第24話 僕とゴールデンウィーク2日目 その1

 ゴールデンウィーク2日目。


「……雨降ってるじゃん」


 昨日と違って薄暗いなと思って、外に出たら、外は雨だった。改めてスマホで天気予報を確認してみると、今日は雨時々曇りに変わっていた。


「神様は、今日も休めって言っているんだよ~。蘭丸君も、今日もゴロゴロしようじゃないですか~」


 マナは2徹目。僕が夜で寝ている時でも、マナはずっと推しの育成をしている。


「僕は、今日は流石に体を動かす」


 体がなまってしまう為、僕はヨガをしようと、布団を片付けて、ヨガマットを広げようとした時だった。


 ピンポーン


 この部屋に、初めての来訪者。インターフォンに映し出されているモニターで、誰が来たのか確認した瞬間、僕は固まってしまった。


「……お母さん」


 何故か、マナのマンションに、僕の母親がやって来ていた。僕は、親にはマナと同棲している事は言っていない。何も言わずに、勝手に家に飛び出してきただけだ。


「はい。どちら様でしょうか?」


 僕は居留守をしようとしたが、いつの間にかマナは、身だしなみや口調も変えた優等生キャラになり、インターフォンの応答をしていた。


「桜木です」

「鍵は開いています。どうぞお入りになってください」


 どうやって、僕の居場所を知ったのか分からない。ここでマナと離れ離れ、家に強制送還されるのは嫌なので、僕は風呂のバスタブの中に隠れようとしたが。


「蘭丸君を守るためです。逃げたら、もう一生暮らせないでしょう」


 マナに手首を掴まれ、逃げ出せなくなっていると、玄関の扉が開かれた。


「元気そうね? 蘭丸さん」


 そして部屋の中に入って来た、不敵な笑みを浮かべる、僕の母親。大和撫子と思わせるような、美人な出で立ちをしているが、その反面、表情は硬く、僕を道具としか見ていない顔をしている。


「初めまして。私は、この部屋の借主、木下マナと言います」

「こちらこそ初めまして。蘭丸の母です」


 母親は丁寧に頭を下げた後、マナに紙袋を渡した。


「急にお尋ねして申し訳ありません。そのお詫びに、これを」

「ありがとうございます」


 母親は、僕の実家の近所にある、和菓子を手土産に持ってきたようだ。マナは僕の手首を掴んだまま、手土産を受け取っていた。


「蘭丸君は、帰りませんよ」


 マナは、直球に母親に対立していた。


「あら、生意気な女子おなごね」

「実子なのに分かりませんか? 蘭丸君は、実の母親に怯えている」


 僕の親は、とても厳しい親だった。最近だと、毒親だと言われるらしい。

 私立の保育園、小学校に通わされて、成績が芳しくないと、更に僕への当たりが強くなった。

 父親も厳しい人だったが、特に母親が厳しかった。成績が悪ければ、僕に平気に手をあげる。そして父親の一晩中の説教。

 親に失望され、中学生から公立の中学校に通う事になったのだが、そこで僕は声変わりの際に、声帯模写を身に付けた。親に認めてもらえるよう、声帯模写を活かして、スポーツの世界、バスケットボールで活躍していく事になる。


「……そうですか。……あなたが、蘭丸さんを誑かした、女狐ですね」


 僕が、バスケットボールを辞めたのは、マナのせいだと考えた母親は、マナをゴミを見るような目で睨みつけていた。


「ある意味間違っていないので、私は否定しません」


 いろんな場面で、マナは性格を変えているからか、僕の母親の女狐発言を否定しなかった。


「否定しませんので、これだけは言わせてもらいます。私、蘭丸君とはお付き合いさせていただいています」

「……ふぁ?」


 マナが、急に僕との交際宣言をしたため、母親は聞いた事ないような、腑抜けた声をしていた。


「……認めない、そんな顔をしていますね。そりゃあ、女狐に愛する息子を奪われたら、怒り、いや嫉妬しちゃいますね」


 マナが、母親を煽ると、僕の母親はブチ切れて、僕とマナに暴言を乱発して来るかと思ったが。


「……成長……しましたね」


 母親は、なぜか涙を流し、僕たちに向けて小さく拍手をしていた。


「……木下さん。……この出来損ない息子を愛してくれてありがとうございます」

「出来損じゃありません。蘭丸君は、とても優しい人です。私こそ出来損ない女ですから、いつも蘭丸君に助けられています」


 このまま、穏便に物事が進むかと思ったが、僕の母親はそんな甘い人じゃない。


「……ですが、貴方たちの交際は、認められません」

「でしょうね」


 やはり、僕とマナの交際は認めないようだ。


「なので、木下さんが、蘭丸さんに相応しい人なのか、更に見定めさせてもらいます」

「いいでしょう。その勝負、受けましょう」

「飲み込みが早くて助かります」


 いつの間にか、勝負まで発展していた。


「蘭丸さん、木下さんを打ちのめしなさい」

「……何で?」


 ノリで、マナと母親が戦うと思っていたのだが、まさか僕とマナが勝負する事になっていた。


「得体の知れない女狐なんかに、うちの蘭丸さんが負けるはずない。と言うか、この女狐の余裕そうな顔が崩れる瞬間、この目に焼き付けてから、美味しい懐石料理でも食べたいですね」


 ここで僕の母親の悪い所が出てしまう。こうやって、僕に期待し過ぎているから、母親は失望して、僕に手をあげるようになった。


「蘭丸君、手加減はしないでください。私もしませんので、本気で勝負しましょう」


 マナも僕と勝負する気のようだ。マナに裏切られた気分になり、僕はそっとマナから目を逸らした。

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