第179話 教会の仕掛け
三者会談が行われている教会から火柱が上がった。
「炎魔法……!」
何者かが教会の中で魔法を?
でも、いったい何のために……
「まずいぞ、魔王が復活する!!」
魔族の男が叫んでいる。
しかし、そんなことはないはずだ。
魔王の復活には、魔道具と特殊な環境が必要なのだ。
魔道具だけあったとしても、復活はできない。
「はずなんだけどな……」
どうにもイヤな予感がする。
この異世界は『ヴレイヴワールド』のようで、『ヴレイヴワールド』ではない。
妙なところで、ボタンの掛け違いのようなズレがあるからな。
「確認しに行くしかないか……
リュウ、いるよな?」
「──はい、ここに」
忍装束を着たリュウが俺の目の前にやってくる。
近くに待機しておいてもらってよかった。
「捕まえた魔族たちを見ててくれ。
俺は、教会を確かめてくる」
「わたしもいくよー」
サタナが杖を掲げている。
旦那のディモステニスが教会にいるので、気になるのだろう。
ただ、その割には笑顔なんだよな。
実力は知っているからこそ、無事を信じているのかもしれない。
「『アクア・フォール』」
サタナが魔法名を唱えると、上空に巨大な水の塊が出現し、燃え盛る教会へと滝のように降り注いだ。
教会を燃え上がらせていた炎が一瞬でかき消える。
「それじゃ、突撃ぃー!」
滑空するように飛んでいくサタナに俺も続く。
教会の前では、警備にあたっていた魔法使いたちが、火傷の手当てをしていた。
具合は……見たところ、ひどい者はいないようだな。
「ケガのひどい人から、回復魔法を使ってねー。
それが終わったら、人払いをお願い。
わたしたちはちょっと見てくるから」
「は、はい……」
サタナの言葉に魔法使いのひとりが、状況に戸惑いながらも返事が来た。
教会の外は任せて大丈夫そうだ。
俺たちは教会の中へ……
って、鉄製の扉が熱でひん曲がっているな。
「邪魔。
『ガイア・ブレイク』」
サタナが杖の先に岩石を生み出して、そのままぶっ叩く。
扉が紙くずのように吹き飛んでいった。
……パワフルな奥さまだ。
滴ってくる水を気にしながら教会の中へと入る。
さっきまで燃えていたが、熱気はほとんど感じられない。
敷きつめられていたカーペットは、燃えて焦げたあとだらけになっていて、その上に並んでいたはずの木製の長イスは、炭のように丸焦げだった。
ざっと中を見渡してみるが、三貴族やその護衛の影はない。
となると……あそこか。
俺はずぶ濡れになった床を進み、奥にたたずむ『天使』の像に近づいた。
この天使は生前の『魔女』の外見を模して作られているもので、その手には杖を持っている。
その杖に触れ、呟く。
「『リリース』」
すると『天使』の像が動き、下に降りる階段が現れた。
この先は巨大な地下通路になっており、イズンの街の地下にクモの巣のように広がっている。
元々この地下通路は『魔女』が生前の隠れ家として作ったのが始まりだ。
しかし『魔女』が姿を消した今では、貴族たちに地下は開放され、いくつかの部屋は重要な会談などの場として用いられている。
炎の魔法はこの地下通路から吹き出してきたらしく、下に降りる階段も黒焦げになっていた。
地下通路の天井が崩れることないだろうけど、焦げ臭いのと煤が飛び散っているせいで、進むのはかなり大変そうだ。
とはいえ、先へ行かないことには始まらない。
行くか。
「カレシ君さー」
俺が階段を降りようとしたとき、隣にいたサタナが口を開いた。
「よく地下のこを知っていたね?
三貴族の当主と一部の関係者しかしらないのに。
ちなみにわたしも知りませんでしたー!」
おどけたように言ったサタナだったけど、俺を見ている目は笑っていなかった。
やばい、やりすぎたか。
ここでサタナに不信感を持たれると後々動きにくくなる。
どうにか誤魔化さないと……
「……ちょっと訳アリでね。
こういう仕掛けには詳しいんだ」
部分的にぼかして伝える。
サタナはじっと俺を見つめたままだった。
まずい。
ここで敵対するわけにはいかないのに……!
時間にして数秒。
しかし、何十倍にも時間の流れが長く感じる。
そのあと、
「ま、いっか。
でも、そういうところかな……
ふふふ、リーゼちゃんが惹かれるわけだねー」
サタナはいつものニヤっとした笑顔に戻った。
なんとか誤魔化せたみたいだ。
なぜそこでリーゼが出てくるのかはわからないけど……
「ますますカレシ君の話を聞いてみたくなったけど、先にこっちを解決しよー」
そう言って勢いよく階段を降りていったサタナを俺は急いで追いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます