第181話 知らない変身

 ジルド・メルクーリは、前に会ったときよりも、数十歳は若い姿になっていた。


 そればかりではなく、頭にツノまで生やしている。


 ジルドは人間だ。


 本来はツノなんて生えていない。


「ジルド、その姿はなんなの?」


 サタナが杖を向けて問いただす。


「ふむ、できればあまり見ないでくれると助かる。

 認めたくないが……実験の副産物でな、可能であればこのような無粋な姿になどなりたくなかった……

 しかし、これ以上の調整は、時間がかかりそうだったのでな。

 やむを得ずといったところだ」


 ジルドは答えながらツノを撫でていた。


「ある程度は察しがついているのだろう?

 でなければ、ディモステニスが会談を開こうなどとは言わんからな」


「ってことは、魔族とつながっているのは認めるんだねー?」


「それは、少し違うぞ」


 ジルドは右手をサタナへと向けた。


「私は利用しただけだ。

『グランド・ソイル』」


 部屋を覆いつくすほどの巨大な岩が出現し、サタナに向かって射出された。


「『アイシクル・ランサーズ』!!」


 サタナが魔法名を口にすると、人の体ほどもある大きさの氷柱が何十本と空中に浮かび上がり、向かってくる大岩に殺到した。


 ガギギギギギギという音ともに、岩が粉々になり、かけらが部屋中に飛び散る。


 共にレベル7の土と氷の魔法がぶつかり合い、どちらも粉々になった。


「最後の確認。

 イズン三貴族の他の二貴族に手を出したってことは、わかってるのかなー?」


「もちろんだ。

 だが、すでにイズン三貴族ではない。

 このメルクーリこそが、イズンを、いや世界を手にする家柄だ」


「あ、そう。

 それなら先に、頭の中を花畑を消す魔法を開発したらどうかなー?」


「ぬかせ!!」


 ジルドが再びサタナに魔法を放つ。


 サタナがそれに対して、相殺する魔法を放つ。


 込められた魔力的には、サタナの魔法の威力のほうが高いように思う。


 しかし、ジルドの魔法の練度は未知数だ。


 ジルドは魔族から手に入れた魔道具を改良し、自身の強化に使っている。


 ただ、その魔道具は、使用されても中ボスレベル。


 隠しボスであるサタナには、ステータスで勝てない。


 今は互角のように見えても、すぐに打ち負かされるだろう。


 だけど、引っかかる。


 あのツノだ。


 ジルドの魔道具は、肉体と魔力を強化するものだが、そのときにはツノが生えたりはしない。


 あくまで若返りと共に能力がアップするだけ。


『ヴレイヴワールド』にはなかった変身だ。


 しかもあのツノのデザイン、もしかして──


「フン、さすがに魔法戦では埒が明かんか。

 ならば……」


 ジルドが天井に向けて手をかざした。


「『ソイル・ランス』!」


 土がむき出しの天井に、ジルドが放った土の槍が突き刺さる。


「何をやってるのー?

 この天井は、そんな魔法じゃ壊れな……」


 ガガガガガガッ!!


 土の槍が食いこんだかと思うと、天井がゆっくりと落下を始めた!


「はっ!?

 なんで、天井が……『アイシクル──』」


「させん。

『クラッシュ・グラビティ』」


「──ぐぁっ!?」


 サタナが突然その場に倒れ込んだ。


 大の字で床に押しつけられている。


 重力の魔法だと!?


 ジルドが使えるはずない魔法だ!


「む、体が裂けるはずなのだが……効きが悪いな。

 さすがは『魔女』に近い女。

 だが、終わりだ」


 天井が崩落してくる。


 サタナは『打撃無効』と『斬撃無効』のスキルを持っている。


 しかし、どちらも相手が向かってくる存在がいて発動するスキルだ。


 落石などの自然物には対応していない。


「サタナ!」


 ディモステニスが叫ぶが、サタナは地面に大の字に張り付けられたまま、動けない。


 スキル『魔法障壁』は魔法の効果を防ぐ。


 それは重力の魔法にも効果はあるが、減衰は低く設定されている。


『ヴレイヴワールド』ではに優遇された魔法だからだ。


 その主な使用者は、後に魔王となるピエスと──200年前に討伐された魔王。


 俺は、『アイテム欄』から剣を取り出した。


「『刻月斬こくげつざん』!!」


 練術を発動させる。


 土属性の魔法を付与した斬撃。


 一閃のみだが、下段から上段へ振り上げる勢いが強いほど、破壊力にバフがかかる。


 俺は剣を振り抜き、天井からの落石と重力の魔法を同時に叩き斬った。


 落石は俺の頭上で真っ二つに割れ、サタナに当たることなく、床に落ちて砂埃を立てる。


「魔法を切り裂いただと!?

 なんだ、その剣は……」


「『縮地速影しゅくちそくえい』」


 目を見張るジルドに練術で急接近する。


「チッ!

『グランド・ソイル・ウォール』!!」


 ジルドの前に巨大な土の壁がせりあがってくる。


 だけど、この剣の前には無力だ。


 剣で薙ぎ払い、両断する。


 そのまま刃を返し、ジルドの頭部を狙った。


「ぐぉ……!」

『ウインド・ブラスト』」


 ジルドの放った魔法が、俺との間に突風を生み、体が吹き飛ばされた。


 同時に、剣先で切り裂いたツノが、俺と同じ方向に飛んできた。


 キャッチして、確かめる。


 太くねじれた黒いツノ。


 ……間違いない。


 これは魔王のツノだ。


 しかし、なぜこれがジルドに?


『ヴレイヴワールド』では、ジルドと魔王に関連性はない。


 ……そういえば、外で拘束した魔族は『魔王が復活する』と言っていたな。


 それが、関係しているのだろうか。


「貴様、何者だ!?

 ペルサキスの抱える剣士か!?」


 顔を真っ赤にして、俺に誰何を確認するのは、ジルドの外見そのもの。


 彼が魔王になったのか?


 わからないな。


 だが、これだけは言える。


 彼は、俺の知らない存在になった。


 ゲーム基準で言ってしまえば、バグだ。


「バグは調べて、ちゃんと直さないとな」


 俺は、ツノをズボンのポケットにしまって、剣を構え直した。


 ジルドと、念のため、魔王の行動パターンを思い出す。


 ここで捕えて、バグの原因を解明してみせる!


 


 

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