第160話 イズンでのストーリー

 夕食が終わると、ジュディとロウヒーは帰っていった。


 リーゼともう少し話していってもいい気はしたけど、ふたりともやることがあるらしい。


 俺たちも明日の予定を確認したあと、寝る準備して早めに就寝した。


 そして、翌日。


 俺たちはイズンの街を見て回るため、馬車に乗っていた。


 リーゼは「せっかく来たんだし、観光していきなさいよ」と言っていたけど、本当は街に異常がないのか確かめたいようだった。


 街を離れている間に、チャントマーみたいな商人が街に居着いていたので心配しているのだろう。


 俺としても、イズンでのストーリーの進捗を確認できるので、断る理由はない。


 ルナたちは、魔法都市を見られるので、嬉しそうにしていた。


 そんな俺たちを乗せた馬車が、ペルサキス家の正門を出ると、近づいてくる影が出てきた。


 忍装束の男──リュウだ。


「お待ちしていました」


 俺とマイアが馬車を降りると、片膝をついて頭を下げてきた。


 なんで、俺に対してそんなかしこまっているんだ?


 リュウには何もしていないはずなのに。


 まあ、今はそれよりも聞きたいことがある。


「もしかして、ずっとここにいたのか?」


「もちろんです」


 敷地内に入れなかったので、門のところで待っていたらしい。


 あれから2日経っているのに……


「問題ありません。

 食事などはとっておりましたので」


 休憩はしていたようだ。


 行き倒れていなくて本当によかった。


 せっかくだし、これからはいっしょに行動しようか……


 ……いや、


「リュウ、いきなりで悪いんだけど、調べてほしいことがある」


「なんでしょう?」


「この街に怪しい奴がいたら、俺に知らせてほしい」


「怪しい奴、と言いますと?」


「そうだな……」


 ゲームだと、全身黒ずくめの奴がこの街でのストーリーを進める上でカギになってくるんだけど、この世界だと魔法都市という土地柄だと魔法使いは黒めのローブを着ている者も多い。


 俺ならネームドキャラクターとモブキャラクターの違いはわかるけど、リュウには難しいだろう。


 それじゃあ……


「特別に魔力が強い奴はわかるか?」


「はい、しっかりと見れば。

 しかし……不躾ながら申し上げますと、この街には魔力が強い者が多いかと」


「そうだろうば。

 だから、もうひとつ別の特徴があるかも見てほしい。

 たとえば──角があるとか」


「角!?」


「翼や、シッポがある場合もあるだろう。

 もしくは目がたくさんあるとかな」


「それは……この街に、魔族が?」


「可能性の話だよ。

 見つけたら知らせてくれるだけでいい。

 絶対に戦わないように」


「御意」


 リュウは頭を下げると、俺の前から姿を消した。


 すぐ探してくれるようだ。


 本来ならリュウはこの街にいないキャラクターなので、ストーリーにどう影響するかわからないところもあるけど、情報が俺だけに集まるようにしておけば、問題は起きないはずだ。


「ミツキ、さっきの話は本当?

 魔族が街にいるかもって」


 ……まあ、マイアには思い切り聞かれてしまったわけだけど。


「まだそうと決まったわけじゃないよ。

 だから、みんなには伝えないでくれ。

 不安にさせてもいけないしな。

 特にリーゼは、この街に思い入れがあるだろうから」


「そういうことなら任せて。

 ボク、口は堅いから」


 マイアは、両手で自分の口を押さえていた。


 これなら大丈夫だろう。


「ありがとう。

 じゃあ、馬車に戻ろう。

 みんな待っているだろうからな」


 俺は荷台の扉を開けた。


 すると、リーゼが俺に飛び掛かってきた。


「この街に魔族がいるって本当なの!?」


「な……」


 なんで、リーゼがそのことを知っているんだ?


 荷台の窓は閉じていたし、扉も当然閉めていた。


 声は中まで聞こえていなかったはず。


 聴力を高める魔法はあるけど、リーゼは覚えていない。


 扉の外の会話を聞くなんて、かなり耳がいいキャラでもないと難しいのに。


 ……『耳がいいキャラ』?


 室内を見渡すと、眠たそうなアイーダの後ろで、大量の汗をかいているウェルンがいた。


「ち、違うッスよ!

 たまたま、話が聞こえてきただけッス!

 それで『魔族』って単語が聞こえてきたから驚いてしまって……」


 この地獄耳……いや、エルフだから『エルフ耳』か。


「鍛冶エルフに聞いたのよ。

 いきなり魔族がどうとか言い出したからね」


 なるほど、ウェルンが俺とリュウの会話に驚いて、リーゼが問い詰めた感じか。


「アンタ、また何か知っているのね?

 全部しゃべりなさい」


 リーゼはまっすぐと俺を見ていた。


 ルナの様子を確認したけど、「止められません……」と小さく首を振っていた。


 不安にさせないよう、黙っておくつもりだったんだけどな。


「わかったよ。

 先に言っておくけど、信じられなくても怒るなよ」


「ミツキの言うことなら信じるわよ」


 信頼度が下がらなかったのは、嬉しい限りだ。


 俺とマイアは馬車の中に入れてもらい、イスに腰掛けた。


 誰にも聞かれないように扉を閉める。


 馬車が街を一周するコースを走りだしたところで、俺は話し始めることにした。


「結論から言うと、イズンには魔族がいる可能性が高い。

 というのも、奴らの探し物が、イズンにあるからだ」


「物が狙いか……

 ってことは、魔法関係……あるいは『魔女』関係ね?」


 リーゼの言葉に俺はうなずいて返す。


「ここには『魔女』が生まれ育った地であり、魔力の高い三貴族がいる土地でもある。

 だから、質のいい魔力と、その魔力を使った魔道具が作りやすい環境なんだ」


「でも、魔道具が作りやすいって言っても、わざわざ街に入りこむ必要はあるの?

 もしも見つかれば、討伐されるのよ。

 ましてや、ここは魔法都市で、お母様のような実力者もいる。

 そんなところまで、わざわざ魔道具ひとつを見つけるために入ってくるとは思えないわ」


「それが来るんだよ。

 なぜなら、その魔道具は『魔王』を復活させるためのものだから」


「「「「……!?」」」」


 リーゼ、ルナ、マイア、ウェルンが息をのんだ。


「ま、魔王って、200年前に討伐されたんだよね?

 なのに復活って……そんなことできるの?」


「普通に考えたら無理ッスね。

 だけど、ウチらが知らないことを、知っている魔族がいてもおかしくないッス」


「ヘイムダル王国に現れた魔族……元魔王軍でも幹部なら、あるいは……」


「冗談じゃないわ!

 この街で好き勝手やらせるもんですか!」


 マイア、ウェルン、ルナ、リーゼとそれぞれに思うところがあるようだった。


「それで、ミツキ。

 魔族はどこにいるのよ?」


「いや、それはわからない」


「は?」


「まだ確証はないんだ」


 俺があくまで話したのは『ヴレイヴワールド』の『魔法都市イズンのストーリー』だ。


 魔王復活を掲げる魔族が、魔道具を求めてイズンまでやってくる──だけど、その話を裏付ける証拠は、この世界では見つかっていない。


 ヘイムダルで起きた事件を考えれば、イズンにも魔族が現われる可能性は高いけど、それも決まっているわけじゃないんだ。


「リュウに調査を頼んでいる。

 何か見つけたら教えてくれるよ」


「あたしたちにできることは?」


「今みたいに街を見回ることくらいだな」


「……むぅ」


 リーゼは口をへの字に曲げていた。


 街が危険にさらされているかもしれないのに、対処できる方法がなくて、歯がゆいのだろう。


「不安をあおる形になったけど、俺の言ったことが起きない可能性だってある。

 だから、そう気を張らずに待って──」



 ドォォォォォォォォォォォン!!!!!!!!



 すさまじい衝撃と共に、馬車が大きく揺れた。


「はっ!?

 な、何なのだっ!?」


 寝ぼけていたアイーダが目を覚ました。


 今の大地の揺れ?

 

 いや、魔法か!?


 そのとき、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


 扉を開けると、忍装束のリュウが緊急停止した馬車の傍に立っていた。


「ご無事ですか?」


 どうやら、俺たちを心配して駆けつけてくれたようだ。


「ああ。

 何があったかわかるか?」


「街中で爆発があったようです」


 リュウが見つめる先には、もくもくと上がる黒煙があった。


「あそこは……!

 すぐに馬車を出すわよ!!」

 

 リーゼが馬車を動かす魔道具に魔力を込める。


「リーゼ、どうしたの?」


 ルナの問いかけに、リーゼはソワソワした様子で答えた。


「あっちには、メルクールの家があるのよ!

 ロウヒーがいるかもしれないわ!」


 リーゼの焦りが伝わったかのように、停まっていた馬車は急発進して、メルクーリ家へと向かった。



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