第182話 VSジルド・メルクーリ?
予想外の攻撃をされたせいか、ジルドは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
その頭には、魔王のツノが生えたままだ。
今のジルドは、本人なのか、それとも魔王なのか。
「カレシ君……」
重力魔法を受けて倒れていたサタナが、ゆっくりと立ち上がる。
このままいっしょに戦ってくれるとありがたいが、優先させるべきはディモステニスたちの安全だ。
「ここは俺がやる。
サタナは地上までケガ人を移動させてくれ」
「……わかったわ」
サタナは素直にうなずいてくれた。
先ほどの交戦で、重力魔法相手は不利だと思ったのだろう。
「そうはいかん。
ペルサキスとガブラスはここで消えてもらう。
『クラッシュ・グラビティ』!」
「『フロート・ウォール』!」
天井付近から襲い掛かるジルドの重力魔法に合わせて、俺はサタナやディモステニスを守るように、物を浮かせる魔法を発動させる。
結果──何も起きなかった。
重力と浮力が相殺して、サタナたちにかかる魔法が効果をなくしているのだ。
「なんだとっ!?
魔法が発動していないのか……!?」
サタナたちが床に這いつくばると思っていたのか、ジルドは目を剥いて、何度も魔法を発動させていた。
そのたびに俺も『フロート・ウォール』を展開する。
『フロート・ウォール』は、本来、水の上を移動するために使う、水の魔法のレベル4だ。
しかし、使い方を変えれば、ある程度のレベルまでの重力魔法を無効化できる。
「サタナ、今のうちに」
「ごめんっ。
ありがとう」
サタナはディモステニスたちを風の魔法で浮かせて部屋を出ていった。
「ぐぅ……おのれ!
ならば、貴様が我が魔法を受けてみよ!
『クラッシュ──』」
「──『
移動用の練術で一気にジルドとの間にあった距離を詰める。
「くっ……『グラビ……』」
「遅い!
『
剣先がギリギリ届く距離まで接近し、風をまとわせた剣を前方へと突き出して、突進型の練術を発動させる。
剣先がジルドの胸に食い込んだ。
「ぐおおおおお……!?」
風の力でジルドの服が吹き飛ぶ。
剣先が当たる胸の中央、そこにドロドロの血液が固まったかのような赤黒い石が現れた。
『
魔王を復活させるための魔道具のひとつだ。
魔石を超える量の魔力を秘めており、解放されれば大陸が吹き飛ぶ。
これがジルドに力を与えている。
「お、おのれ!!」
ジルドが腕を伸ばしてくる。
その腕が俺の届く前に、俺は剣を突き出した!
「うおおおおおおおっ!!」
「ガアアアアアアアアアア……」
錬術の威力と剣心にまとった風の力で、ジルドが壁まで吹き飛んでいった。
「ガッ……──」
ジルドは壁に背中を強く打ちつけ、崩れ落ちる。
『魔の結晶』は、まだジルドの胸に残っていた。
『ヴレイヴワールド』でのジルドは、この結晶を創り出すため、魔族と取り引きをする。
そして、結晶の力を得てパワーアップし、イズンの街を手に入れようと動き出す──というのが、ゲームで想定されているストーリーだ。
結晶の力を取り込んでジルドは、中ボスレベルの強さになる。
だけど、それだけだ。
魔王のツノが生えたりもしないし、、魔法を使えたりもしない。
この世界の『魔の結晶』には、俺の知らない力が付与されている。
どんな効果があるかは、取り出して中身を調べてみるしかないだろう。
回収を──
「【フハハハハハハ!!】」
「!?」
何だ、この声は!?
いきなり、頭の中に響いて……
「【こちらだ。
声と共にジルドが立ち上がった。
おかしい。
すぐには再起できないくらい、ダメージ与えたつもりだったんだけど……
まだ戦えたのか?
いや、何か引っかかる……
そもそも、さっきの声は、ジルドのものではなかったような……
「【気づかぬか?
それも仕方あるまい。
今の余はあまりにも脆弱だからな】」
このしゃべり方は……
「魔王!?」
間違いない、このキャラクターボイスは、会社のPCで何度も聞いた魔王のものだ。
「【やっと気づいたか。
しかし、残念だがお別れだ。
余が完全なる復活をしたときにまた会おう!】」
次の瞬間、ジルドの腕が動いた。
「『ブレイク・フラッシュ』!!」
視界を奪うまばゆい光が、ジルドから放たれる。
光魔法!?
レベル5のこの魔法は、相手の視界を奪うことに特化したもので、ダメージがほとんどない代わりに、相手を『目くらまし』の状態にさせる。
咄嗟に腕でカバーしたが、遅かった。
「くっ……目が……」
目を閉じてゆっくり開けてみるが、『目くらまし』状態で10秒ほどは視界が真っ白で何も見えなかった。
たった10秒。
目が回復したとき、ジルドは気を失ったまま、その場に倒れていた。
しかし、ジルドの胸にあったはずの『魔の結晶』が、消えてしまっていた……
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