第152話 久しぶりの家族団らん
サタナ・ペルサキス。
リーゼの母親で、その見た目は幼いリーゼそのもの。
もちろん見た目通りの年齢ではなく、体内の魔力の高まりで、若返ったという設定になっている。
そんな肉体に影響を及ぼすほどの膨大な魔力をもっているため、先ほどやって見せたとおり、魔法だけで竜神であるアイーダの打撃も防いでしまえるのだ。
『ヴレイヴワールド』では、チートキャラのひとりだな。
それほどまでに強いため、サタナはイベント戦闘以外で仲間になってくれることはない。
反対にそんな彼女と戦いたいなら、ゲームのストーリーをクリアする必要がある。
というのも、サタナは立ち位置的には、アイーダの父親である竜神の長や、エルフの国の地下にいたワズィーヤと同じ、ストーリークリア後の隠しボスポジションだからだ。
見た目に反して絶対的な力を持つおば──お母さんである。
そんなサタナの口添えもあって、俺もペルセウス家の屋敷に入れてもらえることになった。
ドデカイシャンデリアがぶら下がる玄関ホールでは、猫耳を生やしたメイドさんが通路の両脇に並び、頭を下げていた。
ルナやマイアは当然ながら、お姫様であるウェルンもその光景に驚いていた。
それからあてがわれた部屋へひとりずつ……
あ、ちょっと待って。
アイーダは、俺かマイアと同室にしてほしい。
ひとりにすると、何をしでかすかわからんからな。
そんな不安をサタナに伝えると、マイアと同室となった。
「わたしといっしょでもいいよー!」
なんて、サタナも立候補していたけど、アイーダは、ファイティンポーズを取って拒絶していた。
さっき、シッポを思い切り掴まれたことで、相当頭に来ているらしい。
俺は、サタナとの2回戦目を始めないようにアイーダを落ち着かせてから、案内された部屋に移動した。
ペルサキス家の客室は、俺の知っている通りの部屋だった。
剣を振り回せるほどの広さに、机やイス、ベッドにソファーなどが置かれている。
トイレとバスルームはついていないけど、それ以外は高級ホテル並みの設備だ。
俺は部屋を一回りしてから、旅の装備を外し、室内用の服に着替えると、食事をする部屋へと向かった。
俺たちが集められたのは、ペルサキス家のダイニングだった。
10人は座れるテーブル席のイスにみんなが座っている。
上座の位置に当主であるディモステニスが座り、妻であるサタナと長女であるファータが、その前の席に向かい合うように座っている。
リーゼはファータの横だ。
きっとサタナの隣に座ると、判別がつきにくくなるからだろう。
ちなみに俺はそのサタナの隣だ。
なぜかって?
アイーダが、サタナに飛びかかっても止められるようにだ。
サタナなら杖がなくても強力な魔法が使えるので、アイーダを撃退することはできるだろう。
だけど、当主の妻に何度も飛びかかるというのは、部屋を借りている立場ではよろしくない。
もしもアイーダが攻撃の意思を示すなら止める必要がある。
というわけで、俺の席はサタナの隣になった。
他のメンバーはというと、俺の斜め前にはウェルンが座り、その横にマイアとアイーダという席順で座っている。
ルナは俺の横だ。
これでパーティメンバーは全員……
「あれ?
そういえば、リュウは?」
「……本当だ、お兄ちゃん、いつの間にかいなくなってるね」
気づかなかった。
さすがは『忍びの里』出身だな。
気配を消して、俺たちを守ってくれているのかな?
俺とマイアがリュウの姿を探してキョロキョロしていると、
「あー、たぶん門から先に来られなかったのね。
あの門、基本的には家族の知り合いしか通さないように、魔法がかかってるから」
「そういうことか」
ってことは、リュウは門の外で置き去りになっているのか。
すまん、リュウ。
しばらく待っていてくれ。
「揃っておるな」
ディモステニスが俺たちを見渡して口を開いた。
「では、ただいまより!
リーゼちゃんおかえりパーティーを開始する!!」
「「いえーい!!」」
「ちょっ!?
なんですか、その名前は!!」
リーゼがくってかかっていたけど、ペルサキス家の人々は無視していた。
「積もる話もあるだろう。
食事をしながら、楽しんでいってくれ!!」
「いや、それよりもなんであたしのおかえりパーティーに……」
リーゼはなおも食い下がっていたけど、ディモステニスが指を弾くと、猫耳のメイドさんたちが料理を運んできたため静かになった。
コース料理ではなく、大皿から取り分けるスタイルだ。
和食、洋食、中華、イタリアン、フレンチ……
多種多様な種類の料理が並んでいる。
「おぉぉぉぉぉぉ!!
食べるのだ!」
アイーダは小皿に取り分けることなく、大皿に飛びついていた。
はしたないと思ったけど、ペルサキス家の人々が誰も気にしていないようだったので、そのままにしておいた。
「わたしは、アレとアレにしよ〜」
サタナが指を動かすと、大皿の上の料理がわずかな分だけ宙に浮き、サタナの小皿の上にキレイに盛りつけられた。
さすがの魔法制御だ。
ちなみに他のペルサキス家の人たちは、俺たちと同じようにトンガを使って、料理を移している。
あんな芸当ができるのは、サタナだけのようだ。
そのあとしばらくは、皿にナイフとフォークがこすれる音だけがしていた。
「それにしても、リーゼちゃんが家出するなんて思ってなかったなー」
口を開いたのはサタナだった。
家出と聞いて、ルナとマイアとウェルンが反応する。
「リーゼ……家出して、ヘイムダルに来てたの?」
代表してマイアが質問すると、リーゼはフォークを置いた。
「家出なんてしてないわよ。
ちょっと修行に出てただけだってば。
置き手紙もちゃんとしていったわ。
そうですよね、お母様?」
「そうだったね。
行き先が何も書いてなかったから、すぐにディモスの涙と鼻水でぐちゃぐちゃにされちゃったけど」
「泣くに決まっておろう!
愛しのリーゼちゃんがある日突然いなくなったのだぞ!
心配でしばらく眠れなかったのだ!!」
「そうよねー。
せめて、ちゃんと挨拶してからしてほしかったなーって、お姉ちゃんも思ったよ?」
「う……ごめんなさい」
家族から一斉に責められて、リーゼは素直に謝っていた。
「だけど、連れ戻さなかったのは英断だったかもね。
リーゼちゃん、すごく強くなって帰ってきたから」
「ふふふ……やっぱり、お母様にはわかってしまいますか?」
「おやおや、自信たっぷりだねー。
家出する一週間前におねしょしてた子とは思えないよ」
「お母様っ!?」
リーゼは耳まで真っ赤になっていた。
サタナに詰め寄ろとしたけど、テーブルが邪魔でそれ以上は進めず、仕方ないと言った様子でイスに座り直していた。
「そんな大昔の話は忘れました。
あたしはそれだけ強くなったんです!」
「そうだねー。
じゃあ、勝負してみよっか」
「はい?」
「わたしとリーゼちゃんで勝負」
「…………」
突然のサタナの提案に、リーゼは一瞬で顔を真っ青にさせていた。
「お、お母様……」
いくら強くなったと言っても、まだお母様ほどでは……」
「えー、そんなことないと思うけどなー。
それとも、怖いのかな?」
「怖くはありませんよ。
ただ、お母様には勝てないのは戦わなくてもわかりますから……」
「違うよー、そうじゃない。
カレシ君の前で、母親に負けるのがイヤなだけじゃないの?」
「へ?
カレシ?」
リーゼはぽかーんとしていた。
俺もサタナの言葉が理解できなかった。
リーゼと彼氏になるキャラクター?
そんなやつ『ヴレイヴワールド』には、いなかったと思うけどな。
異世界だとそのあたりの設定も変わったのか?
「ん?」
あれ?
なんでみんな、俺を見ているんだ?
「貴様っ!!!
やはりリーゼちゃんに手を出していたか!?」
大声を出したのはディモステニスだった。
待った待った……!
もしかして、俺がリーゼの彼氏だと思われている?
なんで?
「ち、違います!
ミツキはそういうのではなくて……」
お、リーゼが反論してくれるようだ。
「彼氏とかではなくて……いっしょにいると楽しいというか、強くなれる気がするから、いっしょにあげているだけです。
特別な関係とか、そんなのじゃ全然ありません!!」
ふむ?
俺は単純に冒険者の仲間だと言ってくれればいいと思っていたんだけど、リーゼにとっては少しニュアンスが違ったようだ。
まあ、彼氏ではないと伝わったならいいだろう。
「ふーん……」
けれど、サタナはどこか不満そうだった。
「お母様、まだ何か?」
「じゃあさ、リーゼちゃん。
その杖、お母さんにちょうだい?」
「な、なんでそうなるんですか!」
リーゼはイスに立てかけていた『魔鏡の杖』を両腕に抱え込んだ。
「これは、あたしの魔法を強くしてくれる大切な杖なんです!」
「うん、わかってるよー。
だからこそ、取り上げなくちゃいけないの。
その杖は、強すぎる。
あなたの成長を妨げるわ。
だから──渡しなさい」
「…………!」
突然、サタナの背後の空気が揺らめく。
膨大な魔力が怒気と共に放出され、幼子の体躯を何倍も大きくしているような錯覚を覚えるほどだった。
隣に座っている俺が見えない空間に押しつぶされているかのような気になるんだから、真正面から受けているリーゼは、そのまま倒れてしまっておかしくないほどの圧力を受けているだろう。
ディモステニスとファータもこうなるとお手上げなのか、サタナに何も言ってはくれない。
圧倒的強者の威圧を誰も止められないで、何秒すぎたか。
その圧力を止めたのは、夫であるディモステニスでも、長女であるファータでも、俺やアイーダでもなく、リーゼ本人だった。
「わかり、ました」
震えるような声で、けれど、目には炎のように闘志を燃やして、隠しボスの実力を持つ母親とまっすぐに向き合っていた。
「たとえ、お母様にでも、この杖は渡せません。
決闘でも何でもしてあげるわ!!」
「へー……リーゼちゃん、本当に強くなったのね」
サタナは嬉しそうな笑みを浮かべて、周囲に放っていた魔力を引っ込めた。
「じゃあ、やりましょうか。
あ、助っ人ありでいいよー。
それでも勝てっこないと思うけどねー」
「望むところ!
絶対に勝つ!!」
リーゼはそう宣言したあと、俺をじっと見ていた。
どうやら、俺はリーゼとタッグを組んで、サタナに挑むことになりそうだった。
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