第171話 見つけたのは

 ルナとウェルンを抱えて、風の魔法を発動させる。

 竜の姿になったアイーダのところまで、風の魔法で一飛び──と行きたいところだったけど、途中で見えない壁にぶつかった。


 ガブラス家の結界だ。


 そういえば、ゲームでも敷地を覆うように張られていたな……


「ミツキ、どうしますか?」


 俺の体にしがみついているルナが尋ねてくる。


「うーん……今から門に向かったところで、リーゼがいないと通してくれないだろうしな……」


 もしも門のところで足止めされたら、救援も遅れてしまう。


「仕方ない。

 壊そう」


 俺は結界に右手を押し当てた。


「『グレイン・ビッグバン』!」


 手のひらから爆発が起き、結界がガラスの砕けたような音と共に崩れ落ちた。


 その直後、


「「ガァァァァァァッ!」」


 石がこすれて出るような唸り声が地上から聞こえてきた。


「ミツキ、門番よ!」


 ルナが指差した先では、門のところにいたガーゴイルが俺たちのほうに向かってくるところだった。


 結界を壊した俺を、侵入者として認識したようだな。


「こっちもか。

 あとで謝らないとな。

『ストーン・バレット』!」


 圧縮した石弾せきだんを指先から4発、発射する。


 石弾は狙い通り、2体のガーゴイルの左右の翼に命中し、吹き飛ばした。


「「ガァァァァァァァァァァァァァ──…………」」


 翼をもがれたガーゴイルは地上まで落下していった。


 これで追っては来れないだろう。


 俺は再び風の魔法を発動させて、アイーダたちの元に急いだ。



 

 アイーダのいる場所にはすぐにたどり着いた。


 竜の姿のアイーダは、目の前の庭園を見下ろしており、そこにはリーゼとマイアとジュディ、そしてその3人と向かい合う形で、角の生えたメイド服の少女がいるのが見えた。


 角のメイドがおそらく魔族だろう。


 膠着状態なのか、どちらにも動きがない。


 俺は風の魔法を調整して、リーゼの横に着地した。


「すまん。

 ちょっと遅れた」


「えぇっ!?

 な、なんなんですの!?」


 ジュディがこっちを見て叫んでいた。


 俺たちが来ることを、聞かされていなかったらしい。


「びっくりさせて悪かったな。

 事情はあとで話すから……

 今の状況を教えてくれ」


 俺がメイド服の魔族に視線を向ける。


 すると、


「ひわっ!?」


 メイド服の魔族は一気に涙目になった。


 んん?


 ずいぶんと弱気な魔族だな。


 体格は、中学生くらいで、白髪と褐色の肌に青い瞳と、どことなくアラビアン系の顔立ちをしている。


 このモデリングは、『ヴレイヴワールド』では『汎用魔族』のうちの一体だ。


 だけど、この魔族はイズンでのイベントには配置されていなかったはず。


 そもそもメイド服だって、着せていない。


 ゲームではない、この異世界ならではの変更点なんだろう。


「ひぃ……」


 俺が視線を向けている間も、どこか怯えたように顔を引きつらせていた。


「えーっと」とリーゼが少し言いづらそうに口を開いた。


「あたしも何が何だかわからないのよ」


「……どういうことだ?」


「聞いてみればわかるわ。

 ミツキなら、何か気づくかもしれないし……」

 というわけで、アンタ、さっきのことをもう1回言ってくれる?」


 リーゼが声をかけたのは、俺たちではなく、メイド服の魔族だった。


 メイド服の魔族は顔をこわばらせたままだったけど、何か言わないとまずいと思ったらしく、ゆっくりと口を開いた。


「わ、わたしはみなさんにお願いがあってきました……」


 体を振るわせながら、しかし、はっきりと言った。


「この街にいる魔族を止めてください……

『魔王』は絶対に復活させてはいけません!!」


 


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