第91話 『プラチナ』ランク

『ヴレイヴワールド』では冒険者のランクにそれぞれ名前がついている。


 それはこの世界でも同じだった。


 ランクは下の立場から順に『ストーン』『アイアン』『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』となっていて、それぞれのランクの大まかなイメージは……


『ストーン』は駆け出し。


『アイアン』は一般の冒険者。


『ブロンズ』は冒険者の中でも実力のある者。


『シルバー』はエリートかもしくはベテランの冒険者。


『ゴールド』はその街を代表する冒険者──といった具合になる。


 その『ゴールド』へいたるまでの道のりは決して華々しいものばかりではなく、長年、冒険者ギルドからの依頼をコツコツとこなしたり、突如出現した凶暴なモンスターを倒したりといった、苦難を乗り越えて進んでいくものだ。


 そういった活動をしていく中で、ギルドの職員や冒険者、街の人々から頼りにされることで、『ゴールド』という輝かしいランクを手に入れられる。


 ……そう、『ヴレイヴワールド』ではそういった設定も追加したはずだ。


 それで、


「なんで『ゴールド』をすっ飛ばして、『プラチナ』にランクアップしてるんだ?」


 俺は突然のランクアップの発表のあと、ステージを降りてアグハトに詰め寄っていた。


「なんでって言われても、オレが申請しておいたんだよ。

『ランクスキップ申請』は『ゴールド』の特権だからな!」


 それは知っている。


『ランクスキップ申請』は『ヴレイヴワールド』にはないシステムで、通常1つずつしか上げられない冒険者のランクを一気に上げられるというものだ。


『ゴールド』以上の冒険者か同等以上の立場の者が、自分以外の冒険者に対して行えるものらしい。


 俺も王都では、お姫様であるアレクシアの書状があったから、いきなり『シルバー』スタートになった。


「だけど、それって『シルバー』を『プラチナ』にすることもできるのか?

 お前の……『ゴールド』のランクを超えてるじゃないか」


「現にできてるだろ?

 オレが提案しても、誰も止めなかったぜ」


 アグハトの視線の先には、アレクシアとギルドの職員がいた。


「ミツキ様には王都だけでなく、バーラまで救っていただきましたから」


「アグハトさんや姫殿下からご提案がなければ、我々職員がギルドの本部に申請を出すところでした」


 権限のある者たちは、みんなグルだったようだ。


「そういうこった。

 というかな、200年前に大暴れした元『魔王軍』の幹部レベルを何体も倒している時点で、兄ちゃんは偉人なんだよ。

 世が世なら、もっと上に申請したかったくらいだ」


 アグハトの言葉に、アレクシアとギルドの職員が「うんうん」とうなずいている。


 もっと上というのは、『魔王軍』が存在したときに創設された特別なランクのことだろう。


『ミスリル』と、そして『オリハルコン』。


『ヴレイヴワールド』では魔王討伐のための選りすぐりの冒険者に与えられたランクになる。


 まさに本物の英雄の称号。


 200年前の『魔王軍』との戦いで導入された制度で、新しく任命されることはなくなったランクだけど、今でも長寿の種族が保有している。


 そんな例外を除けば、『プラチナ』は冒険者の最高位となる。


 イメージとしては、その国で1番の冒険者だな。


 ランクアップの条件は、ただ強いだけでなく、世界や国の危機を救うほど依頼を達成することなのだが……


 確かに、アグハトたちの言うようにやってしまっているな……


 しかし、『プラチナ』か。

 

 国の代表の冒険者なので、いろいろと融通が利きやすいのは確かなんだけど……


 それ以上に面倒に巻き込まれるイベントが発生する。


 本来なら通過するだけの街でも厄介事に巻き込まれ、国の代表として、解決するまで進めなくなることもある。


 そうなれば、俺の目的である女神と会うのも遅れてしまう。


 バーラのような、攻略上必要な街に滞在するならともかく、不要な街で長時間拘束されるのは勘弁してほしいんだよな。


「俺もルナたちと同じ『ゴールド』のほうがよかったなぁ……」


「兄ちゃん、諦めろ」


 アグハトがこっそり耳打ちしてくる。


「姫様の決定を覆すんだ。

 どうなるか、わからないわけじゃないだろう?」


 そうだな……悲しませでもしたら、すべての国民から殴られても文句は言えない。


 パレードや式典での人気を見ればわかりきっていることだ。


「それにな、これだけ大勢がいる場で、大々的に発表したんだ。

 今さら取り下げなんてできないぜ」


 それは、冒険者たちが勝負を挑んできたからで、そのあとに発表したのはアグハトなんだけど……

 

「……もしかして、ハメた?」


「さぁて?

 酒の席で発表したほうが盛り上がるとは思っていたけどな」


 むぅ……そうなると、強く非難できないな。


「せっかく、もらったものだ。

 ちょっと扱いづらいけど、受け取っておくよ」


「ハハッ、そうか!

 兄ちゃんなら受けてくれると思ってたぜ!!」


 アグハトはそう言って俺の背中を叩いた。


「まあ、面倒に巻き込まれるかもしれんが、兄ちゃんなら大丈夫だ。

 それに、悪いことばかりじゃねぇ。

『プラチナ』ランクの冒険者は、世界を見渡しても少ないからな。

 人気者になれるぜ」


「人気者ねぇ……」


 その割には、俺の周囲に人垣はできていないんだよなぁ。


 理由はわかっている。


 みんな少し離れたところに集まっているからな。


 そこには『ゴールド』になったばかり少女たち3人……ルナたちが、宴に参加した人々からお祝いの言葉をもらっていた。


 ……なんで俺のところには、筋肉ムキムキマンしかいないのかな?


「嬢ちゃんたちの人気がすごいのは今に始まったじゃないだろう?」 


 とはいえ、『プラチナ』になっても負けるとは……


 ここが『ヴレイヴワールド』ならもう少し……


 いや、あんまり変わらないか。


「なーに、心配すんな。

 そのうち兄ちゃんにだって──」


「おーい、ミツキー」


 遠くから俺にの名前を呼ぶ声がした。

 

 ルナでもリーゼでもマイアでもない声。

 

 誰だ?


 声のした瞬間、ピカッと光が走り、虹色の巨竜が出現──


 って、何やってんだ、アイーダ!?


 会場の各所から、人々の悲鳴が上がる。


「おいおい、竜の嬢ちゃんはどうしたんだ?」


 アグハトは、正体を知っているので、驚きよりも困惑の表情でアイーダを見ていた。


「知らん。

 が、さっさと人の姿にしたほうがいいな」


 パニックで、ケガ人が出ても困る。


 俺はすぐさま騒ぎの原因に駆け寄った。


「アイーダ、どうした?」 


 竜神だが、アイーダは人の社会も知っている。


 そのアイーダがいきなり竜の姿になったんだ。


 何かあったのは違いない。


 もしかして、アイーダをどうにかできるやつが現れたのか……?


「頭がフラフラするのだー……」


 アイーダは長い首を地面に投げ出し、地面を揺らしていた。


 操られたのかと思い、顔をじっと見て、気づいた。


「お前、顔赤くないか?」


「ッ!?」


「……まさか」


「ち、違うのだ!

 我は酒など飲んでないのだ!!

 透明な水……アンダイン泉の水を使った飲み物だからと渡されただけなのだ!!!」


「……本当のことを言うなら、鱗チクチクはやめてやるぞ?」


「酒を配っている者を見つけたので、もらってきたのだ!!」


 コイツ……


「酒の魔力には抗えないのだ!

 許してほしいのだ!!」


「……あとで会場にいる人たちにも謝るんだぞ?」


「も、もちろんなのだ!」


「約束したぞ。

 次は破るなよ?

 じゃあ、口開けてくれ。

 魔法で水を飲ませてやるから、早く酔いを醒ますんだ」


「はいなのだ!!」




 その後、酔いが冷めたアイーダは竜の姿のまま、会場にいた人たちに頭を下げた。


 宴は再開、となったのだが、俺の『プラチナ』昇格の祝いに来る者たちの数は少なく、その上、みんなそそくさとどこかへ行ってしまった……


 なんか避けられてる?


 ぽっと出の冒険者だから、気に入らないのかな?


 まあ、面倒な人付き合いとかしなくていいから楽だけど。


『プラチナ』になったが、俺の冒険者生活にはあまり変わりはなさそうだった。




------------------------------------------------------------------------------------------------

※おまけ


アレクシア「ミツキ様は、竜も手懐られたのですか?」


ルナ「はい。アイーダという名前で、人の少女の姿にもなれます」


アレクシア「そうですか、少し離れていだけなのに……ずいぶんと遠い存在になられてしまったようですね……」


市民A「ドラゴンを従えてる!?」


市民B「触らぬ神に祟りなしだな……」


アグハト「……兄ちゃんは相変わらずだな……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る