第19話 僕と男の娘クラブの調査
またまた予定が入った週末。僕とマナは、昼頃に五木弥生が僕にアルバイトを勧めてきた店、男の娘クラブにやって来た。
五木弥生の名刺の裏に住所が書いてあり、その住所の場所にやって来ると、男の娘クラブは駅前の繁華街にあった。隣はスナックと居酒屋という、まだ未成年の僕たちが、やって来てはいけない場所だろう。
「よくお似合いですよ、蘭子さん」
今回のマナは、優等生キャラで突撃するようで、歩き方、話し方、立つ姿も上品さを感じる。何で繁華街に、こんな美女が、何かの撮影かと思う感じで、通行人にそう見られている気がした。
「どーも」
そして僕は、正体がバレたらマズいという事で、親睦会の時にやった、マナの提案で僕の女装版、蘭子の状態になっている。マナからブルーライトカットメガネを借りて、髪を後ろで結い、マナの推しのキーホルダーが付いた、大きめのリュックを背負って、オタクっぽい女性の格好をしている。万一、五木弥生が働いていたとしても、すぐにバレる事は無いだろう。
「今は蘭子さんですよ? ……そうだ、あの方の声で行きましょう」
マナは、今すれ違った女性で、声帯模写をしろと指示してきた。一度聞いた声は、絶対に忘れない。微かに声は聞こえたので、僕は声帯模写で、すれ違った人の声で話すことにして、男の娘クラブの中に入った。
「いらっしゃい。2名のお嬢様だね」
入ると、受付の女性――僕と同じの男の娘が接待していた。初対面では、絶対に男だと思わないだろう。
「こちらの席にどうぞ」
そして店の奥の方に案内された。厨房に近く、もし裏方に五木弥生がいたら、すぐにバレてしまうのではないかと思っていしまう。
「蘭子さん。このお店、口コミで星4.2の高評価のお店みたいですよ」
「へー」
気が抜けないよう、声帯模写を意識しながら話しているので、素っ気ない返答になってしまう。
「何にしますか? こう言うのは、特徴的なメニュー名だと聞いているのですが、意外と普通ですよ」
「……ラーメン。……チャーハン。……中華料理店かな?」
餃子やニラ饅頭、そしてデザートは杏仁豆腐。他のお客も、確かにラーメンをすすっていたり、美味しそうに小籠包を食べている。
「ラーメン」
「いいですね。それじゃあ、ラーメン2つにしましょう」
注文が決まったので、マナが呼び鈴を探していた。
「これ」
「……はぁ」
メニューの裏に隠れていた、男の娘クラブの注文の仕方が書かれた紙を見つけ、僕はそれをマナに見せると、一瞬、マナの顔が真顔になった。
「……恥ずかしいなら、代わりに呼ぶけど」
男の娘クラブでの注文の仕方。それは、気に入った店員の好きな所を言ってから、店員の名前を叫びながら呼ぶという方法。なぜこんな面倒な事をするのか、僕には理解できない。
「プルンっと、セクシーな唇の健太ちゃんっ!! 6番のお席に舞い降りてくだーいっ!!」
そして見本のような、近くの席の人が、店員を呼んでいる光景を見て、僕とマナは絶句していると。
「……蘭子さん。……呼びたそうですから、呼ぶ権利を譲ります」
店員の呼び方が書かれた紙を、マナは僕に押し付けてきた。
「……別にいいけど、どの店員が良いのかは、マナさんが選んで」
僕が受け入れたのが意外だったのか、少しつまらなさそうな顔をしてから、マナは店員の顔写真が貼られている壁を見渡していた。
「じゃあ、葉月さんと言う方で。つり目でカッコいいって褒めてください」
「分かった」
マナの言われたとおりに、僕はその店員を呼ぶことにした。この時、顔写真を見ずに呼んだことを、僕は後悔する。
「つり目でカッコいい葉月ちゃんっ!! 9番のお席に舞い降りてくださいっ!!」
マナが僕のキャラが崩壊している姿を見て、笑いをこらえている姿を見て、ド突きたい気分だが、ここは堪えて店員が来るのを待っていると。
「ようやく呼んでくれたね。可憐なお嬢さん2人に呼ばれて、私も光栄さ」
僕の席にやって来たのは、葉月という名で接客していた、五木弥生だった。マナが五木弥生が、どんな人物なのかを見極めるため、わざと指名したとしか思えない。
「さて、私たちに何を求めるのかな?」
この様子だと、僕が桜木蘭丸だという事がバレていないようだ。いつもの僕とキャラが違うし、声帯模写で声も違う。僕が変なボロを出さなければ、このままバレずにやり過ごせる。
「当ててみてください。イケている男の娘なら、可憐なお嬢様たちが、何を所望しているのか、分かるはずです」
マナは、五木弥生を挑発する。
「そうだな……」
マナには、五木弥生が心が読めることを伝えてある。本当に心が読めるのか、確認しているのだろう。
「可憐なお嬢様だから、当店自慢の小籠包かな?」
「不正解です」
「いやいや、最後まで話を聞いて欲しいな」
マナが勝ち誇った顔をする前に、五木弥生は営業スマイルで、こう言った。
「今日は曇り。そこまで寒くみたはない。なら無難にラーメンかな? ってメガネをかけたお嬢様の君は、そう考えているみたいだよ」
僕は、五木弥生の言動に背筋が凍った。君という言い方は、僕を呼ぶ時に呼んでいた。そんな呼び方をするって事は、変装していても、やはり心を読んで、僕が来ている事を喜んでいるみたいだ。
「いやいや、私の方こそ、しっかり話を聞いてください」
五木弥生がニヤニヤしようとした時、今度はマナが五木弥生に攻撃を仕掛けた。
「不正解。それはさっきまでの事です。このお店、空調がしっかりしているせいか、少し暑いなって、葉月さんが来る前にそう話したんです。だから、私たちは、つるんとひんやりした、杏仁豆腐を要望しようと話し合ったんです。だから、早く杏仁豆腐を持ってこい、この野郎」
優等生キャラのニコニコしたままで、マナは五木弥生を突き放すように、杏仁豆腐をさっさと持って来いと注文していた。
「う、嘘は良くないよ。メガネのお嬢さんは――」
「ごちゃごちゃ言っていると、無駄口を叩く、M月さんと言う人の態度が悪いと、この口コミに星1つ付けますよ?」
そして口コミで低評価を付けると脅したマナに押され、五木弥生は渋々杏仁豆腐の注文を承って、厨房に向かった。
「こんなメシウマな展開があれば、ラーメンなんかいらないでしょう? スイーツで締めましょう」
元優等生の立ち振る舞いに、僕はマナにありがとうのスタンプをラインに送った。
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