第23話 僕とゴールデンウィーク1日目

 ゴールデンウィーク、1日目。


「お目覚めですか~」

「……何時?」

「朝の9時~」


 連休が終わるまで、大学の講義もなく、マナの会社も休みになっているので、僕はこうやってだらけることが出来る。


「……もう少し寝る」

「どうぞどうぞー」


 マナは相変わらずの推しの育成。僕に気遣って、消音で育成しているようだけど、度々マナが推しが活躍する姿を見て悶え、尊死しかけているので、たまに目が覚める。


「ぐっすり寝ていましたねー」

「……何時?」

「10時半~」


 そこまで長い時間寝ていなかったようだが、体はスッキリしている。大きく背伸びをしてから、僕は寝転がって推しの育成をしているマナを見て、一安心した。


「……僕もひたすらだらけようかな」

「ぱらぱらぱ~ん。蘭丸君が仲間になった~」


 あと4日休みがある。今日ぐらい、ずっと寝転がっていても、罰は当たらないだろう。マナも、僕がこうやって怠けているのが、嬉しいようだ。


「……予算、1万円で行ける所」


 マナが頑張って稼いでくれた初任給で、僕たちが自由に使えるのは、多くて1万円。家賃で5万円消えて、光熱費や食費などの生活費で、大体5万円だと大まかな予想にすると、使えるのは雀の涙ほど。何も無い日用品を買いたいところだが、マナがせっかく提案してくれたことなので、ここはマナの意見を尊重したい。


「……県外は無理」

「電車、バス、レンタカー借りようと思ったら、それだけで予算消えますからね~」


 高校時代の時に免許を取得しようと思っていなかったから、僕が運転免許所を持っていない。免許を持って、自分の車を持っていたら、交通費を悩む必要はなかった。


「……そもそも、天気は良いのだろうか」


 今日は晴れているが、残りの連休の天気はどうなっているのだろうか。雨が降るのであれば、行動内容も変わってくるので、天気予報を検索してみると。


「……曇り……晴れ……曇り」


 雨は降らないようだが、晴れるのはたった1日のみ。そうなると、明後日に行く事に限定されるようだ。


「ぐはっ!! カジキマグロちゃん……マジ天使……」


 僕が悩んでいる間にも、マナは推しの育成、そしてあまりの尊さに死にそうになっていた。


「……そんなに魚が好きなら、魚市場でも行く?」


 頑張って歩けば、卸売市場があったはず。マナが魚に夢中なら、水族館に行けない分、魚市場で観光する手もありかなと思い、マナにそう聞いた。


「……はりつけにされたアイドル。……蘭丸君は見たいですか?」

「……すみません」


 マナにとっては、魚市場は地獄絵図。それは悪い事を言ったと思い、僕はすぐに謝った。


「……どこ行こう」


 近場で良い場所が無いかと思い、寝ながらスマホで検索を続ける。


「……家電量販店?」


 マナの部屋は、家電製品が一つもない。マナが推しのためにすべての貯金を使い果たしていなければ、今頃は普通の生活が出来ていた。お金が溜まったら、家電製品を買い揃えたいので、下見という事で、マナにそう提案した。


「蘭丸君がそれでいいなら、私は構いませんよ~」


 マナは否定しない。けど、それは連休にやらないといけない事なのかと思い、僕はマナに返事をせず、再びスマホで検索をかける。


「はぁ~。新規のナポレオンフィッシュちゃんも可愛いですな~」

「……どんなの?」


 マナが激推ししているカジキマグロは、何度もマナに見せられているので、どんな姿なのかは分かるが、流石に新規のキャラは認知していない。マナがウザいほど見せつけてくる前に、僕はそのキャラを確認した。


「こんな子ですよ~。のんびりちゃんです~」


 青髪で、たれ目の女の子が、新規のキャラ。


「今朝手に入れたので、育成も終わりましたし、蘭丸君も一緒にライブを見ましょうよ~」

「う、うん」


 マナに強制的にライブを見せられることになり、僕とマナは小さなスマホの画面に覗き込むように、顔を近づかせて、ライブを見た。


「カジキマグロちゃんっ!! はわわわわっ!! ナポレオンフィッシュちゃんと手を繋いで踊ったら……っ!! ぐはっ!!」


 マナは、あまりの尊さに、再び死にそうになっていた。


「……はぁ……はぁ。……推したちは、何度私を昇天させるつもりなのですか」

「……まあ、可愛かったと思う」


 ライブが終わり、マナはスッキリした顔をしていた。僕はマナみたいに推しではないので、マナみたいに暴走する事は無いが、可愛かったという一言を言っておいて、再び自分の布団に寝転がって、自分のスマホを触り続ける。


「……結局、どうしようか」


 近場の検索から、いつの間にか動画を見ていて、そして気が付けば、もう夕方。本当に今日一日、何もしなかった。とことん、だらけただけの日になっていた。


「……天気がいいなら、ドライブしましょうか?」


 マナはようやく体を起こして、僕にそう聞いて来た。


「……誰が?」

「私ですよ。一応、免許もありますし、マニュアル車も運転できます」


 マナは、ちゃっかりと車の免許を持っていたようだ。すごく羨ましい。


「親睦会では山でしたから、海岸線でもドライブしましょう」

「……急にやる気が無くなって、やっぱり行かないとか言わないよな?」

「言いませんよ。蘭丸君と、また新たな思い出が出来るのですよ。予算の1万円以内でレンタカー借りて、楽しい日にしましょう」


 そうマナは微笑みかけてきたので、僕もつい微笑んでしまった。

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