しのカジキマグロちゃんは歌っていないのですよ~。なので、カジキマグロちゃんの声で歌ってくれると、今にも塞がりそうな瞼が開きそうなんですよ……っ!」


 山道で事故る前に、ここはマナ、そして僕自身の眠気覚ましとして、歌った方が良いのかもしれない。


「……と言うか、ぐっすり眠ったんじゃないの?」

「いやいや~。楽しみ過ぎて、実際寝たのは、2時間ぐらいなんですよね~。だから、眠気がヤバイ」


 この展開、どこか春先でもやったなと思いながら、僕はマナの推しのキャラの声で、山道を抜けるまで屋台続けた。

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