第25話 僕とゴールデンウィーク2日目 その2

 僕の母親の提案により、僕はマナと勝負する事になった。


「蘭丸さん、男なら当然勝てるでしょう?」


 母親の威圧に逆らえず、母親の車で連れてこられたのは、市内にあるバッティングセンター。女性なら野球経験が無い、僕ても勝てるという、安直な考えだろう。


「これで10本目ですね」


 けど、マナは違う。マナは美貌だけではなく、学力、運動神経がとても良い。だから連続で、ホームランが打てる。天才肌のマナと、凡人の僕とは、天と地の差がある。


「蘭丸さん。突っ立っていないで、さっさと動きなさい」


 マナの快進撃で、母親は段々とイライラを募らせている。僕への当たりが強くなってきたので、僕はちゃんとボールを見て、バットに当てようとするが、すべて空振りで終わった。


「……本当にバスケットボール界の神童?」

「……うるさい」


 僕の行動に、マナに心配されてしまう。

 バスケットボール以外の球技は苦手だったりする。運動神経が悪い訳ではないが、野球やサッカーなど、他の球技は、運動音痴のような、ヘロヘロな動きになってしまう。


「蘭丸さん」


 そして僕の母親は、冷めきった顔で、僕の顔をじっと見つめていた。


「バット」


 どんな暴言を吐かれるか、そう思っていたら、まさかの母親が、マナに対抗してバットを持ち、そしてマナに劣らないぐらいのホームランを出していた。


「……12本目」


 母親は、飛んできたボールをすべて打ち返し、そしてマナ以上の成績を残そうとしていた。


「これで対等。いつ記録が途切れるか。勝負しようではありませんか?」


 連続でホームランして、マナの記録に追いついた僕の母親は、マナに勝負を持ち掛ける。


「いいですね。まだ打ち足りませんし、正面にお母様の顔を思い浮かべながら打つと、簡単にホームランが出ちゃうんですよ」

「奇遇ですね。私もです」


 マナもしっかりと、僕の母親を煽り、そして連続でホームランを出して、他のお客が集まりだし、スタッフが止めに入って来そうになっていたので、僕は2人を止めて、この勝負は引き分けと勝手に決めつけた。




 試合を中断され、僕の母親がご立腹のまま、車の運転をし、そして母親に連れてこられたのは、バッティングセンターの近くにあったゲームセンター。その中にある、ボウリング場に連れてこられた。


「なるほど。さっきと同じ要領でやれば良いって事ですね。承知しました」


 マナは、早速僕の母親を煽るが、僕の母親はこれに動じることなく、淡々と勝負内容を説明した。


「スペア、ストライク、あわよくばガターを出したら負け。ピンを1本残しをどれだけ出来るか。そのような内容にしましょう」

「いいですよ」


 マナは僕の母親の勝負に乗っていたので、すぐにボウリングで勝負が始まった。


「大人のお手本、見せてあげましょう」


 僕とマナの勝負の事をすっかり忘れている、僕の母親。負けることが分かっているからか、それともマナに負けたくないのか、悪い大人の部分が出てしまっている母親は、きれいなフォームで、ボールを投げた。


「……完璧です」


 僕の母親は、予告通りに1投目で9本倒して、1本だけ残した。2投目は、わざとボールを外していた。


「お見事ですね」


 そしてマナの番になり、僕に軽く微笑んでから、ボールを持って投げる体勢に入っていた。


「蘭丸さん。脳筋女狐さんの失態、ちゃんと見ておきなさい」

「母さんに言われなくても、しっかり見てる」


 マナを煽る、運動神経だけが良い女だと思っているようで、マナが失敗する姿を、しっかり見ておけと言って来た。


「母さんこそ、マナが母さん以上の女性だって、見ておけば?」


 マナは、計算通りに言わんばかりに、1投目で、ピンを4本残して、僕たちの顔を見ていた。


「木下さん? ピンが多く残っていますよ? もうルールを忘れでしょうか?」

「置きに行くより、ギリギリで残した方が、面白いじゃないですか」


 そして2投目で、予告通りにピンを1本だけ残して、マナは僕の母親に薄ら笑いを向けていた。


「まあ、安定で狙っていけば、絶対に脳筋女狐には、負けませんからね。けど、女狐と認めなさっているのですから、頭脳も高い事もお忘れなく」


 しっかりと僕の母親を煽ったマナは、僕とハイタッチをしてから、満足そうにペットボトルの水を飲んでいた。


「……本当に、最近の若者は、生意気ですね」


 そして僕の母親も、闘志に火をつけて、マナの額に指を差していた。


「6本から3本倒します」


 予告ストライクならぬ、予告ピン残し。母親は、僕に親の威厳を示すため、マナに対抗してそんな予告をしてきた。


「それなら、私は8本倒して1本倒します」


 マナもすぐに、僕の母親に対抗していた。


「……じゃあ、僕は飲み物を買ってきます」

「「お願いします」」


 僕とマナの勝負はどこへやら。それどころか、僕の名前は登録されていなかったので、最初から僕は蚊帳の外だった。

 僕は雑用係に降格して、母親とマナに空になったペットボトルを捨てに行き、新しい飲み物を買いに行く係になっていた。

 最後の最後で、僕の母親がマナの煽りを受けて、全て倒してしまったせいで、ボーリングのルール、スコアでは勝ったが、母親とマナの勝負ではマナが勝ちとなった。

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