第180話 炎の出どころへ
教会の隠し階段を降りると、人が並んで通れるくらいの幅の通路が現れた。
『魔女』が作った地下通路だ。
天井も壁も床も土がむき出しになっている天然の道だけど、崩れることはない。
魔法による保護がかかっているためだ。
この魔法は通路の劣化や雨水の侵食などへの耐性の他、直接的なダメージを防ぐことができる。
火柱が上がるほどの炎にさらされたはずなのに、焦げているところはない。
『魔女』の想像を絶する魔力と魔法の構築技術のなせる技だろう。
この通路がイズンの地下全体に伸びている。
地上の馬車を持ち込んでも、1周するには、2日はかかるだろう。
普通に探していたら時間がかかって仕方ないけど、俺には会談に使われている部屋に心辺りはある。
急げば火柱を上げたやつにも会えるだろう。
「ふふーん……その顔、もしかしてディモスたちのいる部屋が、わかっちゃったのかなー?」
サタナが、俺の顔を覗き込むように見上げてきていた。
しかし、サタナの言葉、どこか引っかかるような……
「この地下通路、魔力が走っているんだよ?
そのせいで、探索魔法が使えないの。
さっきから何度もやっているのにね。
なのに、よく部屋の場所がわかったねー?」
あー……またやってしまった。
さっき、隠し階段を見つけるときも不審がられたっていうのに……
「像の話も含めてあとで話すよ。
急ごう」
「はいはーい」
はぐらかしたことには気づいただろうけど、サタナは何も言わずに俺の後ろについてきてくれた。
天井に埋め込まれた魔石が出る通路を照らす。
そのおかげで、地下通路は夕暮れ時の地上と同じくらいの明るさだった。
そのため、道に迷うこともなく、進むことができた。
そして、進めば進むほど焦げ臭さが強くなってきた。
間違いない。
三貴族会談が行われた部屋はこの先だ。
さらに走っていくと、巨大な扉が内側から焼き切られた部屋を発見した。
地上まで噴き出していた炎の魔法は、この部屋が出どころのようだ。
「カレシ君、気をつけていくよ」
トーンを幾分か落としたサタナの声に、俺はうなずく。
三貴族会談は、この部屋で行われていたはずだ。
にもかかわらず、炎魔法が噴き出すような事態になった。
せめて、修正不可能な展開になっていないことを願おう。
俺とサタナはそろって部屋へと乗り込んだ。
そこには……
光の魔法でバリアを展開しているディモステニスがいた。
「さ、サタナ……!」
ディモステニスが俺たちに気づくのと、サタナが魔法を使ったのは同時だった。
「『インフェルノ・フレア』!」
サタナの杖から紫色の炎が飛び出し、ディモステニスの対面にいた黒いローブを着た人影に覆いかぶさった。
『インフェスノ・フレア』は、レべル7の炎魔法。
威力が高いのに加えて、燃え移った対象の動きを鈍らせる効果と、水でもなかなか消えない炎による継続ダメージを与え続ける。
魔法への抵抗力が高くても、しばらくは動けないだろう。
「先にガブラスたちの傷の手当を……」
ガブラス?
ディモステニスに言われて、気づいた。
彼の背後には、気を失っている男たちが倒れている。
ひとりはジュディと同じ金髪の男──ガブラス家の当主のNPCだ。
それ以外の者は……汎用NPCの外見なので秘書や護衛のキャラクターだろう。
俺は『アイテム欄』からポーションを取り出し、気絶している男たちにかけた。
本当は飲んだほうが、体の内側から治っていいんだけど、傷は直接かけても塞がる。
「ディモステニス」
俺はポーションをディモステニスに放り投げる。
彼は体中に焦げたあとや、切り裂かれたような痕があった。
攻撃に対して咄嗟に魔法で対抗したんだろうけど、防ぎきれなかったんだろう。
「む……貴様に呼び捨てにされる覚えは……」
「そんなこといいから、状況を」
三貴族会談が襲撃されるイベントなんて『ヴレイヴワールド』にはなかった。
目の前で起こっているのは、明らかな異常事態だ。
「──この炎……今度は娘のほうではないようだな」
しわがれた声が聞こえた瞬間、サタナの放った炎が掻き消え、黒いローブを着た人影が姿を現す。
しわの深い顔と黒いローブはそのまま、けれど折れ曲がっていたはずの腰はすっと伸びていた。
開発中に何度も見た外見が変わっている。
いや、変化を通り越して、異質さすらある。
それを強く感じるのは、以前見たときにはなかった、頭の左右に生えた鬼のようなツノだった。
「ちょうどよい、魔女に最も近い貴様を、魔法の実験に使わせてもらおう」
異形となったジルド・メルクーリは、口元に歪な形の笑みを浮かべていた。
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