第15話 僕とかつての仲間たち

 僕とマナの初デートの場所、マナのマンションに近い、ショッピングモールにやって来た。1階は食料品売り場がメインで、2、3階は服や雑貨など、色んな物が売っている。


「蘭丸君は、何か欲しい物とかあるんですか~?」


 マナへのプレゼントとは言えないので、その他に、最低限のお小遣いで、今の生活で必要な物を買うとしたら。


「……薬局?」


 まだ肌寒い日もあるし、マナがうっかり風邪を引く可能性もあると思っていたら、いざという時の風邪薬が、頭の中に出てきた。


「誠実だね~」


 マナはケラケラと笑いながら、薬局があったであろう場所に向けて歩き、そしてすぐに薬局に到着した。


「……うげっ。……結構するんだ」


 色んな種類の薬があったので、どこに風邪薬があるのか分からなかった。暫く歩き回り、やっと見つけた小さな箱に入った風邪薬でも、余裕に1000円を超えている。高くても800円ほどだと思っていたので、いきなり予算オーバー、僕のお小遣いが底を尽きてしまう。


「これで良いんじゃない?」


 マナは、小さな箱の風邪薬を手に取った。


「いや、万が一の時に備えて、もうひと回り、大きい方が良いんじゃないのか?」

「心配しなーい。この大きさで十分。私、体は丈夫な方だから、頻繁に風邪なんか引かないから」


 心配性な僕がおかしいのか、マナはケラケラと笑った。


「本音は?」

「お金ないから、ケチりたいのもある」


 本音の方が、マナらしい考え方だ。そんなマナを見た僕は、つい頬が緩んで、笑いそうになった。


「ここは私が出しますから、蘭丸君は待っていてくださいね~」


 そしてマナは会計に向かった。すぐに会計は終わると思って、僕は先に薬局の外に出ようとした時、目の前の光景を見て、足が止まった。


 そこには、かつての仲間、僕以外の同学年のバスケ部のメンバーが、楽しそうに会話しながら遊んでいる姿。


 僕と同じで、みんな大学に行くのか、殆どの奴は、短かった髪は、すっかり伸びて、そして金や茶に染めていた。


「小関君、大仲君、北島君、和田君、そしてキャプテンの中尾君だ~」


 会計を終えたマナは、僕の背後から、スラスラとバスケ部の仲間の名前を当てていた。


「仲間外れにされて、悔しいんですかー?」

「別に」


 僕から一方的に、バスケ部から退部すると言ったので、少し揉めたのもあり、気まずくなっているのもある。


「もし、あのままバスケ部に入っていても、僕はあの中に混じっているだろうかって、思った」

「ほうほう。それで結果は~?」

「混じってないかな」


 メンバーの事が嫌いじゃなかったが、あのメンバーの中で楽しそうに会話することは出来ていないだろう。

 僕は、声帯模写で試合を制して、色んな人からチヤホヤされていたが、それを良く思っていなかった噂を、僕は耳にした事もある。それに引け目を感じて、引退したら、自然と関係は終わっていただろう。


「ならいいじゃないですか~。そこまでの関係だったって事で、無理に挨拶する必要性も無いですよ~」

「最初からそのつもり」


 あいつらで、これからも仲良くしていく事だろう。この事は忘れ、マナに次の目的地を聞くことにした。


「それで、次は?」

「目的の物も手に入れちゃいましたからね~。もう蘭丸君の好きな場所でいいですよ~」


 いつの間に、マナの目的は達成したのだろうか。


「……なら、見たい本があるから、書店でもいい?」

「どうぞ~」


 目的の物を手に入れたようで、マナは物凄くご機嫌で、僕の横で書店を目指していた。




 そして書店に到着。


「……あった」


 僕は雑誌でもない、漫画のコーナーでもない、専門書が多く置いてある、ひっそりとした場所にやって来た。

 僕が探していたのは、自動車免許を習得するための、学科試験の問題集。今はお金やこれから大学生活になる事で、自動車学校に行けていないが、3年生になるまでには、免許を取りたいと思っている。今のうちから予習しておこうと思って、僕は問題集を買おうと思っていた。良い感じの問題集があったので、それを持って、マナと合流しようとしたら。


「ああ~っ!! 次のイベント、カジキマグロちゃんの新規来る~っ!!」


 ゲーム雑誌を開いて、マナが発狂していた。周りの人が、マナのおかしな行動を白い目で見ているので、僕も他人のふりをして会計に行こうとしたら。


「おやおやっ!! これは、桜木君じゃありませんかっ!!」


 そして、スーパーの店員になって落ち込んでいる、僕のクラスの学級委員長、藤原純恋が、転職のノウハウなど、分厚い本を持って、僕に話しかけてきた。


「……何?」

「そんな嫌そうな顔をしないでくださいっ!! 元同級生として、これからも交流を取りましょうっ!!」


 藤原も、小金井さんみたいに声が大きい。なので、僕たちは他の客に冷ややかな目で見られている。


「僕が言えるのは、転職頑張れだけ。以上」

「桜木君って、そんなにドライな態度を取る人でしたかっ! けど、これも桜木君の新たな一面を知れて、今日は来た甲斐がありましたっ!」


 藤原は、僕がこうやってであったことを、ポジティブに捉える。近所のスーパーに行って、毎回こんな感じで、藤原にウザ絡みされるなら、僕は別の場所に買い出しに行く事を考えないといけない。


「そんな桜木君に朗報ですっ! あたし、あのスーパーを辞めますっ!」


 よかった、僕はこれからも近所のスーパーに行くことが出来るようだ。


「それで、あたしは無職になりましたっ!!」


 さすが学級委員長と言うべきか、決断と行動は早いようだ。


「なら、次は自分の能力が生かせる職場に入れるように、頑張らないと」

「はいっ! なので、今からこの本で色々と学んで、絶対内定をもらえるように頑張りますっ!!」


 僕に言いたいことは言えたようで、藤原は僕に敬礼してから、先に会計に行ってしまった。また藤原に絡まれるのも厄介なので、しばらく時間を空けてから、会計に向かう事にしよう。


「あんなに真面目だった藤原さんが、もう会社を辞めたなんて、驚きですね」


 ゲーム雑誌を持って、マナは少しふくれっ面になって、僕の横に話しかけてきた。


「……嫉妬した?」

「別に」


 実は藤原も、マナと負けないぐらいの人気がある女子で、マナを応援する人、藤原を応援する人で、度々言い争っていた事もあった。


「ま、私も陰ながら応援してあげます。いい場所、見つかると良いですね」


 マナと藤原自身も対立していたのか、僕と藤原が話している光景を見て、マナはさっきとは裏腹に、少し機嫌を悪くしていた。

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