第89話 パレードと酔っ払い

 パレードが始まった。


 荷台の屋根が取り外れた10台の馬車に、俺たち『グレイスウインド』の面々、アレクシア、街の防衛に尽力した冒険者、救出された街の人々、パレードの演奏を担当する管弦楽団のメンバーが乗っている。


 想像していたよりも大掛かりだ。


 準備に時間がかかるわけだな。


 俺たちの乗っている馬車には、他にもアレクシアと、バーラの街の行政担当官が乗っている。


 行政担当官は、バーラの街の町長に当たる人物だ。


 バーラの街は『ゴールド』ランクの冒険者であるアグハトがほとんど仕切っているのであまり表には出てこないが、バーラの街の運営や、他の国や街との交渉役などの仕事をしている。


『ヴレイヴワールド』では、ヒゲの生えた恰幅のいい男性のモデルで、どちらかというとパン屋の店長のような外見だったのだが、実際に目の前にいると、やり手の商人のような印象を受けた。


「フォッフォッフォッ、今日はよろしくお願いしますね」


 パレードが始まる前に、丸っこい顔に笑みを浮かべて挨拶された。


 こちらも挨拶を返しつつ、荷台での立ち位置を決める話になった。


 無難に、「アレクシア、町長、ルナたち、俺の順でいいよな?」と確認したら、


「「「ミツキが最前列!」」」


 ルナたちに猛反発され、


「ミツキ様が一番前がよいかと」


 アレクシアには笑顔で微笑まれ、


「主役は一番目立つところでないと……

 私は最後尾で後ろを向いて立っていますので……」


 町長には一番目立たない場所を確保されたので、そうするしかなかった。


 普通は、街での権力者が一番目立つところだと思ったんだけど?


 まあ、アレクシアと町長がそう言うのならそうするしかない。


 荷台の幅の関係で、ルナたちも隣に立つことになったので、俺だけが悪目立ちすることもないだろう。


 それに、俺の前には人の姿になったアイーダがいる。


 背が低いので、俺の姿を隠したりはできないが、美少女なので俺よりも目立ってくれるはずだ。


 このパレードだが、馬車の順番も決まっていて、先頭の馬車は管弦楽団の第一部隊の馬車で、その次がアグハトを始めとする街の防衛に尽力した冒険者たちが乗っている。


 アグハトは最初「俺はむしろ恨まれる立場なんだが……」と渋ったらしいのだが、街の冒険者全員が、アグハトが馬車に乗らないなら参加しないと言い出したので、折れたのだと、町長が教えてくれた。


 愛されてるな、アグハト。


 この式典が終わったら、もう一度パーティに誘ってみようと思っていたんだけど、答えは変わらなそうだ……


 そんなアグハトたちが乗る冒険者の馬車が2台ほど続き、管弦楽団の第2部隊の馬車、そのあとにミーリアを始めとする、救出された街の人たちの馬車がやってくる。


 体調なども考慮して、『希望する人のみ参加』にしたのだが、全員から馬車に乗りたいと要望があったらしい。


 どうやら、街の人たちに無事を知らせたり、感謝を伝えたかったようだ。


 荷台に乗っている人々は、「ただいまー!!」「ありがとう!!」と街頭でパレードを見に来た人々に声をかけている。


 その人々が乗った数台の馬車のあとに、管弦楽団の馬車が一台入り、いよいよ、俺たちの乗った馬車がやってくる。


 といっても、やることは特にない。


 どうもどうも。


 冒険者のミツキです。


 あ、はい、次はこっちね。


 どうもどうも。


 そんな感じで街の人々に笑顔で手を振っていく。


 前に来た世界では、取引先との挨拶や打ち合わせ、そのあとの懇親会という名の飲み会にも出ていたこともあるので、それの応用だと思えばなんてことはない。


 そんな俺の前では、アイーダも両腕を大きく振って、ちゃんと歓声に応えている。


「フハハハハハ……人がゴミのようなのだー!」


 ……竜神が言うとシャレになっていない気もするが、パレードの最中なので何も言わずにおこう。


 ルナ、リーゼ、マイアは、少し笑顔が硬いものの、ちゃんと手を振って歓声に応えている。


 そして、やはりと言うべきか、人気がすごい。


 ルナ、リーゼ、マイアが通り過ぎるときは、街頭にいる男たちがどよめき立ち、時にはひと際大きい歓声を上げている。


 女性にもファンがいるようで、黄色い歓声も聞こえてきた。


 それに負けず劣らずで、アレクシアもかなりの人気だった。


 老若男女問わず、歓声を上げている。


 中にはその場で平伏する一団もいたくらいだ。


 アレクシアの人徳によるものだろう。


 本当、ルナ、リーゼ、マイア、アレクシアの人気がすごい……


 …………


「なぁ、ミツキ……思ったのだが」


 さっきまでは楽しそうに腕を振っていたアイーダは、真顔になっていた。


「我らはいなくてもよいのではないか?」


「……思うだけにしておけ」


 俺だって気づいてたさ。


 俺やアイーダがいなくても、この歓声に変わらなかったって。


 ルナ・リーゼ・マイアは、実力のある美少女冒険者としてバーラの街でも知られている。


 アレクシアは、この国のお姫様だから、知らない人はほぼいない。


 人気が高い。


 だから、歓声も上がる。


 それもあって、目立たないようにしたかったのに……


 今から俺も町長と同じように、荷台の後部で後ろにいけないかな。


「ミツキ、手が止まってるわよ」


 あ、はい。


 リーゼに言われて、手を振り直す。


 アイーダも腕を止めていたので、その腕を掴んで一緒に振ってやる。


 ……さすがに怒るか?


 いや、全然違うところを見ているな。


 いったい何を……道に並んでいる出店だな。


 行けるようになったらすぐ行けるよう、目星をつけているのか?


 意外と抜け目がない。


 まあ、食べに行けるのは、かなりあとになりそうだけどな。



 アイーダの腕を振っているうちに、パレードの馬車はバーラの街を一周した。

 



 パレードが終わると、少し時間をおいて式典となった。


 正式には『バーラの平和に感謝する会』らしい。


 冒険者ギルドの職員が司会を務める中、アレクシアや町長などが、今回の魔族の襲撃からバーラとヘイムダル王国の今後について話しつつ、人々に団結と平和を語りかけてくる。


 若干演説のようになっていたが、いいスピーチだった。


 街の人々からも歓声が上がっている。


 会場が徐々に温まっているのを感じる。


 …………


 もうすぐ俺の番だ。


 いろいろ考えてカンペまで用意してきた。


 心を落ち着かせろ、大丈夫だ。


 しっかりやればできるはず。


 よし、行こう。


 会場に集まった人々からの拍手を受けながら、スピーチを終えた人が壇上から降りてくる。


 そして、俺の出番がコールされ……


「それでは、式典は以上となります。

 皆様、お集まりいただき、ありがとうございました」


 ……え?


 俺、まだ何もしゃべってないんだけど?


 これで、おしまい?


 どうして?


 俺のスピーチがあるんじゃ……


 ……あれ?


 アグハトが壇上に上がったな。


「んじゃあ、堅苦しいのはこのくらいにして……ここからは騒いでいくぞ!!」


「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


「宴の始まりだ。

 今回の主役から、音頭をいただくぜ!」


 アグハトはそういうと、俺に視線を投げた。


 え、マイクなし?


 しかも、音頭……?


 そんなの聞いて……あ、まさか……気の利いたこと言えってコレの事だったのか?


 せっかく、イイ感じのスピーチ考えてきたのに……!


 いや、アグハトに殴り掛かるのは後だ。


 それよりも早く音頭を……アグハトが俺のほうを見たせいで、会場中の視線がこっちに……


 な、何を言えば……


 えーっと、


「──街の平和に乾杯!!!」


 あらん限りの大声で俺はなんとかそれだけの言葉を振り絞った。




「いやーよかったぜ、兄ちゃん!」


 会場で立食パーティーが始まったあと、いい笑顔でアグハトが俺のところへとやってきた。


「いろいろとやってくれたな?」


 俺がちょっとだけ恨みがましさを混ぜて返事をすると、アグハトは「はっはっは」と笑い出した。


「いや、悪い悪い。

 だけど、オレは一言も兄ちゃんに堅苦しい挨拶を頼んだ覚えはないぜ?」


「あの頼み方はどう聞いてもスピーチの依頼だっただろう。

 乾杯の音頭ならもっと別のを用意しておいたのに……」


「まぁまぁ……会場は盛り上がったなら、大成功じゃないか」


「勘違いさせたくせに、よく言う……」


 アグハトがコップを差し出してきたので、俺も仕方なく近くのテーブルからコップを持ってくる。


「かんぱーい!」


 コップに口をつけると、リンゴのような果汁がすっと喉を通っていった。


 周囲を見渡すと、俺たちと同じように乾杯している人々の姿が見える。


 まぁでも、アグハトがさっき言ったとおりだった。


 会場が盛り上がりつつ、食事が始まったので、あれでよかったのだろう。


 アイーダは、すぐにどこかへ行ってしまったからな。


 俺たちの用意した食材に加えて、他の冒険者たちも大量に用意していたので、いくらアイーダでもすべてを食べきることはないと思うけど、気にしておこう。


 ちなみにここでの料理のお代はすべて冒険者ギルドが出している。


 何でも、ギルドに臨時収入があったとかで、街の復興費用に当ててもまだ充分に余裕があったので、そこから支払われているようだ。


 街に入ってきたモンスターの素材が全部売れたのかな?


 ともあれ、みんなが喜んでいるので、これでよかったんだと思う。


 ルナたちも、今はアレクシアやミーリアと談笑している。


 アレクシアは元々こういった宴会にもよく顔を出しているので、うまく溶け込んでいるようだ。


「兄ちゃんは行かなくていいのか?」


 アグハトはルナたちを指さしていた。


「ガールズトークに水を差すことはないだろう。

 俺はここで料理を堪能させてもらうよ」


 ランページボアの薄切り肉を皿に載せていく。


 臭みを取って、香草で味付けしてあるからこの世界の料理の中ではかなりおいしい部類に入る。


「まあ、兄ちゃんがそれならいいけどよ。

 そろそろ来ると思うぜ?」


「何が?」


 肉を食べていると、「あの……」と声をかけられた。


 そちらに目を向けると、歳は14~18くらいだろうか。


 3人の少女がそわそわした様子で俺を見ている。


 顔に覚えがないので、『ヴレイヴワールド』のネームドキャラクターではなく、バーラの街の住民だろう。


 何か用事かな?


「助けていただき、ありがとうございました!」


 1番背の高い少女が頭を下げるのに合わせて、2人の少女が頭を下げる。


 ふむ、お礼に来たようだけど……


「人質を助けただろ?」


 アグハトにこっそり教えてもらった。


 あー、エンプサの誘拐事件か。


 その中にこの子たちがいたと……


「元気になったみたいで安心したよ。

 もう体調は大丈夫?」


「は、はいっ!」


 元気な答えが返ってくる。


 人質は閉じ込められていただけなので、外的な傷などはなかった。


 だけど、その際の心理的なものはわからないから、気をつける必要があった。


 ま、本人たちが大丈夫だと言うのなら、ひとまずは心配いらないだろう。


「それはよかった。

 じゃあ、いっしょに向こうへ行こうか。

 ルナたちも、キミたちの元気な姿を見たらきっと喜ぶ」


 皿に料理も載せ終わったので、移動するにはちょうどいいタイミングだった。


 あそこにはアレクシアもいるけど、少女たちにはそんな気張らないように伝えておけば……


「ミ、ミツキ様……!」


「ん?」


 ルナたちのところへ行こうとすると、少女に呼び止められた。


 そして、何やら緊張した面持ちで、見つめてくる。


 なんだろう?


「えーっと、わたしたちを、あなたの……」


「──ミツキィ!!」


 少女たちが何か言おうとしたところに、リーゼがやってきた。


「なんでひとりでこんなところにいるのよ。

 早くこっちに来なさい!」


「ああ、今、この子たちと行こうとしてたんだ」


「んー?

 誰よ?」


「誘拐された子たち、ルナたちにもお礼を言いたいんだと思う」


「そうなの?」


 リーゼが尋ねると、少女たちは「はい……」と小さな声で返事をした。


「ふーん……」


 リーゼは少女たちをじっと見たあと、その耳元でぽつりと何かをつぶやいた。


 少女たちはビクっと体を震わせたが、俺とリーゼが移動すると大人しく後ろについてきた。


「何を吹き込んだんだ?」


「あら、気になるの?」


「そりゃな。

 あの子たち、さっきまで俺に何か言おうとしてたのに、急に大人しくなった。

 怖がらせるようなこと、言ったんじゃないだろうな?」


「失礼ね。

 大したことは言っていないわ。

 だけど……そうね。

 しいて言うなら、目を覚まさせる魔法を使ってあげたわ」


「なんだ、それ?

 彼女たちは睡眠状態じゃなかったはずだが……」


「……そういうところよ。

 激ニブだから、って言っておいたの」


「ゲキニブ?

 そんな魔法あったっけ?」


「……そうねー、魔法だったらよかったわねー。

 なんでもいいから、アンタはこっちで食べてなさい。

 あたしは、あの子たちを連れてくから」


 リーゼは「はぁ……」とため息をついて、少女たちをルナとマイアのところへ連れていった。


 よくわからないが、リーゼがうまく対応してくれたようだ。


 よかった、でいいのかな?


「嬢ちゃんたちも難儀だねぇ……」


 一緒についてきたアグハトがそんなことを言っていたが、どういう意味だったんだろう?




 さて、この立食パーティーだが、料理の他にも各種飲み物が振る舞われる。


 アンダイン泉の水もそうだが、果物ジュースや、酒類なども多数揃っている。


 そう、お酒もある。


 なので、パレードが終わった際に、アイーダには、飯はいくらでも食べていいが、酒だけは飲むな、飲んだら鱗ツンツンな、と言ってある。


 とりあえず、勝手に飲んで竜になったりはしないだろう。


 ルナ、リーゼ、マイア、アレクシアは、ゲームの設定がそのまま反映しているようなので、お酒は飲まない。


 俺は飲んでも大丈夫だが、アイーダにきつく言ったのと、ルナたちが飲まないのに自分だけ飲むのも気が引けたので飲んでいない。


 アグハトもこのあと宴の後片付けがあるので飲まないそうだ。


 会場にあるのはアンダイン泉の良質な水を使ったお酒なので、大層うまいらしいが、またの機会だな。


 そんなわけで、この場にいるメンバーで飲んでいるのは、アグハトの婚約者であるミーリアだけだった。


「この人ったらねー、本当にひどいのよ。

 私のことよりも冒険者だとかのほうが大事だとか言って、全然会いに来てくれないしー……」


 顔を赤くしながらアグハトとの過去を立て板に水のように話し続けている。


 ルナとマイアとアレクシアはその話に熱心に相槌を打っている。


 リーゼは、話題が男の気をひく方法になると、耳を澄ましている感じだ。


 異世界でも女の子は恋バナに興味津々のようだな。


「酒癖はいいほうなんだけどな……」


 アグハトは諦めた顔で飯を食っていた。


「止めなくていいのか?」


「ああなったミーリアは誰にも止められん。

 オレの家に来たときに見ただろう?」


 そういえば、アグハトが止めてもミーリアはいろいろ話していた気がする。


 ルナが熱心にメモを取っていたのも覚えている。


「オレの評判が悪くなるだけなら、好きなだけ話せばいいさ」


 器のデカイ男だ。


 それはさておき、お酒があることも関係しているのか、会場のいたるところで大声が聞こえるようになってきた。


 本日は無礼講だが、血気盛んな者も多い場だ。


 騒ぎの起きる可能性を考えると、俺も飲まなくて正解だったかもしれない。


「冒険者の連中には、羽目を外しすぎないように言っちゃいるが……

 今日ばかりは仕方ないからな。

 うまいこと、流血沙汰にならないように対処するだけだ」


 アグハトも気にしているようだった。


 俺も酒は控えつつ、料理を楽しむとしよう。


「──ミツキ殿はいるかァ!」


 肉をもう1回盛ろうとしたところで、冒険者の男たちがこちらへやってきた。


 なんだ?


「ミツキは俺だけど?」


 返事をすると、冒険者たちは俺の前で立ち止まった。


 全員、顔が赤い。


 かなり酔っているようだ。

 

 さっきのアグハトの言葉が脳裏をちらつく。


 何かやってくるのか……


 念のため警戒しておこう。


 そう思っていたら、冒険者たちは一斉に頭を下げた。


「ミツキ殿、バーラを助けてもらって感謝する!!」


「あ、ああ……」


 仰々しい様子だったが、お礼を言いにきただけなのかな?


 それなら、しっかりと受け取っておこう。


「どういたしまして。

 この街の防衛は大変だったみたいだけど、ケガとかはもう大丈夫なのか?」


「そっちについては心配はいらない。

 女神……アリアンフロド様にも見てもらったからな。

 ミツキ殿もケガはないよな?」


「ああ。

 魔力も万全だ」


「それはよかった。

 ならば──戦おう!!」


「…………は?」


「俺たちと、戦ってほしい!!」


「…………」


 いや、聞こえなかったわけじゃないんだ。


 なんで戦うことになったかわからなかったんだよ。


「理由を聞いても?」


「ミツキ殿に勝って、女神たちをもらい受けたい!!」


「女神……?」


 って言うと、俺が会いたがっている女神……じゃないな。


 冒険者たちの目はルナたちがいるほうを見ている。


 3人は熱狂的な冒険者に、女神として信奉されている。


 その設定は『ヴレイヴワールド』でもあった。


 だから、ここにいる冒険者たちは全員ルナたちを女神として崇めている勢力なのだろう。


 …………


 30人以上いるけど?


 中には『シルバー』のランクの冒険者も混じってるし。


 同じ『シルバー』だけど女神として崇めているのか……


 それはまあいいとしても、ルナたちをもらい受けたいってどういうことだ?


「……一応確認なんだけど、彼女たちは俺をパーティに入れてくれただけだぞ?

 そもそも彼女たちをどうこうする権限は俺にはないし」


「もちろんだとも!

 女神は何者にも束縛されない……それが女神たるゆえんのひとつ!!

 しかし、最近はミツキ殿に付き従っているように俺たちの目には映るんだ!」


 そーだそーだと後ろの冒険者たちの相槌が聞こえる。


「ミツキ殿を倒せば、女神たちはまた俺たちに微笑んでくれるかもしれない!!

 ぶっちゃけ独り占めしているようでずるい!

 だから、俺たちと勝負をしろ!」


「えーっと……」


 いろいろ言いたいことはあるが、最初に確認しておこう。


「別に俺と勝負して勝ったところで、何か変わるわけじゃないと思うけど?」


「それでもだ!

 ここで俺たちのほうが強いことを証明することに意味がある!

 ぶっちゃけ、あんなキレイな女神たちといちゃいちゃできてズルい!

 俺はアンタを本気で殴りたいだけだ!!」


 別にいちゃいちゃしているわけじゃないんだが……


 かなり酔っているから、何か言ってもダメだろうし……


 うーん……


「なら、やってみるか?」


 俺が悩んでいると、横からアグハトがそんなことを言い出した。


「ちょっ……!

 流血沙汰はお断りじゃなかったのか?」


「ああ、もちろん困るぞ。


 だけど兄ちゃんなら、コイツら相手でも無傷で完封できるだろう?」


「いや、無傷は難しいぞ……」


 相手をケガさせないとなると、使える練術や魔法も限られるし。


「完封できるのは否定しないんだな……

 まあ、オレとしては戦ってくれると助かる。

 酔ったバカどもの目を覚まさせるのもあるが……ここいらを血の海にしたくないんでね」


 アグハトがアゴで何かを指した。


 そちらに視線を向けてみると──


 ルナとリーゼが、わかりやすいくらい苛立っていた。


 ルナは、『凶神の使徒バーサーカー』発現時の赤い光が少し漏れているし、リーゼはレべル6の魔法をぶっ放せそうなくらい魔力を溜めている。


 マイアはルナやリーゼほどではないが、困ったような顔をしているので、あまりよい感情を冒険者たちに抱いていないだろう。


 そうだよな、勝手に女神扱いされたと思ったら、俺のモノ扱いされればそうなるよな……


 うん、今の状態で断ったら、このあとの冒険者たちが危ない。


 俺が頑張るしかないな。


「場所はどうする?」


「できれば、ステージの上で。

 サプライズの見世物ってことにほしい」


「また狭くて戦いにくい場所を……

 とはいえ、アレクシアもいるから仕方ないか」


 街を救った俺が冒険者たちに袋叩きにあっている現場だと思われたら、バーラの街のイメージも悪くなるだろう。


「すまん、迷惑をかける」


「乗りかかった船だ、気にするな。

 それよりも、悪い感じにならないようにちゃんと演出してくれよ」


「おう、そっちは任せな!」


 アグハトとの打ち合わせは終わった。


 冒険者たちに向き直る。


「お前たちの言いたいことはわかった。

 勝負しよう」


「おお……」


「だけど、ひとつ条件がある」


「なんだ?

 こっちが不利にならないものなら何でもいいぜ」


「面倒だから、一気にかかってこい。

 お前たち全員に格の違いを見せてやる」


「──っ!?」


 煽りは見事に成功。


 冒険者たちは酔った顔をさらに赤くして、怒号に似た雄たけびを上げながら、我先にとアグハトの誘導でステージに上がっていく。


 総勢32名。


 狭いステージに無傷で完封という条件だが……


 ま、やるしかないな。

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