第183話 魔の結晶の行方

 ──ない。

 

の結晶』がない!


 ジルドの胸にはまっていたはずなのに。


「ただの魔道具が、どこかへ行くなんてこと……」


 部屋を見渡すが、どこにも赤黒い宝石は落ちていない。


 ジルドが咄嗟に隠したのか?


 いや、それなら目つぶしの光魔法を使ったときに、ジルドもいっしょに逃げるはず。


 ジルドは倒れたままだ。


 まるで、力の抜けた人形のように。


 じゃあ、『の結晶』はどこに?


 まさか、魔道具自身が動いて……


「おい、ジルド。

 あの魔道具はなんだ!」


「……」


 くっ、強めに肩を揺さぶっても目覚めない……!


 おそらく魔力切れだ。


 俺やサタナと戦う前から、地上の教会まで届くほどの炎魔法も使っていたからな。


「とにかく、『魔の結晶』を探さないと……」


 大人数で、手分けしてやってもらうしかない。


 それと並行してジルドを回復させ、事情を聞く。


「……そういえば、戦っているときに頭に響いてきた声は、聞こえなくなっているな……」


 もしも戦闘中に俺の頭に語り掛けてきたのが、本当に魔王だった場合、面倒なことになる。


『ヴレイヴワールド』では、復活した魔王を倒すのは、元『魔王軍』の四天王ピエスだった。


 ピエスは魔王の力を取り込み、『ヴレイヴワールド』のラスボス『新魔王』となる。


 だけど、そのピエスは俺が倒してしまった。


 それでも、魔王を復活させない方法はあるし、問題ないと思っていたのだけど……


『魔王』の復活だ!


 教会前で捕まえた魔族の言葉が、妙に耳の奥にこびりついた。

 

 


 俺は縄で縛ったジルドを抱え、地下通路を風の魔法でかっ飛ばして教会から外に出た。


 壊れそうな教会から少し離れたところでは、サタナの他、治療中のディモステニスたちの姿があった。


 それに加えて、


「あ、ミツキが戻ってきたよ!」


 マイアが気づき、そのそばにいたルナとリーゼがこちらに振り返ると、3人そろって近寄ってきた。


「心配しましたよ!

 起きたら姿が見えないし、ここに着いたら燃えている教会の中へ入っていったと言われるし!」


「せめて何をするか、書置きくらいしていきなさいよ!

 それか、使用人に言伝を頼むこと。

 あのチビ竜、何も言わないし」


 あー、それは俺がアイーダに口止めしたからだな。


 アイーダは約束を守ってくれたらしい。


 それならどうやって3人はここへ来たんだ?


 俺はルナとリーゼの言葉に「悪かった」と返しつつ、「よくここがわかったな」と聞いてみた。


「わたくしが連れてきましたのよ」


 3人の後ろから、ジュディがあらわれた。


 さらにその背後には、おどおどした様子のウェーパルがいる。


 なるほど、ジュディからリーゼたちに伝わったらしい。


「いろいろと聞きたいことはありますが……

 まずは報告をなさってきては?」


 ジュディの目は、俺の肩の上にいる、縄で縛られたジルドを向いていた。


「そうだな。

 ちょっと手を借りたいことがあるから、すぐに戻る」


 俺はジュディたちにそう言って、サタナの元へと向かう。


 サタナは驚きと労いの半々くらいの顔で俺を迎えてくれた。


「カレシ君、勝ったんだね!」


「おかげさまでな。

 サタナが、魔法をたくさん使わせてくれたおかげだ」


 答えつつ、ジルドを肩から下ろした。


「回復魔法をかけてやってくれ。

 聞きたいことがある」


「だねー。

 じゃあ、回復の魔法使いにお願いするよー。

 カレシ君は?」


「ちょっとさっきの部屋でやることがある。

 リーゼたちを借りていく」


「はいはいー。

 ディモスにはわたしから説明しておくねー。

 でも、女の子にあんまり大変なことさせちゃダメだよー」


 物探しだから大変ではない……はず。


 俺はジルドをサタナに任せて、リーゼたちのところへ戻った。


「みんな、ついてきてくれ。

 ワケは走りながら話す」


 ルナ、リーゼ、マイア、それにジュディとウェーパルを誘って、教会から地下通路へと戻る。


 俺も含めて6人。


 くまなく探せば『魔の結晶』を見つけることができるだろう。


 移動中にここで起きたことを少女たちに話しながら、俺はそう思っていた。


 だけど、その考えは甘かった。


 俺たち6人は、戦闘があった部屋をくまなく探した。


 しかし、日が落ちるまで徹底的に探しても『魔の結晶』は部屋のどこにもなかったのである。

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