第155話 VSサタナ後編
「『メテオ・フォール』」
サタナの号令に合わせて、周囲に浮かび上がっていた炎の球が、俺たちに向かって飛んできた。
1発1発がまるで大砲のような威力を誇る炎魔法だ。
炎の球を上空から降らせる『メテオ・フレア』よりも上位で、威力と範囲が底上げされている。
ちゃんと防がないと丸焦げ待ったなしだ。
「リーゼ!!」
俺は魔力を蓄えている彼女を近くに呼び寄せて、魔法を発動させた。
「『アクア・ウォール』!!」
頭上を覆うように半円状に水の壁を生み出すが──
じゅう……
炎の球に当たったところから水が蒸発している。
焼け石に水だな。
火力が違いすぎる。
魔法を出し惜しみしていたら、やられてしまう。
やるしかない!
「『アイシクル・フォートレス』!!」
身長を超えるほどの巨大な氷柱が俺とリーゼを囲むように次々と地面から生え、一瞬で空を覆いつくした。
向かってくるものを凍てつかせる極寒の要塞──レベル5に分類される氷の魔法だ。
『メテオ・フォール』と同程度の魔法だが、隠しボスであるサタナの魔力の前では、いつまでも防ぎきれないだろう。
ピシィッ──
くっ……氷の要塞にヒビが入り始めている。
とはいえ、これ以上の強度の防御魔法はまだ使えない。
どうしたものか……
「ねえ、いつまで待たせるの?」
リーゼがちょっとばかり目尻を逆立てて俺を見上げていた。
「いつまでって……俺が隙を作るまで待てって言っただろ?」
「その隙はいつできるの?」
「…………」
「お母様相手に、そんな簡単に隙ができるって考えたのが間違いだったわ。
いくらアンタでも厳しいんでしょ?」
図星だった。
魔法をうまく使えば、いくらサタナでも少しくらい隙も生まれるかと思っていた。
いや、ゲームだったらたぶんできたはずだ。
だけど、ここは現実。
サタナはゲームと行動パターンが違うし、隙なんて見せてくれなかった。
「ミツキ、これはあたしの戦いなの。
アンタはただの助っ人、わかる?
助っ人が、当事者よりも危険なことしないでよ」
リーゼは赤い瞳でまっすぐと俺を見ていた。
「あたしに構う必要はないわ。
お母様を出し抜く方法はあるんでしょ?
教えなさいよ」
……どうやら、リーゼは俺が思ったよりも、覚悟を決めてこの模擬戦に挑んでいたらしい。
そこまで言うなら、俺もチート級の戦術を取ることができる。
ただ、
「恨まないって約束してくれよ」
念のため、保険はかけておくことにした。
それから俺は、リーゼに戦術を伝えると、準備をしてから氷の要塞から外に出た。
要塞の外では炎の球で氷が解け、霜が舞っている。
サタナは……開始地点から動いていない。
あの場から動かずに、俺たちに負けを認めさせたいようだ。
侮ってくれているなら、ありがたい。
「あれあれ?
リーゼちゃんはまだ中にいるのに、カレシ君はかくれんぼをおしまいしたのかな?
……ん?」
おかしそうに笑っていたサタナが、俺が手に持っているものを見て、険しい表情に変わる。
「なるほどー。
その剣を使う気になったんだね」
「まあな。
チートにはチートで対抗しないと。
この剣は魔法も斬れるからな!」
俺は言い終わるとすぐに駆け出した。
炎の球は俺を狙っていたが、剣を向けると、豆腐のように簡単に切断することができた。
「もぉ、厄介だなー。
じゃあ、ちょっと痛いのやっちゃうよ。
『ストーム・ライトニング』!」
風と雷の複合魔法。
暴風で対象を切り刻みつつ、雷で感電させる魔法だ。
強度のレベルは6。
サタナの使う魔法の中では弱いほうだが、当たれば痛みで1週間は動けなくなるだろう。
いくら魔法を斬ることができるといっても、あの魔法は近づいた時点で風と雷に巻き込まれて一発アウトだ。
これ以上、近づくことはできない。
それなら、次の段階に移るまでだ。
「せーの!!」
俺はその場で大きく振りかぶるとサタナ目掛けて、剣を力任せにぶん投げた!
手から離れた剣は、暴風と迅雷を切り裂き、一直線にサタナへと迫った。
「はぁっ!?
この装備……!
だけどね──」
サタナがその場で左手を動かす。
カーン!!!
と、甲高い音がなり、剣の軌道が変わった。
そのまま、剣はサタナをわずかに避けて通り過ぎ、すぐ後方の地面に突き刺さった。
「危なかった……
魔法が斬れちゃうのは厄介だね。
だけど、衝撃を当てちゃえばずらせるし」
今の魔法はサタナが使える不可視の衝撃波の魔法『インパクト・アーム』だ。
分類はレベル8。
見えない上に威力も非常に高く、魔法の抵抗力がなければ、人の身では形が維持できないほどだ。
俺に向けられなくてよかった。
「さぁ、攻撃は防いじゃったよ。
次はどうするの?」
楽しそうに催促するサタナに対して、新たな魔法の名前を叫ぶ。
「『エコー・ウインド』!」
次の魔法を発動させたとき、サタナが眉をひそめた。
「声を大きくする魔法?
いったい、何を──」
「リーゼ、今だ!!!」
魔法で大きくなった俺の声が、修練場全体に響き渡る。
サタナが身構えた。
…………
「…………あれ?
氷の中からリーゼちゃん出てこないよ?
てっきり、あの杖で魔法を撃ってくると思ったのに……
連携失敗かな?
カレシとカノジョの関係なのに、キミたちのキズナもまだまだだねー」
いや、カレシカノジョじゃないって……
それに、
「そんな関係じゃなくても、しっかり届いているさ」
「ええ?
いったい何を言って──」
トンと、サタナの体がわずかに前へつんのめった。
「……!?」
サタナが慌てて振り返る。
そこにはリーゼが、『魔鏡の杖』をサタナの背中に押し当てて微笑んでいた。
『魔鏡の杖』は本当にチートな装備だ。
変化したものの力を完璧に発揮できる。
対象は人でも剣でも可能だ。
さすがのサタナも、俺の投げつけた剣が変身したリーゼだとは、気づけなかったみたいだな。
「『ヘル・デスパイア』!!!」
リーゼが自身の最大威力──レベル8の魔法の名前を口ずさむ。
『魔鏡の杖』から圧倒的な紅炎が迸り、サタナの小さな体を燃やしながら吹き飛ばした。
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