第168話 朝の報告

 気がついたら、朝を迎えていた。


 ソファーで寝ていたからか、体が少し痛い。


 リーゼは……まだベッドの上にいる。


 窓から差し込む日の光をから察するに、そろそろ朝食だから起こさなければ……


「ほら、朝だぞー」


 揺さぶってやると、「ううん……?」と悩ましい声とともに、リーゼの目蓋が開いた。


「おはよう」


「…………」


 軽く挨拶をしたら、リーゼが固まってしまった。


 ん?


 寝起きで俺だと気づいていないのか?


「おーい、リー──」


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 拳が飛んできた。


 左頬に一発。


 寝起きだから、反応が遅れて避けられなかった。


 さらに体勢が悪かったのか、踏ん張りがきかずに、俺はベッドの脇に倒れてしまった。


「あ……」


 気がついたリーゼがベッドの上から恐る恐る覗いてきた。


「ご、ごめんなさい……」


 ちゃんと謝ってえらい。


 だけど、今度からは殴る前にちゃんと顔を見てほしい。


 頬を触ってみる。


 少し痛みはあるけど、腫れている感じはない。


 すぐに治るだろう。


「いたい……?」


 リーゼは、なんだか不安そうに体を縮こませていた。


「このくらい、目覚ましみたいなもんだ」


 不安にさせないようにできるだけ優しく伝えると、リーゼの顔に笑みが戻った。


「何よ、それ。

 でも、それならよかったわ……」


 しかしそれも束の間、今度はその顔がみるみるうちに紅潮していった。


 どうしたんだろうか。


「えっと……昨日のことなんだけど……」


 ああ、昨晩のキス事件が思い出されて、恥ずかしくなってきたんだな。


「事情はわかったよ。

 サタナにそそのかされたんだよな?」


「え、ええ……まあ……」


「それなら、大丈夫だ。

 あのあと、サタナにはちゃんと言っておいたから」


「……え?」


「もう無理をする必要はない。

 だから、したくもないキスなんてしなくていいぞ」


「…………」


 おや、リーゼがまた固まってしまった。


 何かまずいこと言ったか?


 リーゼはサタナに言われて、無理して俺を狙ってきたはずなんだけど……


「…………そう……わかったわ……」


 なぜか消え去りそうなほど小さな声でリーゼは返事をした。


 それだけ恥ずかしかったのかな?


 まあ、リーゼも納得しているみたいだし、この話題はこれ以上やめておこう。


 それじゃあ、朝食を取りに行こうか。


 そう思っていると、コンコンと今度は窓がノックされた。


 咄嗟に身構える。


 魔族が狙って来たのかもしれないと思ったからだ。


 けど、窓の外にいたのは、見慣れた忍装束だった。


 窓を開けると、リュウは部屋に入ってきて俺の前で跪いた。


「魔族を見つけました」


 リュウの言葉に、リーゼの目に一瞬で生気が戻る。


「場所は?」


「それが……」


 リュウは言いよどむが、俺が先を促すと続けた。


「イズン三貴族のひとつ、ガブラス家の屋敷です」

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