第154話 VSサタナ前編

 戦いの開始と共に、俺は後方に跳んだ。


 リーゼが後ろに下がったのを確認してから魔法を発動させる。


「『ストーム・バレット』!!」


 指先から風の弾丸を生み出し、サタナに射出する。


 同時に5発……と見せかけて、1発だけ遅れて発射する。


 合計6発。


 5発が迎撃されても、後ろから発射した1発をサタナまで届かせる算段だ。


 サタナは開始位置に立ったまま、唇だけわずかに動かした。


「──『ガイア・バレット』」


 螺旋に象られた岩の弾丸がサタナの魔力によって6つ生み出され、『ストーム・バレット』の向かって射出された。


 パンパンパンパンパン、パンッ!


『ストーム・バレット』は5発が叩き落とされ、時間差で放った1発も迎撃された。


 隠し玉もバレていたか。


 だけど、想定内だ。


 すぐさま、次の魔法を発動させる。


「『アクア・コフィン』」


 水の棺桶を作り出し、サタナを捕え──


「『フレア・ウォール』」


 サタナの周囲に炎の壁が出現する。


 水の棺桶は、炎の壁に触れた場所から蒸発し、白い水蒸気となってしまった。


 レベルの低い炎の魔法で、水の魔法を相殺……!


 魔法に込められた魔力が高ければ可能だが、こうも簡単にやられるなんて。


 先ほどの『ガイア・バレット』もそうだったが、俺の魔法を使わせて、同程度の魔法をわざとぶつけているようだ。


 たぶん、自身の優位性をアピールしているんだろう。


 なめられているな。


 実力差があるから仕方ない……が、自分の作ったキャラクターからそんなふうにされたら、意地でも想定を上回ってやりたくなる!


「『ウインド・コフィン』!」


 蒸発し続けている水の棺桶の周囲を、さらに風の棺桶で包み込む。


 囲む範囲が広いので魔力はその分使ってしまうが、やれないことはない。


「んー?

 何する気かなー?

 そんな優しい壁じゃあ蒸し風呂にもならないよ?」


 サタナはまだ俺の狙いに気づいていないようだ。


 俺は次の魔法を発動させた。


「『グレイン・ビッグバン』!」


 水が水蒸気に変わっていく場所に、レベル5の爆発魔法を放った。


 そして、


 ドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォオンッ!!!


 サタナを中心に巨大な炎の柱が立ち上がった。


 水蒸気爆発。


 水は高温の物質に当たると気化して爆発することがある。


 その水蒸気を風の魔法で逃がさないようにして、爆発魔法を放ったんだ。


 威力だけならレベル6、いや、レベル7の魔法と同じはず。


 元魔王軍の幹部ですら大ダメージを与える一撃だろう。


 生身の人間なら一たまりもない。


 いくらサタナでもかなりのダメージは入ったに違いない──


「──『ウインド・ブラスト』」


「……!」


 もくもくと煙を上げる炎の柱が風の魔法によって、一瞬で吹き飛ばされた。


「いやー、なかなか気持ちのいい蒸し風呂だったよ。

 今度はお風呂に入るときにやってもらおうかな」


 腕を組んだサタナが立っていた。


 外傷はなし。


 焦げているところもない。


 すべて防ぎ切られたみたいだ。


 まったく、このチートキャラは……!


「面白いものを見せてくれたし、今度はこっちからやっちゃおうかな」


 不敵に微笑むサタナの周囲に、炎の球がいくつも出現する。


「ミツキ、やっぱりあたしも……」


 リーゼが離れた場所から提案してくるが、俺は首を横に振った。


「ダメだ。

 手を出すな」


 まだリーゼを戦わせるときじゃない。


 リーゼの魔法は切り札だ。


 不意打ちの水蒸気爆発を完全に防がれたのは、ちょっと意外だったが、手は残っている。


「さぁ、いくよー!」


 次の瞬間、少女のような声と共に炎の球が、俺に目掛けて発射された。

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