第26話 僕とゴールデンウィーク2日目 その3
ボウリングが終わって、これで僕の母親が諦めると思ったが、更にマナを陥れようと、更に気合が入ってしまった。
「頭脳明晰の女狐さんなら、わざと音程をずらして、59点を出す事は可能でしょう」
今度は、カラオケ店に移動し、そこで勝負をする事になっていた。僕の母親の提案だと、わざと音程をずらして、低い点数を取るという、中々難しい勝負内容だった。
「……出来……ません」
流石のマナも自信がないのか、少し言葉を詰まらせながら、返答していた。
「そういう事なら、こちらの不戦勝で――」
「……歌手の方、もしこの光景を見たら、どう思われるでしょう。……曲、歌詞を作った方は、わざと変な風に歌われ、そして如何に下手くそに歌うなんて、いろんな方に失礼。……いや、マイクやスピーカーも――」
「そ、そこを配慮するなら、ルールを変えますよ……っ!」
僕の母親が、マナの否定的な意見を受け入れ、勝負内容が変える事に成功すると、マナはもう勝利を確信したような、微笑んだ顔をしていた。
「お母さま。先ほどから、ずっとお母さまばかり内容を決めて卑怯、ズルいと思います。なので、ここはこの空間を活かした、勝負を提案させていただきます」
「文句まで言うなら、私が納得できるような、内容を考えているのでしょうね?」
そしてマナは頷いて、そしてカラオケ機器を操作する、タッチパネル式のリモコンを操作し、それを僕の母親に見せつけた。
「ボイスチェンジ出来る、コンテンツがあります。それで今から、このボイスチェンジしたまま、誰が高得点を出せるか、遊びを含めた勝負にしましょう」
声を男の声を女の声に変えたり、デュエットしているような感じにしたりと、カラオケを盛り上げるコンテンツがある。
「いいでしょう」
マナの提案には賛成のようで、僕の母親はマイクを握りしめた。
「蘭丸さん。あの曲を入れてください」
「分かった」
マナに勝ちたいようで、僕の母親は十八番を予約するように、僕に命令した。
「ボイスチェンジも、蘭丸君にお願いしますね」
「はいはい」
マナは、重要な役割も、僕に押し付けた。母親が指定した曲を入れて、そして適当にボイスチェンジ機能をオンにさせた。
「青いラベンダー。これですよ」
僕の母親の十八番は、僕の母親が子供の頃に流行したという、昭和のアイドルの歌。合唱コンクールで活躍できるよう、僕の母親は練習としてカラオケに連れていく事があり、そして僕が休憩している時に、よく母親が歌っていた歌だ。
「……黒色の列車に――」
「ぶっ!!」
適当に宇宙人の声にしたのだが、マナの笑いのツボにはまってしまったようで、母親が歌い切るまで、マナは笑いをこらえるのに必死になっていた。
「はぁ……笑い過ぎた……。では、私の番ですね……」
ボイスチェンジしても、僕の母親は93点と言う、高得点を出していて、マナはプレッシャーを感じているのか、リモコンで曲選びに悩んでいるようにして、中々歌い出そうとしない。
「ちょっと失礼します」
母親の携帯に着信が入り、一旦、母親が部屋を出ていくと。
「助けて~蘭丸君~」
「何事?」
さっきまで凛々しかったマナが嘘のように、僕に泣きすがって来た。ズボラ状態でも、こんなマナは見た事は無いので、すごく新鮮だ。
「……私、物凄く音痴です」
どんなに完全無欠、ミスコン優勝レベルの美少女でも、何かしらの欠点はあるようだ。マナの唯一の弱点は、どうやら歌のようだ。
「つまり、また某探偵みたいに、代わりに歌えって事? さっき言っていた、ズルいとか卑怯とかは?」
「今回は、私と蘭丸君の共闘という事なので、卑怯でもズルでもありませんっ!! なので、今回はどうか、お願いしますっ!!」
ソファーの上で、マナは僕に土下座をした。これまで、何度もマナに助けられ、そして今回の勝負も、マナが僕を守ろうとした結果、こんな展開になってしまっている。
ずっとマナが頑張っている、そもそも僕が勝負しないといけない事なのだから、ここは僕も動かないといけない。
「……どういった歌?」
「これでお願いしますっ!」
マナはリモコンを操作して、そしてリモコンの画面に映されていたのは、マナが激推ししているゲームアプリ、ウオ娘の中で流れている歌だった。
「……ノリノリで歌えと?」
「はいっ!」
マナが、そんなキラキラした目で、お願いされても、僕は歌えるか分からない。ボイスチェンジをすると言っても、マナの声を声帯模写して歌わないといけない。歌った事の無い歌で、上手く歌えるか分からない。なので、違う歌でお願いしようとしたが――
「お待たせしました。では、早速お願いします」
僕の母親が戻ってきてしまい、そしてすぐさまマナが曲を予約してしまったので、僕がぶっつけ本番で歌う事になってしまい、マナは口パク、僕はマナ声の声帯模写、そしてテクノボイスで、なぜか全部歌えてしまった事に、僕はなぜかショックだった。
「……私の勝ち……ですね」
初めて歌った歌でも、僕は98点と言う、高得点を出してしまった。僕が出した特典なのに、なぜかマナが誇らしげなのは、少しムッとした。
「認めません」
けど、僕の母親は認めない。
「どうしてでしょうか?」
「私の知らない歌、上手なのか判断出来ません」
「カラオケの採点が、上手と言っているのですから、そこは認めましょうよ? それとお母さま、何やかんやで、もう夕刻ですし、勝負はこれで終わりにしませんか?」
時間はいつの間にか夕方。僕の母親は、まだ勝負に納得していないようで、大きくため息をついていた。
「……まあ、蘭丸さんを陥れるよな、悪い女狐ではないようですね」
一応、僕の母親は、マナを認めたようだ。強制的に僕とマナを引き離す、そう言った事はしないようだ。
「ええ。私、木下マナは、蘭丸君の事を、この世で一番、好いていますので」
マナに、こうやって堂々と好きと言われると、僕も照れ臭くなり、顔を俯かせてしまった。
「蘭丸さん。たまには、家に顔を出しなさい」
「……明日、マナと日帰り旅行をする。……気が向いて、何となく買ったお土産渡すついでに、顔を出すかもね」
僕にとって、両親は毒親。とても厳しく、今まで受けた仕打ちを忘れた事は無い。けど、そんな親でも、一応親子で血縁関係にある。どんな毒親でも、親らしい気持ちはあるようなので、気が向いた時に顔を出すことにした。
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