第177話 会談場所の近くで

 俺はウェーパルを連れて、イズンの中央にある区画へとやってきていた。


 近くの建物の陰に隠れて、ある場所を見張るためだ。


 それは、こじんまりとしたレンガ造りの教会だった。


「あ、あそこで三貴族様が、会談されているのですか……?」


 そう呟いたのは、ウェーパルだ。


 俺に連れてこられて、いろいろ諦めた顔に……もとい、決意をした顔になっている。


 そんなウェーパルの言う通り、国を代表する貴族の会談をおこなうにしては、かなり質素な教会だ。


 大きな十字架もなく、窓がステンドグラスになっているわけでもない。


 それでも、あの教会が、三貴族の顔を合わせる場になっているのには理由がある。


「あの教会は、200年前に勇者と共に魔王を倒した『魔女』が生まれた場所であり、眠っている場所でもある。

 あそこは、このイズンを築いた大英雄の霊廟なんだよ。

 だから、大きな会議をするときには、あの教会が使われる」


「そ、そうだったんですね……

 初めて知りました」


「『魔女』については隠されているものも多いからな。

 遺物が、魔法を強化するアイテムになったりもするし」


「な、なるほど……」


 ウェーパルの俺を見る目に、尊敬の色が混じったような気がした。


 心なしか、さっきまで俺に放たれていた拒絶オーラが薄まった気がする。


 このまま距離を縮めていきたいものだ。


 魔族を見つけるまで、2人で張り込みしないといけないしな。


「ウェーパル、近くに魔族がいるとかわかるか?」


「え?

 い、いえ……わたしには、そういった特殊な力は……」


 汎用魔族でも、特殊能力に目覚める者はいる設定だったけど、ウェーパルはまだのようだ。


「魔法は何が使える?」


「ほ、炎と水と、闇の魔法を少し……」


 ふむ、それなら簡単な戦闘をこなすくらいはできそうだな。


「俺が守るつもりだけど、いざってときは、ひとりで逃げてくれ」


「ひぇ……た、戦いになるんですか?

 本当に……?」


「せっかちなやつがいたらな」


 できれば、サクっとやられてくれるやつか、話のわかるやつが相手ならありがたいけど、200年も前にやられた魔王を復活させようなんて言っている連中が、そう簡単にどうにかなってくれるとは思えない。


 というか、ゲームではそういう設定にしたしな。


 できれば設定が変わっていると嬉しいけど、この世界はゲームの設定よりも、悪いほうに改変されていることが高いんだよな……


 まあ、戦う前から気負っていても仕方ない。


 ひとまず教会を見張っておく。


 現状、教会の門の前には警備と思われる魔法使いが2人ほど立っており、その5メートルほど上空では、4人の魔法使いが浮かんだ状態で、四方を警戒している。


 合計で6人、明らかに人数が少ない。


 俺の見えないところでも警戒している者がいるんだろう。


 透明化の魔法を使える者もいるはずだしな。


 ひとまずは、会談の警備に怪しまれないように監視を続けよう。


 魔族の話をしている場所に、魔族を連れてきているわけだからな。


 さっさとこの街で暗躍している魔族だけ倒して帰らないと、勘違いされかねない──


「──あはっ☆

 カレシ君、見-つけた」


「…………っ!!」


 なんで、ここに!?


 振り返ると俺の予想通りの人物が空に浮いていた。


 サタナ・ペルサキス。


 リーゼの母親で、現時点ではこの街で最強の魔法使い。


 今頃はペルサキスの屋敷にいると思っていたけど。


 三貴族会談についてきたのか?


「ひどいなー。

 リーゼちゃんというものがありながら、また別の女の子に手を出して……

 んー?

 あれあれ?

 その子って、もしかして魔族の子かな?」


 わざとらしい。


 竜神すら見抜ける目があるのに、ウェーパルが魔族だとわからないわけがない。


「わー、これはびっくり。

 まさか、話題の魔族がこんなところに。

 ねぇねぇ──」


 サタナの姿が掻き消えた。


 そしてその次の瞬間には、ウェーパルの肩を掴んでいる。


 転移魔法だ。


「わたしと少しお話ししようか。

 ときと場合によっては、ちょーっと痛いことになるかもしれないけど」


 威圧感たっぷりの笑顔で、サタナはそう提案してきたのだった。



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