第14話 僕とマナの雨の日曜日


「……もう……朝か」


 昨日の疲れがまだ残っているのか、体を起こすのが億劫だ。スマホから鳴るアラーム音に、少し苛立ちながらも、僕は体を起こして、ボーっとする。


「……すぅ」


 そして傍から聞こえる、マナの寝息。僕と同じで、昨日の親睦会が疲れたのだろう、スマホを手に持ちながら、寝落ちしてしまったようだ。


「……どこが優等生キャラなんだよ」


 どれぐらい寝ているのだろうか。高校時代の体操服だけで寝ていて、毛布や布団をかけていない。まだ冷え込む日があるので、このままでは風邪を引いてしまうので、僕はマナ専用の毛布を掛けてから、外の空気を吸うために、一度部屋を出た。


「……雨」


 しとしとと、昨日までの天気が嘘のように、今日の天気は暗い雲に覆われて、時折雨足が強くなる、少し荒れた天気だった。これだけ雨降っていたら、日課の近所のランニングが出来ないので、僕は部屋に戻った。


「……そろそろ、僕も準備しないと」


 ここで二度寝をしたら、昼過ぎまで起きない自信があり、寝坊したらマナに笑われそうなので、僕はそのまま起きる事にして、これから学ぶであろう、大学の講義の予習をすることにした。


「……おはよう」


 大学の講義の予習を2時間。そしてストレッチとかヨガなどして暇を潰し。そして昼過ぎになって、マナは神に寝癖を作って、ようやく起きた。


「……ここは?」

「自分が借りているマンションの部屋。もう忘れた?」


 寝ぼけているのか、マナは、この状況が飲み込めていないようだ。すっかり明るくなった部屋、そして恋人関係になった、僕がヨガをしている状況に、マナは混乱しているようだ。


「……いや、さっきまで推しが添い寝していたのに、いつの間にか、いなくなっているんで」

「マナさんが、平常運転で、一安心」


 やはり、マナはいつもスマホゲームの推しの事を考えている。昨日の登山の最中も、辛そうな顔から急に元気そうな顔になるの繰り返し。多分、推しに応援されている事を妄想しながら、山登りを乗り越えたんだろう。


「もやしのおひたししかないけど、食べる?」

「いただきまーす」


 朝作っておいた、もやしのおひたし。遅めの昼食を、美味しそうに食べたマナは、僕が予想外なことを提案してきた。


「蘭丸君、お出かけしようかー」


 ズボラ状態のマナが、そんな事を言うはずないので、僕は一度頬をつねった。夢ではないようなので、マナの話を聞いた。


「どういう心境?」

「そう言う気分」

「雨降ってるのに?」

「そう」


 朝からずっと雨が降り続いている。晴れていているから、お出かけしたいなら分かるけど。


「傘、一本しかないけど」


 僕が、マナと同棲し始めてから今日まで、曇りの日はあったが、雨は降る事は無かったので、家から傘を持ってきていない。今は、マナが持っている傘しか置いてない。


「相合傘でいいじゃん」


 ミスコン優勝レベルの美少女との相合傘。外に出るのだから、きっと優等生キャラの状態で出かけるはずなので、僕は無駄に意識してしまうかもしれない。


「蘭丸君の準備が良いなら、早速行きますか~」


 マナは、ブルーライトカットのメガネをかけ、普段着の体操服のまま、薄いコートを羽織って、玄関に出ようとした。


「そっちこそ、出かける準備は?」

「うーんと……着替えるの面倒だから、このままで行くぞ~」


 まさか、マナがズボラ状態で外を出る日が来るとは。僕は驚いてしまい、暫く動けなかった。




 日曜日、そして雨が降っているせいか、大きな道に出ても人は少ない。


「それで、どこに行くのか決めているのか?」


 出かける以外、僕は何も話を聞いていない。マナの気まぐれで歩くだけだろうか。


「初デートの場所、行こうよ」


 マナと初めてデートした場所。それは、マナの家の近くのショッピングモールだった。


「いいけど」

「決まりだね~」


 真横にいるマナは、ケラケラと笑う。

 僕と出かけることが、そんなに嬉しいのだろうか。本当なら、一日中、推しの育成に勤しみたいはずなのに。


「覚えてる? もう1ヶ月だよ」

「……そうなるね」


 勿論、マナに言われなくても、覚えていた。丁度1ヶ月前に、伝説の桜の木の下で、僕はマナに告白された。


「どうですか~? こんな私ですけど~」


 ミスコン優勝レベルの絶世の美少女が、僕の彼女になった時は嬉しかった。けど実際に暮らしてみると、マナはスマホゲームにのめり込んで、家事をしない、すべて僕に任せっきりのズボラ女子だった。


「毎日が楽しい」


 けど、マナと過ごしている日々は、高校時代より楽しい。バスケ部を辞めてから、毎日がつまらない日々、いや、声帯模写で試合を制している時から、1秒の時間ですら長く感じで、生きている事がつまらなかった。


「私もですよ、蘭丸君」


 再びマナは、ケラケラと笑う。


「こう言った関係を望んでいるんでしょ」

「そーそー。ほら、もう着いた。楽しい時間はあっという間ー」


 互いに肩を濡らし、雨の中を歩いて、ショッピングモールに来たけど、マナはとてもご機嫌だ。

 マナのケラケラと笑う顔、マナも楽しいと言ってくれるから、僕も極貧で、過酷な状況でも、何とか暮らしていけている。


 僕のお小遣いも残りわずかだけど、1ヵ月記念として、何かプレゼントでもしようかなと、マナの笑うかを見て、僕はそう決めた。

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