蘭丸、マナの新たなステージ

第16話 僕と大学生活の始まり


「僕、今日から大学だから」


 僕が大学生だという設定を、マナは忘れているであろう。そう思って、マナに伝えると、マナはかじっていたウエハースを床に落とした。

 このウエハース、週末に行ったショッピングモールの中で買った、薬局の時に薬と一緒に買った物。マナの推しがたくさんいる、スマホゲームのコラボ商品で、一番推しのカジキマグロちゃんのカードを当てるために、薬局にあった物をすべて買い占めたようだ。

 けど結果は惨敗。肝心のカジキマグロちゃんは出なかったようで、他のレアキャラはたくさん出たらしい。30枚ほどのカードと、ウエハースが虚しく残っただけだ。


「……大丈夫?」


 マナに遅れて、ようやく僕も新生活が始まる。高校、そしてマナが勤める会社とは違う、成人した大人たちも通う大学。サークルや上下関係、そして専門な学科を詳しく習うので、勉強も難しくなる。


「まあ、不安だけど……」

「それなら、道に迷わないよう、遅刻覚悟でついて行こうか?」


 僕は方向音痴だと思われているのだろうか。マナよりはしっかりしていると、僕は自覚しているんだが。


「えっと……。花咲はなさき大学だっけ~?」

「そう。体育学部で、色々学ぶ」


 罪滅ぼしとは言わない。ただ体育学をしっかり習って、そして多少知識がある、体育、スポーツの事を教えられる、インストラクターか先生になれればと思っている。それが、僕の夢だ。


「ま、私は授業は勘弁だから、蘭丸君は夢を叶えるため、大学生活を楽しみなよ~」

「なら、マナも僕にこれ以上負担をかけないよう、せめて朝は自分で起きられるようにして」


 スマホゲームで徹夜する以外は、マナは基本的に僕が起こさないと起きない。僕と同棲し始めてから、更にマナのズボラが深刻化している。


「え~。初めて聞く音が、蘭丸君の声だから、1日頑張ろうと思えるんだよ~」


 たまに、僕の心に不意を突いて来ることを言うから、マナの面倒を見ないといけないなと思ってしまう。


「けど、蘭丸君がカジキマグロちゃん声で起こしてくれるなら、そのまま会社まで行けちゃんだけどな~」

「気が向いたら。そんじゃ、今日の昼食。夕方までには帰っているから、いつも通りに帰ってくればいいかな」

「はいよ~。蘭丸君も、頑張ってね~」


 マナに自分が作った、もやしのおひたしを渡してから、僕も大学に向かった。




 マナの家から30分ほど。徒歩とバスで大学に到着した。


『うちのサークルに入りませんか~?』

『経験者歓迎、みんなでワイワイとテニスしようっ!!』


 面倒な事に、校門から玄関まで、先輩たちがサークルの勧誘をしていた。僕はサークルに入るつもりはない。バスケットボールのサークルもあるようだが、僕は入らない。


「あら、あなた可愛くない?」


 先輩たちと目を合わせないよう、少し目線を下げて歩いていたが、女の人に声をかけられた。


「おしゃれを研究する、コスメサークルってあるんだけど――」

「僕、男なんで」


 おしゃれには、あまり興味がない。すぐに拒否する。


「貴方からは、ヒロインになれる雰囲気が醸し出しているわっ!! という事で、演劇サークルに入りましょうっ!!」

「結構です」


 演劇、料理研究、たこ焼き研究サークルなど、先輩たちの勧誘が煩わしく思い始めると、一人で勧誘を頑張っている男の人の姿が目に入った。


「ゲーム内だけではなく、実際にサークル活動をしませんか? チーム、『サンゴ礁 放課後クラブ』、是非入ってくださーい」


 あの男の人は、マナが没頭しているスマホゲーム、ウオ娘をただひたすらにやるサークルを勧誘していた。マナがいたら、即行で入っていたであろうが、僕は興味はないので、スルーした。


「はぁ……。疲れた……」


 恐らく、帰る時になっても、先輩たちの勧誘はやっているだろう。講義室に来るまででも、かなり疲れたのに、また先輩たちの勧誘を断りながら、そしてそこからマナの面倒を見るとなると、僕の体力は持つだろうか。


「お疲れのようだね。君」


 講義が始まる前に、僕の隣にはきれいな女性が座って来た。マナとは違う、清楚系の女性も、体育学を学ぶようだ。


「その様子だと、しつこく先輩たちに勧誘されたようだね」

「……まあ、そうだけど」


 マウント取ろうとするこの女性。最近は、僕の方がマナや藤原に色々言うなど、上の立場になる事が多かったので、この女性の態度に、僕は少しムッとした。


「そして帰ったら、同棲する彼女のお世話。そりゃあ、暗い顔をするわけだ」


 この女性は、何故か、僕のプライベートな事を知っている。気味悪いので、僕は席を移動しようとしたが。


「気味悪がることはないさ。私は、五木いつき弥生やよい。君と一緒で。そして心も読める、ちょっと変わった男の子だよ」


 僕は、初めて僕以外の男の娘に出会った。そして変わり者の男の娘。僕は仲良くなれないと思い、すぐにでも席を移動しようとしたが、五木に腕を掴まれた。


「これも何かの縁。講義終わったら、ちょっと付き合ってくれるかい?」


 僕が頷くまで、五木は僕の腕を放さないだろう。五木の力は強く、段々と痛み出した。変に抵抗すれば、何を暴露されるか分からないので、僕は五木の提案を受け入れた。

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