第164話 思い出したこと
ディモステニスには、娘への盲目的なまでの愛を見せつけられた。
あそこまで、リーゼを溺愛していたとは……
だけど、肝心の魔族の情報は得られなかったな。
『ヴレイヴワールド』でのイズンのストーリーでは魔族の居場所はランダムで配置される上、こちらに気づかれたと感じると別のアジトを探すといった設定がついている。
この世界もおそらく、ゲームに近い動きをするはずだ。
しらみつぶしに当たっていくと、余計に時間がかかってしまう。
なので、やはりここはリュウに任せておくのが一番だろう。
『忍びの里』出身のリュウは、気配を消すのに役立つ『隠密』のスキルも持っている。
『隠密』は高度な『索敵』のスキルか魔法がない限り、接近に気づかれないというものだ。
待っていれば、魔族のアジトの情報を持って来てくれるに違いない。
その間に、俺たちもやるべきことをやっておこう。
とりあえずは、情報収集だな。
「サタナにも聞きにいくか?」
俺は廊下の先を歩ているリーゼに声をかけた。
「そうね、お母様にもアンタと……
いや、やっぱりいいわ。
あたしだけでいく」
「いいのか?」
「ええ。
あたしとアンタがいっしょに行ってみなさいよ。
絶対にからかってきて、真面目な話なんてできないわ」
まあ、サタナの性格だとそうなるだろうな。
俺たちを見て「孫の顔が見たい」なんてことも言いだすくらいだし。
とはいえ、俺たちが毅然とした態度でいれば、すぐに興味をなくして真面目な話だってしてくれる気もする。
俺はできる。
リーゼも、演技とはいえ「結婚します」なんて父親に言ったんだから、サタナにだってできそうなものだけど……
「……さっきのは、もうやらないわ」
俺の疑問が顔に出ていたのか、リーゼがぼそりと呟くような声でそう言った。
リーゼの耳は林檎のように赤くなっていた。
そうか……堂々として見えたけど、恥ずかしさを出さないように我慢していたらしい。
このまま、サタナのところへふたりでいったら、リーゼが恥ずかしさで倒れかねないな。
「じゃあ、そっちは任せた。
俺は他を手伝ってくるよ」
「そうして。
それと……」
「ん?」
「つ、付き合ってくれて、ありがと……」
リーゼは顔まで真っ赤にさせてそう言うと、早足に去っていってしまった。
ふむ、ようやくリーゼらしい反応を見られた気がする。
サタナからの情報はリーゼに任せて、ルナたちのいる部屋へと戻ることにした。
「ミツキさーん!
待ってったッス!!」
部屋に戻るとウェルンが、こちらに寄ってきて、両手を差し出してきた。
「なんだ、この手は?」
「ウチの鍛冶道具を出してほしいッス」
鍛冶道具?
「あれ?
部屋を出る前に渡さなかったっけ?」
「他にも必要なものがあったッス」
そういうことか。
俺は『アイテム欄』──腕の辺りに開いた黒い穴に手を突っ込んだ。
「そういえば、他のメンバーはどうした?」
「ルナさんは買い物に出かけたッス。
マイアさんは、あそこでアイーダさんといっしょに眠っているッス」
ウェルンが指差したほうを見てみれば、マイアがソファーに上半身を預ける形で目を閉じていた。
アイーダが起きるのを待っていて、寝ちゃったみたいだな。
「じゃあ、静かにしないとな……と」
俺は『アイテム欄』からウェルンの巨大なリュックを取り出した。
ウェルンがエルフの国から持ってきたリュックだけど、人が3人くらい入れそうなサイズのものをいつも持ち歩くのはどうかと思い、俺の『アイテム欄』の中に入れていた。
リュックの中にはウェルンの鍛冶道具一式も入っている。
今回はそこからの出し忘れがあったみたいだ。
「いやー、いつ見てもいいッスね、収納魔法。
ウチも覚えたいなー」
ウェルンがうらやましそうにしている。
だけど残念なことに『アイテム欄』は『ヴレイヴワールド』のプレイヤーである『ミツキ』専用のシステムだ。
特殊魔法と言ってもいい。
なので、ウェルンには教えたくても教えられない。
ウェルンの言う『収納魔法』なら、覚えられなくもないけど……かなり先の話になる。
「ありがとうッス。
よいしょっと」
ウェルンはでっかいリュックを俺から受け取ると、中身を確認しながら、鍛冶に必要なアイテムを出している。
なかなか大変そうだ。
武器の手入れをするにしても、道具が必要だからな。
しかもその道具は重たいときた。
そして、俺が持ち歩けば、今回のように作業に必要なものを忘れるなんてこともある。
どうにかしてやりたいものだな。
「あ、そういえば、イズンにはアレがあったか……」
魔法都市の魔道具。
その中には、鍛冶に関係するアイテムもある。
アレなら、ウェルンでも持ち運べるだろう。
「ウェルン、ちょっと買い物に行かないか?」
気がついたら、俺はウェルンに声をかけていた。
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