第176話 メイドさん借りていきます

 従業員用の館に向かった俺は、ウェーパルを探した。


 彼女はすぐに見つかった。


 アイーダの食事の世話をしていた。


「はむはむ……このお肉がうまいのだ。

 もっと持ってくるのだ!」


「は、はい」


 タワーのように食べ終えた皿を積んでいるアイーダに、ガブラス家のメイドであるウェーパルがどんどん料理を運んでいる。


 同じ従業員のはずなんだけどな……


 まあ、アイーダは別格だけどさ。


 それはともかく、要件を済ませよう。


「ウェーパル、ちょっといいか?」


「え、あ、はい……」


 料理を運び終えたウェーパルに声をかけると、彼女は俺のところまでやってきてくれた。


「え、えっと……なんでしょうか?」


 おどおどした様子で俺を見上げている。


 魔族なら設定上は普通の人間よりも強いはずだけど……俺の魔力を感知して、怯えていたりするのだろうか。


 それとも、近くに強いやつばかりだと萎縮してしまうのだろうか。


 今からそんな連中だらけのところに飛び込むわけだけど。


「三貴族会談に行く。

 そこに魔族も来るはずだから、魔王復活派がいるかどうか教えくれ」


「え……──」


「ちょっと失礼」


 俺はウェーパルの答えを待たずに彼女の腰に腕を回して、抱え上げた。


「え……えぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 いきなりのことでびっくりしたらしく、ウェーパルを絶叫しながら、大量の汗をかいていた。


「建物の陰から見てもらうだけだから」


 そうなだめてみるけど、ウェーパルは目を泳がせていた。


 会談に着くまでになんとか落ち着いてほしいものだ。


「どこか行くのか?」


 アイーダが肉を頬張りながら尋ねてきた。


「ちょっと会談に殴り込んでくる。

 悪いけど、警備員の続きを頼む。

 あと、ルナたちには内緒な」


 ルナたちなら戦力的には問題はないだろうけど、魔族をこっそりとやっつけるには、俺とウェーパルだけのほうがやりやすいからな。


「むー!

 そっちのほうが面白そうなのだ。

 我も行きたいのだ!」


 ちなみに、こんなことを言っているアイーダは絶対に連れていけない。


 戦わせたら、こっそり魔族を始末するどころか、ごっそり街ごと破壊してしまうだろう。


「あとで言うことを聞いてやるから」


「むぅ……仕方ないのだ。

 それなら、許してやるのだ」


 警備で奢ることに加えて、またアイーダの言うことを聞くことになったけど仕方ない。


 三貴族会談は、『ヴレイヴワールド』にはなかったイベントだけど、ここで間違いなく、物語が動く。


「それじゃあ、行ってくる」


「え、ホントに?

 ホントに行くんですか!?

 わたし、戦うのはあまり得意じゃなくて……本当に怖いんですよぉぉぉぉ!!」


 ジタバタともがき始めたウェーパルを抱えて、俺はガブラス家を出発した。

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